魔物の中には、魔術師と同じように魔術的な力を行使する者たちがいる。
遭遇する数こそ少ないものの、危険極まりない敵である事が多いので対峙するときは細心の注意が求められる。
どうやらキルシュはこの存在を脅威とみなし、報酬額の引き上げを求めたようだ。
「お待たせしましたキルシュ師、ザイフェルト殿。こちらが依頼の契約書となります。御確認ください」
応接室に戻ってきたディーゼルが、契約が記載された羊皮紙とインク壺、羽ペンをテーブルの上に置いた。
キルシュがそれに目を通し己の名前を記載すると、俺の方に契約書を渡してきた。
「じゃ、ザイとディートリヒ君も目を通して記載内容に問題がないならサインよろしくね」
契約内容
眠れる竜の遺跡で行方不明となった冒険者たちの捜索。
対象の生存が確認できた場合は救出、対象が死亡していた場合は証拠となる品としてネームプレートを回収することを成功条件とする。
報酬
一人につき金貨四百枚
他にも冒険者に関わる細かな事項が記載されていたが、それは魔術師と護衛士である俺たちにとって省いて良いものだったので省略する。
冒険者ギルドに登録を終えた冒険者は、身分証明用の証として自分の名前が刻まれたネームプレートが支給される。
これは身分証として機能する以外に、常に危険と隣合わせの仕事に従事する冒険者の身に何かがあった場合、本人かどうか確認するための識別符としても使われる。
つまり冒険者のネームプレートは所有者にとって有事の際に自分の墓標にもなり得るものなのだ。
書面に目を通した俺とディートリヒも署名し、この依頼は正式に受理された。
契約書を受け取り、ディーゼルは俺たちに深々と頭を下げる。
「急な要請にも関わらずご足労いただいた上、依頼をお引き受けていただき誠に有難うございます。何卒、我がギルド所属の冒険者たちをよろしくお願いします」
「出来得る限りのことはさせてもらうよ。さて、それでは行くとしようかザイ」
「はい、行きましょうキルシュ」
キルシュと俺はソファから立ち上がり、応接室を後にする。
そして遅れて部屋を出てきたディートリヒにキルシュが声をかけた。
「ボクたちは少ししたらすぐ出立したいんだけど、ディートリヒくんもすぐ出られるかな?」
「あんたらもう出られるのかよ?」
「もう準備は庵で大体済ませてあるからね。そうだね、では今から三十分後に城門前に集合としようか。キミの方の準備もそれぐらい時間があれば十分かな?」
「まぁ、それぐらいあれば十分だが…」
「よし、それではボクたちも残りの用事を済ませてしまおうか」
「分かりました。まずは素材の売却ですね。食事に関しては……」
「本当はちゃんとした食事をとりたいけど、あまり時間の余裕がないから軽食で済ませようか。あちらの酒場でボクが適当に見繕ってくるね。それじゃザイ、清算よろしくー」
パタパタと手を振ってキルシュがこの場から立ち去る。
彼がギルドの中に併設された酒場の方に歩いていく姿を見送り、俺は背負い袋から魔物の素材を取り出すとギルドのカウンターに向かった。
先ほどと同じ受付嬢が、カウンターで俺を迎えてくれる。
「これはザイフェルトさま、ご用件はなんでしょうか?」
「いえ、俺はさまをつけていただくような立場にありませんので呼び捨てにしてもらって結構です。こちらの素材の買い取りをお願いします」
ヴァンキッシュの外皮と毒袋、それに先ほど討伐したギガントスパイダーから摘出した牙をカウンターの上に置く。
ギガントスパイダーは素材として使える部分が少なく、口にある大きな牙が二本採取できるだけである
キルシュが容赦なく“炎槍”でその体を焼き払ったのには、そういう理由があったのだ。
「これは良い品質の素材ばかりですね。只今査定しますので少々お待ちください」
「お願いします」
俺が腕組みをして査定が下るのを待つことにする。
するとしばらく素材の品定めをしていた受付嬢が徐に俺に声かけてきた。
「あの……」
「なんでしょうか?」
「立ち聞きするつもりはなかったのですが、先ほどギルドマスターと話されていたことが耳に入りまして。ザイフェルトさんたちはこれから眠れる竜の遺跡に行かれるとか」
「……ええ」
ディーゼルからこの案件について特に他言無用などと指示された訳ではないので、話しても問題ないだろう。
俺が頷くと彼女は俺に告げてきた。
「弟を……探していただきたいのです」
「弟さんが眠れる竜の遺跡に?」
「はい、弟もまた遺跡で行方不明になっている冒険者なのです……」
そこまで話をしてから、彼女は何かに気づいたらしくはっとして俺に頭を下げた。
「申し遅れました、私はアルベルタと申します。見ての通りこの町の冒険者ギルドで受付業務に携わっています。そして弟の名前はヴェッツ、冒険者をしていまして先週Cランクに昇格したばかりでした……」
「……」
「そして昇格して受けた初めての依頼が遺跡への救出依頼だったのです。しかし一週間経っても弟たちのパーティーだれ一人として帰ってこないのです。……すいません、査定が終了しました」
アルベルタは涙を拭って話を続ける。
「こちらの皮革が一枚につき銀貨五十枚となります。それが十五枚ですので合計で金貨七枚と銀貨五十枚になりますね。牙は一本銀貨八十枚となりますので二本で合計金貨1枚に銀貨60枚、総計は金貨九枚に銀貨十枚となりますがよろしいですか?」
「ええ、それで結構です。買い取りをお願いします」
「分かりました。……それで先ほどの話なのですが、弟を探してきてはいただけないでしょうか? もし最悪の結果でしたら、せめてプレートを持ち帰ってきていただきたいのです」
アルベルタの切なる願いに対して俺が返せる言葉はこれだけだ。
「……わかりました。最善を尽くします」
冒険者である以上、いつどこで行方不明になったとしてもおかしくはない。
しかしいつまでも生死が判明しないのはつらいことだし、行方不明というだけで全てを受け入れろというのは酷な話だろう。
せめて彼の存在を裏付けるものがあれば、少しは彼女の慰めになるかもしれない。
遭遇する数こそ少ないものの、危険極まりない敵である事が多いので対峙するときは細心の注意が求められる。
どうやらキルシュはこの存在を脅威とみなし、報酬額の引き上げを求めたようだ。
「お待たせしましたキルシュ師、ザイフェルト殿。こちらが依頼の契約書となります。御確認ください」
応接室に戻ってきたディーゼルが、契約が記載された羊皮紙とインク壺、羽ペンをテーブルの上に置いた。
キルシュがそれに目を通し己の名前を記載すると、俺の方に契約書を渡してきた。
「じゃ、ザイとディートリヒ君も目を通して記載内容に問題がないならサインよろしくね」
契約内容
眠れる竜の遺跡で行方不明となった冒険者たちの捜索。
対象の生存が確認できた場合は救出、対象が死亡していた場合は証拠となる品としてネームプレートを回収することを成功条件とする。
報酬
一人につき金貨四百枚
他にも冒険者に関わる細かな事項が記載されていたが、それは魔術師と護衛士である俺たちにとって省いて良いものだったので省略する。
冒険者ギルドに登録を終えた冒険者は、身分証明用の証として自分の名前が刻まれたネームプレートが支給される。
これは身分証として機能する以外に、常に危険と隣合わせの仕事に従事する冒険者の身に何かがあった場合、本人かどうか確認するための識別符としても使われる。
つまり冒険者のネームプレートは所有者にとって有事の際に自分の墓標にもなり得るものなのだ。
書面に目を通した俺とディートリヒも署名し、この依頼は正式に受理された。
契約書を受け取り、ディーゼルは俺たちに深々と頭を下げる。
「急な要請にも関わらずご足労いただいた上、依頼をお引き受けていただき誠に有難うございます。何卒、我がギルド所属の冒険者たちをよろしくお願いします」
「出来得る限りのことはさせてもらうよ。さて、それでは行くとしようかザイ」
「はい、行きましょうキルシュ」
キルシュと俺はソファから立ち上がり、応接室を後にする。
そして遅れて部屋を出てきたディートリヒにキルシュが声をかけた。
「ボクたちは少ししたらすぐ出立したいんだけど、ディートリヒくんもすぐ出られるかな?」
「あんたらもう出られるのかよ?」
「もう準備は庵で大体済ませてあるからね。そうだね、では今から三十分後に城門前に集合としようか。キミの方の準備もそれぐらい時間があれば十分かな?」
「まぁ、それぐらいあれば十分だが…」
「よし、それではボクたちも残りの用事を済ませてしまおうか」
「分かりました。まずは素材の売却ですね。食事に関しては……」
「本当はちゃんとした食事をとりたいけど、あまり時間の余裕がないから軽食で済ませようか。あちらの酒場でボクが適当に見繕ってくるね。それじゃザイ、清算よろしくー」
パタパタと手を振ってキルシュがこの場から立ち去る。
彼がギルドの中に併設された酒場の方に歩いていく姿を見送り、俺は背負い袋から魔物の素材を取り出すとギルドのカウンターに向かった。
先ほどと同じ受付嬢が、カウンターで俺を迎えてくれる。
「これはザイフェルトさま、ご用件はなんでしょうか?」
「いえ、俺はさまをつけていただくような立場にありませんので呼び捨てにしてもらって結構です。こちらの素材の買い取りをお願いします」
ヴァンキッシュの外皮と毒袋、それに先ほど討伐したギガントスパイダーから摘出した牙をカウンターの上に置く。
ギガントスパイダーは素材として使える部分が少なく、口にある大きな牙が二本採取できるだけである
キルシュが容赦なく“炎槍”でその体を焼き払ったのには、そういう理由があったのだ。
「これは良い品質の素材ばかりですね。只今査定しますので少々お待ちください」
「お願いします」
俺が腕組みをして査定が下るのを待つことにする。
するとしばらく素材の品定めをしていた受付嬢が徐に俺に声かけてきた。
「あの……」
「なんでしょうか?」
「立ち聞きするつもりはなかったのですが、先ほどギルドマスターと話されていたことが耳に入りまして。ザイフェルトさんたちはこれから眠れる竜の遺跡に行かれるとか」
「……ええ」
ディーゼルからこの案件について特に他言無用などと指示された訳ではないので、話しても問題ないだろう。
俺が頷くと彼女は俺に告げてきた。
「弟を……探していただきたいのです」
「弟さんが眠れる竜の遺跡に?」
「はい、弟もまた遺跡で行方不明になっている冒険者なのです……」
そこまで話をしてから、彼女は何かに気づいたらしくはっとして俺に頭を下げた。
「申し遅れました、私はアルベルタと申します。見ての通りこの町の冒険者ギルドで受付業務に携わっています。そして弟の名前はヴェッツ、冒険者をしていまして先週Cランクに昇格したばかりでした……」
「……」
「そして昇格して受けた初めての依頼が遺跡への救出依頼だったのです。しかし一週間経っても弟たちのパーティーだれ一人として帰ってこないのです。……すいません、査定が終了しました」
アルベルタは涙を拭って話を続ける。
「こちらの皮革が一枚につき銀貨五十枚となります。それが十五枚ですので合計で金貨七枚と銀貨五十枚になりますね。牙は一本銀貨八十枚となりますので二本で合計金貨1枚に銀貨60枚、総計は金貨九枚に銀貨十枚となりますがよろしいですか?」
「ええ、それで結構です。買い取りをお願いします」
「分かりました。……それで先ほどの話なのですが、弟を探してきてはいただけないでしょうか? もし最悪の結果でしたら、せめてプレートを持ち帰ってきていただきたいのです」
アルベルタの切なる願いに対して俺が返せる言葉はこれだけだ。
「……わかりました。最善を尽くします」
冒険者である以上、いつどこで行方不明になったとしてもおかしくはない。
しかしいつまでも生死が判明しないのはつらいことだし、行方不明というだけで全てを受け入れろというのは酷な話だろう。
せめて彼の存在を裏付けるものがあれば、少しは彼女の慰めになるかもしれない。