翌日。起きると時雫はいなかった。幸彦さんに聞くと、歩いて学校に行くから早めに家を出発したと言っていた。避けられている。
と言っても流石にここから学校までは歩いたら、かなり距離がある。帰りは疲れるだろうから、迎えに行ってやろう。一昨日のことは、一旦なかったことにして。
「あーーー!! いるー! やっぱりいるわー! 」
と、思っていたのに。いざ迎えに来ていつもの場所で待っていたら、走ってきたのは彼女ではなく、時雫と同じくらいの背丈をしたショートカットの女の子だった。後から追ってきたのか時雫は息を切らして、走ってくる。……彼女が息を切らすということは相当足が速いんだな、この子。
「ちょっと、待ってってば! ……はぁ、はぁっ、その人と私は、無関係だって……」
「……時雫、その人は? 」
「ほらぁぁ! あんたの名前知ってるじゃん、無関係じゃないじゃん! てか、何その彼氏ヅラ!?」
「彼氏、ヅラ……?」
「変なところだけ拾わなくていいから! ねっ!?」
彼氏っていう単語はわかるけど、そのあとに続く『ヅラ』という単語の意味はわからない。まぁ、時雫と交際関係を疑われていることは確かなのだけれど。
「私の友達、しのぶ。しのぶと昨日はいたの、友達と勉強するって言ってたでしょ」
「ジュンペイ君だよね、よろしく〜。いやー、噂通りのイケメンだねぇ。うちのくま君にはかなわないけど」
「まて、そんな名前じゃない。ジュンだ」
なんだろう、名前をヘンテコなものに変換されているし、軽い侮辱を受けた気がする。しのぶは俺の指摘を全く聞いていない様子だ。
その後、しのぶと俺たちは三人でコンビニで買った菓子パンやジュースを飲みながら、帰った。
しのぶは時雫とはまた、違った明るさや自由さがある女の子だった。お腹が空いたと言う割には全然食べないが、よく喋り、炭酸飲料はガブガブ飲む。話は聞いていないようで、聞いていて、俺のことをわざと『ジュンペイ』と呼ぶ。あとは彼氏がいて『高専』という学校に通っている――さっき比較された、くま君である。
タイプは妙に異なるが、でもどこか二人は似ていた。きっと、学校でも仲がいいのだろうな、と思い二人の出会いを聞くと同じ中学校だったのだという。なるほど、だからこんなに仲がいいのか。
「アタシよりも時雫より仲いいやついるよー、てかそろそろこっち来るんじゃないの?アイツ」
「えー、もしかしてアイトのこと?」
「そうそう、あんたがちっさい頃からつるんでるって……いるじゃん」
ほら、そういってしのぶが指差す先には、時雫の家の前に立つ男の子がいた。時雫と同じくらいだろうか、短髪の黒髪を揺らす彼と目がパチリと合う。
「突然来てごめん、連絡しようと思ったんだけど……って、友達? 」
