私には三分以内にやらなければならないことがあった。
何としても三分以内に、ヤツと決着をつけなければならない。
何故なら……カップラーメンにお湯を注いでしまったから……!
ヤツの気配に気付けないとは失態だった。常に気は配っているつもりだった。対策も万全にしていた。なのに気配を殺し、僅かな隙をついて、いつの間にか忍び寄るアレ……。
黒い悪魔……!
ヤツの姿を見てしまったからにはラーメンどころではない。しかしヤツのせいでぶよぶよに伸び切った麺を惨めたらしく啜るなどごめんだ。
勝負はラーメンが完成するまでの三分。
いざ!
私は掃除機を構えた。ヤツとの戦いはだいたいこれである。無論サイクロン式ではなく、紙パック式だ。ヤツを粉砕するのは無理。
殺虫剤は耐性があるヤツが多くあまり効かない。
洗剤はよく効くらしいが、外しすぎると床がベタベタになりこちらが滑るトラップになる。熱湯も良いらしいが賃貸アパートなので床にぶちまける勇気がない。
本当なら弱らせてから吸ってゴミに出したほうが確実だが、少しの手間も惜しい、最初から吸って掃除機に閉じ込めて御臨終を願うのみ。
じりじりとした緊張感が漂う。少しの物音も逃さないよう、私はテレビなど音の出るものを全て消して、全神経を耳に集中させていた。潜んでいるヤツを探知するには、視覚より聴覚の方が優れている。出てきた瞬間を逃さぬよう、勿論目も皿のようにしているが。
空調の音。時計の音。普段ならさほど気にならない音が、全ていつもより大きく聞こえる。
自分の呼吸や心音すらはっきりと耳に響いて、息を吸うのも気を遣う。
だというのに、ヤツの音が聞こえない。
どこだ。どこにいる。一度は姿を見たのだ、外に出ているはずがない。隠れているのだ。
明るいと出てこないともいうが、さすがにヤツがいる空間で電気を全て消すのは無理だ。
――集中しろ、集中……!
カサ、と小さな音が耳に届いて、私は掃除機のスイッチを入れながら勢いよくそちらにノズルを向けた。
ガッと嫌な音がして何かに当たった。途端、びちゃびちゃと濡れた音が響き渡る。
「あ」
それを視界の端で捉えながらも、ヤツだけを意識していた目はきちんと黒い悪魔の姿も補足していた。
「そこだああああ!!」
ノズルの先をヤツに近づければ、黒い悪魔はしゅぼっと掃除機の中に吸い込まれていった。
ノズルを逆さにし、暫く「強」のまま掃除機を稼働させる。それからノズルの先に詰め物をして、ヤツが出てこないようにしたら処置は完了。あとは燃えるゴミの日に紙パックをゴミに出す。
「ふっ……任務完了……」
と、言いたいところだが。
「……………………」
いったん見なかったことにした惨状を、改めて確認する。
振り回した掃除機のノズルが当たり、倒れてしまったカップラーメン。飛び散った中身。乾き物ならまだしも、汁物。床に敷いたマットにも染み込み、周囲のものにも汁がついてしまっている。最悪である。
私は眉間を押さえた。
ここからは掃除と洗濯の時間だ。終わるまでどれだけかかることやら。しかしさすがに飛び散った食べ物をそのままにはしておけない。また新手が来てしまう原因になる。
ここからは睡魔との戦いだ。
何故なら、現在時刻は深夜の三時だからである。
何としても三分以内に、ヤツと決着をつけなければならない。
何故なら……カップラーメンにお湯を注いでしまったから……!
ヤツの気配に気付けないとは失態だった。常に気は配っているつもりだった。対策も万全にしていた。なのに気配を殺し、僅かな隙をついて、いつの間にか忍び寄るアレ……。
黒い悪魔……!
ヤツの姿を見てしまったからにはラーメンどころではない。しかしヤツのせいでぶよぶよに伸び切った麺を惨めたらしく啜るなどごめんだ。
勝負はラーメンが完成するまでの三分。
いざ!
私は掃除機を構えた。ヤツとの戦いはだいたいこれである。無論サイクロン式ではなく、紙パック式だ。ヤツを粉砕するのは無理。
殺虫剤は耐性があるヤツが多くあまり効かない。
洗剤はよく効くらしいが、外しすぎると床がベタベタになりこちらが滑るトラップになる。熱湯も良いらしいが賃貸アパートなので床にぶちまける勇気がない。
本当なら弱らせてから吸ってゴミに出したほうが確実だが、少しの手間も惜しい、最初から吸って掃除機に閉じ込めて御臨終を願うのみ。
じりじりとした緊張感が漂う。少しの物音も逃さないよう、私はテレビなど音の出るものを全て消して、全神経を耳に集中させていた。潜んでいるヤツを探知するには、視覚より聴覚の方が優れている。出てきた瞬間を逃さぬよう、勿論目も皿のようにしているが。
空調の音。時計の音。普段ならさほど気にならない音が、全ていつもより大きく聞こえる。
自分の呼吸や心音すらはっきりと耳に響いて、息を吸うのも気を遣う。
だというのに、ヤツの音が聞こえない。
どこだ。どこにいる。一度は姿を見たのだ、外に出ているはずがない。隠れているのだ。
明るいと出てこないともいうが、さすがにヤツがいる空間で電気を全て消すのは無理だ。
――集中しろ、集中……!
カサ、と小さな音が耳に届いて、私は掃除機のスイッチを入れながら勢いよくそちらにノズルを向けた。
ガッと嫌な音がして何かに当たった。途端、びちゃびちゃと濡れた音が響き渡る。
「あ」
それを視界の端で捉えながらも、ヤツだけを意識していた目はきちんと黒い悪魔の姿も補足していた。
「そこだああああ!!」
ノズルの先をヤツに近づければ、黒い悪魔はしゅぼっと掃除機の中に吸い込まれていった。
ノズルを逆さにし、暫く「強」のまま掃除機を稼働させる。それからノズルの先に詰め物をして、ヤツが出てこないようにしたら処置は完了。あとは燃えるゴミの日に紙パックをゴミに出す。
「ふっ……任務完了……」
と、言いたいところだが。
「……………………」
いったん見なかったことにした惨状を、改めて確認する。
振り回した掃除機のノズルが当たり、倒れてしまったカップラーメン。飛び散った中身。乾き物ならまだしも、汁物。床に敷いたマットにも染み込み、周囲のものにも汁がついてしまっている。最悪である。
私は眉間を押さえた。
ここからは掃除と洗濯の時間だ。終わるまでどれだけかかることやら。しかしさすがに飛び散った食べ物をそのままにはしておけない。また新手が来てしまう原因になる。
ここからは睡魔との戦いだ。
何故なら、現在時刻は深夜の三時だからである。