「では続いて瓜生さん、お願いします」
明美からそう言われ、朱理は自己紹介を始める。
「皆さん、初めまして。瓜生です。横浜……神奈川県横浜市からの参加です。特にパリ観光を楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします」
朱理は堂々として落ち着いた様子である。
彼女はツアー参加者の中で最年少であった。
次に明美から指名されたのは誠一だ。
「中川です。瓜生さんと同じく横浜から来ました。コロナ前からちょこちょこと海外旅行をしていまして、最近はヨーロッパを中心に行ってみたいなと思って、色々と計画を立てています。それで、今回はフランスに行ってみようと思いました」
爽やかにそう挨拶する誠一だ。
そして次は美玲の番だ。
「えっと、岸本です。神奈川県川崎市からの参加です。その、フランスにはずっと行ってみたいと思ってたので、色々と楽しみです」
少し緊張しながらも、当たり障りのない自己紹介となった。
「割と普通だな」
美玲の耳元でボソッと呟き、ニヤッと笑う誠一。
「中川くんだって普通な自己紹介じゃん。何でここで妙なこと言って目立たないと行けないの?」
美玲はクスッと笑い、軽く誠一の肩を叩いた。
(それに、職場で上司から嫌がらせにあった上恋人に浮気されて疲れて死のうとしてるけどせめて死ぬ前にフランスに行きたいと思ったとここの空気で絶対に言えないじゃん)
美玲は内心苦笑した。
「どうも、宮本です。皆さん、よろしくお願いします」
「早乙女です。私達、神戸、あ、兵庫県神戸市から参加してます」
宮本晃樹と早乙女凛子。美玲や誠一と同じ二十代後半くらいのカップルだ。神戸ということで、二人共喋り方に関西訛りがはっきりと出ている。
晃樹も凛子も長身で、眼鏡をかけている。
二人共モノトーンのシンプルなファッションなのだが、どこか洗練されていてお洒落に見えた。
「横浜とか神戸だと県名より都市名が先に出ちゃうよね」
菫がクスッと笑う。
「そうなんですよ。神戸、横浜あるあるみたいで」
晃樹がハハっと笑った。
眼鏡をかけると知的なイメージになるはずが、晃樹はどこかひょうきんな印象である。
「兵庫県って結構広いじゃないですか。だから、神戸って言った方が分かりやすいかなと思うんですよ。横浜とかもそんな感じじゃないですか?」
凛子もそう明るく笑う。
彼女の紫色の眼鏡はサイドの部分がステンドグラスみたいなデザインで、非常にお洒落だ。そして柔らかな癖毛を後ろで一つに束ねていて、すっきりとした印象である。おまけに耳にはエッフェル塔のデザインのピアス。フランスを意識していることが分かる。
「確かに、仰る通りです」
「俺もイメージしやすい方を出しますね」
横浜の朱理と誠一がそう口を揃える。
「とりあえず僕達、二人の休みが合ったしコロナとかも落ち着いてきたし、大体の皆さんと同じでせっかくだから海外旅行楽しもうって思ったんです」
心底ワクワクしている様子の晃樹。
「それで、ヨーロッパとか行きたいなってなって、一番有名と言うか、煌びやかな歴史があるイメージのフランスに行こうってなったんですよ。ベルサイユ宮殿とかこれから行くシャンボール城、めっちゃ楽しみです」
凛子は少し落ち着いているが、それでも十分楽しみにしている様子が伝わってきた。
そして最後に穂乃果だ。
「坂口です。埼玉から来ました〜。えっと、せっかく休みが取れたから、海外にでも行ってみたらと親から言われて、それでこのツアーに参加してみました。海外とか初めてだから色々楽しみです」
どこかフワフワとした様子の穂乃果であった。
その後、全員がメインの鯛のポワレを食べ終えた頃、店員が食器を回収しに来た。
「えっと、メルシー」
美玲はカタコトのフランス語でお礼を言う。
すると店員であるフランス人男性が上機嫌な様子でフランス語で何か言うが、何を言われたのかさっぱり分からない美玲。店員の態度から、恐らく悪いことではなさそうだが。
「Merci monsieur」
朱理が流暢なフランス語でにこやかに店員にお礼を言う。
「Ca a été?」
「C’était bon」
朱理は店員に対し、流暢なフランスでそう答えた。
すると店員は嬉しそうに何かを言い、朱理にウインクした。
「ねえ、さっきから聞いてたけど、フランス語上手だね」
新婚夫婦の佳奈がそう身を乗り出す。
「いえいえ、ネイティブの発音には程遠いですよ」
朱理は少し照れながら現存する。
「いや、結構流暢に聞こえますよ。私の周りにいるフランス人と同じ」
少し離れた席の仁美がそう微笑む。フランスに住む仁美からお墨付きをもらえるくらいだ。
「少し見てたけど、初日から何か慣れてる感あるよね。もしかして、何回かフランスに来たことあるとか?」
神田姉妹の妹の方である菫も朱理に興味津々な様子。
「ええ、フランス自体は初めてじゃないです。コロナが流行る前は、ほぼ毎年夏場家族でニースに行っていましたから。でもパリは小学校低学年の頃に一度しか行ったことがなかったので、このツアー、今後の行程もすごく楽しみです」
「毎年ニースに。すごいわねぇ」
貴子がふふっと笑う。
「ただビーチでのんびり過ごすだけですよ」
ふふっと笑う朱理。
「それって完全にフランス人とかのバカンスの過ごし方ですね。ビーチでのんびり、穏やかな時間で素敵やね」
凛子はそう言い炭酸水を飲んだ。
「俺、出身は群馬だけど、瓜生さんは生まれも横浜?」
同じ横浜から参加ということで、誠一はあかりにそう聞いた。
「いえ、出身は東京なんです」
すると今度は東京から来ている悠人が口を開く。
「東京のどの辺?」
「目黒区です」
朱理がそう答えると、今度は悠人の妻である佳奈が身を乗り出す。
「目黒のどの辺り?」
「えっと、青葉台でして」
控えめに答える朱理。
「青葉台!? すげー!」
「ねー。だから毎年夏にフランスに行けるんだ」
悠人と佳奈がそう盛り上がっている。
「青葉台って確か何かお金持ち多いとこですよね?」
きょとんと穂乃果が首を傾げると、佳奈が「そうですよ」と頷く。
「ええ、じゃあ朱理ちゃんお嬢様なんだね」
穂乃果がそう朱理の方を見る。
「えっと、どうなんでしょう? まあ今まで経済的に困ったことはありませんが……」
朱理は困ったように微笑んだ。
(すごいなぁ、朱理ちゃん。もつこのツアーの中心人物になってる)
美玲は先程からフランス語を流暢に話したり、皆から話しかけられる朱理を見て尊敬の眼差しを送る。
朱理は美玲の隣に座る誠一と楽しそうに話していた。
(何だろうこの気持ち……?)
美玲の胸はほんの少しだけチクリと痛む。
(私……朱理ちゃんに対して嫉妬してるんだ……。 確かにまだ二十五歳で、大手製薬会社の研究職。高学歴でキャリアも順風満帆そう。それでいて結構お金持ちっぽいお嬢様。私にはないものばっか持ってるもんね……)
美玲は朱理に目を向けて、内心ため息をつく。
(うん。ないものねだりしても仕方ない。それに、このフランス旅行、目一杯楽しみたいし。切り替え切り替え!)
美玲は頼んでいた炭酸水を一気に飲み干し、運ばれてきたデザートのクレームブリュレを食べるのであった。
朱理への嫉妬心には気付いた美玲だが、まだ自分の中に芽生えたもう一つの感情には気付いていなかった。
明美からそう言われ、朱理は自己紹介を始める。
「皆さん、初めまして。瓜生です。横浜……神奈川県横浜市からの参加です。特にパリ観光を楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします」
朱理は堂々として落ち着いた様子である。
彼女はツアー参加者の中で最年少であった。
次に明美から指名されたのは誠一だ。
「中川です。瓜生さんと同じく横浜から来ました。コロナ前からちょこちょこと海外旅行をしていまして、最近はヨーロッパを中心に行ってみたいなと思って、色々と計画を立てています。それで、今回はフランスに行ってみようと思いました」
爽やかにそう挨拶する誠一だ。
そして次は美玲の番だ。
「えっと、岸本です。神奈川県川崎市からの参加です。その、フランスにはずっと行ってみたいと思ってたので、色々と楽しみです」
少し緊張しながらも、当たり障りのない自己紹介となった。
「割と普通だな」
美玲の耳元でボソッと呟き、ニヤッと笑う誠一。
「中川くんだって普通な自己紹介じゃん。何でここで妙なこと言って目立たないと行けないの?」
美玲はクスッと笑い、軽く誠一の肩を叩いた。
(それに、職場で上司から嫌がらせにあった上恋人に浮気されて疲れて死のうとしてるけどせめて死ぬ前にフランスに行きたいと思ったとここの空気で絶対に言えないじゃん)
美玲は内心苦笑した。
「どうも、宮本です。皆さん、よろしくお願いします」
「早乙女です。私達、神戸、あ、兵庫県神戸市から参加してます」
宮本晃樹と早乙女凛子。美玲や誠一と同じ二十代後半くらいのカップルだ。神戸ということで、二人共喋り方に関西訛りがはっきりと出ている。
晃樹も凛子も長身で、眼鏡をかけている。
二人共モノトーンのシンプルなファッションなのだが、どこか洗練されていてお洒落に見えた。
「横浜とか神戸だと県名より都市名が先に出ちゃうよね」
菫がクスッと笑う。
「そうなんですよ。神戸、横浜あるあるみたいで」
晃樹がハハっと笑った。
眼鏡をかけると知的なイメージになるはずが、晃樹はどこかひょうきんな印象である。
「兵庫県って結構広いじゃないですか。だから、神戸って言った方が分かりやすいかなと思うんですよ。横浜とかもそんな感じじゃないですか?」
凛子もそう明るく笑う。
彼女の紫色の眼鏡はサイドの部分がステンドグラスみたいなデザインで、非常にお洒落だ。そして柔らかな癖毛を後ろで一つに束ねていて、すっきりとした印象である。おまけに耳にはエッフェル塔のデザインのピアス。フランスを意識していることが分かる。
「確かに、仰る通りです」
「俺もイメージしやすい方を出しますね」
横浜の朱理と誠一がそう口を揃える。
「とりあえず僕達、二人の休みが合ったしコロナとかも落ち着いてきたし、大体の皆さんと同じでせっかくだから海外旅行楽しもうって思ったんです」
心底ワクワクしている様子の晃樹。
「それで、ヨーロッパとか行きたいなってなって、一番有名と言うか、煌びやかな歴史があるイメージのフランスに行こうってなったんですよ。ベルサイユ宮殿とかこれから行くシャンボール城、めっちゃ楽しみです」
凛子は少し落ち着いているが、それでも十分楽しみにしている様子が伝わってきた。
そして最後に穂乃果だ。
「坂口です。埼玉から来ました〜。えっと、せっかく休みが取れたから、海外にでも行ってみたらと親から言われて、それでこのツアーに参加してみました。海外とか初めてだから色々楽しみです」
どこかフワフワとした様子の穂乃果であった。
その後、全員がメインの鯛のポワレを食べ終えた頃、店員が食器を回収しに来た。
「えっと、メルシー」
美玲はカタコトのフランス語でお礼を言う。
すると店員であるフランス人男性が上機嫌な様子でフランス語で何か言うが、何を言われたのかさっぱり分からない美玲。店員の態度から、恐らく悪いことではなさそうだが。
「Merci monsieur」
朱理が流暢なフランス語でにこやかに店員にお礼を言う。
「Ca a été?」
「C’était bon」
朱理は店員に対し、流暢なフランスでそう答えた。
すると店員は嬉しそうに何かを言い、朱理にウインクした。
「ねえ、さっきから聞いてたけど、フランス語上手だね」
新婚夫婦の佳奈がそう身を乗り出す。
「いえいえ、ネイティブの発音には程遠いですよ」
朱理は少し照れながら現存する。
「いや、結構流暢に聞こえますよ。私の周りにいるフランス人と同じ」
少し離れた席の仁美がそう微笑む。フランスに住む仁美からお墨付きをもらえるくらいだ。
「少し見てたけど、初日から何か慣れてる感あるよね。もしかして、何回かフランスに来たことあるとか?」
神田姉妹の妹の方である菫も朱理に興味津々な様子。
「ええ、フランス自体は初めてじゃないです。コロナが流行る前は、ほぼ毎年夏場家族でニースに行っていましたから。でもパリは小学校低学年の頃に一度しか行ったことがなかったので、このツアー、今後の行程もすごく楽しみです」
「毎年ニースに。すごいわねぇ」
貴子がふふっと笑う。
「ただビーチでのんびり過ごすだけですよ」
ふふっと笑う朱理。
「それって完全にフランス人とかのバカンスの過ごし方ですね。ビーチでのんびり、穏やかな時間で素敵やね」
凛子はそう言い炭酸水を飲んだ。
「俺、出身は群馬だけど、瓜生さんは生まれも横浜?」
同じ横浜から参加ということで、誠一はあかりにそう聞いた。
「いえ、出身は東京なんです」
すると今度は東京から来ている悠人が口を開く。
「東京のどの辺?」
「目黒区です」
朱理がそう答えると、今度は悠人の妻である佳奈が身を乗り出す。
「目黒のどの辺り?」
「えっと、青葉台でして」
控えめに答える朱理。
「青葉台!? すげー!」
「ねー。だから毎年夏にフランスに行けるんだ」
悠人と佳奈がそう盛り上がっている。
「青葉台って確か何かお金持ち多いとこですよね?」
きょとんと穂乃果が首を傾げると、佳奈が「そうですよ」と頷く。
「ええ、じゃあ朱理ちゃんお嬢様なんだね」
穂乃果がそう朱理の方を見る。
「えっと、どうなんでしょう? まあ今まで経済的に困ったことはありませんが……」
朱理は困ったように微笑んだ。
(すごいなぁ、朱理ちゃん。もつこのツアーの中心人物になってる)
美玲は先程からフランス語を流暢に話したり、皆から話しかけられる朱理を見て尊敬の眼差しを送る。
朱理は美玲の隣に座る誠一と楽しそうに話していた。
(何だろうこの気持ち……?)
美玲の胸はほんの少しだけチクリと痛む。
(私……朱理ちゃんに対して嫉妬してるんだ……。 確かにまだ二十五歳で、大手製薬会社の研究職。高学歴でキャリアも順風満帆そう。それでいて結構お金持ちっぽいお嬢様。私にはないものばっか持ってるもんね……)
美玲は朱理に目を向けて、内心ため息をつく。
(うん。ないものねだりしても仕方ない。それに、このフランス旅行、目一杯楽しみたいし。切り替え切り替え!)
美玲は頼んでいた炭酸水を一気に飲み干し、運ばれてきたデザートのクレームブリュレを食べるのであった。
朱理への嫉妬心には気付いた美玲だが、まだ自分の中に芽生えたもう一つの感情には気付いていなかった。



