クルーズ船は元来た場所へと戻っていた。
「ん……」
船を降りる際、誠一は少し頬を赤くしながら美玲に手を差し出す。
「え?」
きょとんとする美玲。
「いや……付き合ってるんだったら手とか繋がないかなって……」
少しだけ美玲から目をそらす誠一。
「……そうだね」
美玲は少し照れながら誠一の手を握った。
ごつごつとした大きな手が、美玲の手を包み込んでいた。
「あれ? 美玲ちゃん? 中川さんも」
クルーズ船を降りる際、美玲と誠一は凛子と晃樹にばったり遭遇した。
お互い同じ時間のクルーズ船に乗っていたらしい。
「偶然やな。俺らと同じ船とか」
ハハっと明るく笑う晃樹。
「まさか同じ船とは思わなかった」
誠一も明るく笑う。
「うん。そうだね」
美玲もそれに同意した。
「あれ? 二人共何で手繋いどん? もしかしてそういうこと!?」
凛子が手を繋いでいる美玲と誠一を見て若干興奮気味であった。
「「あ……」」
美玲と誠一は真っ赤にして顔を見合わせる。
「え、じゃあ付き合い始めたってことか! おめでとう!」
晃樹も興奮気味だった。
「パリでフランスで再会して付き合い始めるとか何かロマンチックやな」
凛子は少しうっとりとした表情だ。
美玲と誠一は「ありがとう」と照れ笑いしていた。
「いやあ、実はな……」
晃樹は凛子と目を合わせて改まる。
「俺、さっき凛ちゃんにプロポーズしたんよ」
その言葉に美玲と誠一は驚いて目を丸くする。
「それで凛ちゃんからオッケーもらいましたー!」
テンション高めで嬉しそうな晃樹。
凛子も少し照れながら笑っている。
「えー! おめでとう!」
「末長くお幸せに!」
美玲と誠一もまるで自分のことのように喜んだ。
「ありがとう、美玲ちゃん、中川さん」
「絶対凛ちゃんと二人でもっと幸せになるわ。誠一と岸本さんも幸せになるんやで」
凛子も晃樹も、どこか晴れ晴れと嬉しそうな表情であった。
パリで転機を迎えたのは美玲と誠一だけではなかったのだ。
◇◇◇◇
翌日。
この日フランスを出国して日本へ帰るのである。
ホテルのロビーに集合してチェックアウトを済ませるのは何と午前三時。
荷物の整理などをしていて完全に睡眠不足の美玲だった。
「おはよう、岸本さん。寝不足か?」
少し後からやってきた誠一。
「おはよう、中川くん。多分三時間も寝てない気がする」
ふああ、とあくびをする美玲。
「俺も同じようなもんだな」
誠一もあくびをした。
その後、美玲と誠一は他のツアー参加者が来るまで談笑していた。
すると、神田姉妹と晃樹と凛子がやってきた。
美玲と誠一は軽く挨拶をする。
「あれ? 二人は同じ高校だって聞いてたけど、何か今までより仲よさげになってない? もしかして、何かあった?」
神田姉妹の妹、菫は寝不足そうに見えるにも関わらず、鋭い勘が働いていた。
「実は昨日から付き合い始めました」
誠一が照れながらそう答えた。
「そうなんだ。おめでとう。何かロマンチックだね。フランスで同じ高校の人と再会して付き合い始めるとか。それに、凛子ちゃんと宮本さんの方はクルーズ船でパリの夜景を見ながらプロポーズ。ロマンチックなことばっかり起こってるね」
興奮気味の菫。
「あのさ、お姉ちゃん。こういうの小説にできるんじゃない? 許可取って書かせてもらったら?」
ワクワクとした様子の菫。
「いや、菫、それはちょっと」
「だって編集部から次は現代ものを書いたらどうかって言われてるんでしょう?」
「まあそうだけどさ」
苦笑する神田姉妹の姉、美桜。
「え? 美桜さんって小説家なんですか?」
美玲はきょとんとしながら聞いた。
すると美桜の代わりに菫が答える。
「そうだよ。ライトノベルでデビューして、今色々書いてる。二十代後半から三十代くらいの女性をターゲットにしたやつが主かな」
「会社員やりながらですよね?」
今度は凛子だ。
「まあ……そうですね」
美桜が少し困ったように笑い頷く。
「本名で活動されてるんですか?」
誠一も意外そうな表情だ。
「いえ、ペンネームです。本名は流石に少し恥ずかしいので」
困ったように苦笑する美桜。
「俺、小説家の人に初めて会ったわ。取材ならいつでも受けますよ」
ノリのいい笑みの晃樹だ。寝不足を吹っ飛ばせそうである。
談笑しているうちに、今岡親子と年配の松本夫妻がやって来る。
「え! 父さん、スマホ見て! 妹の旦那さんから連絡来てる! 予定日より少し早いけど、生まれたってさ! 女の子! 母子共に健康だってさ!」
息子である圭太の明るい声だ。
圭太の妹が無事出産したようである。
「生まれたのか……!」
感慨深い表情の父、隆。
「今岡さん、おめでとう。いよいよお祖父ちゃんか」
茂がポンポンと隆の肩を叩く。まるで自分のことであるかのように嬉しそうだ。
「おめでとうございます。お孫さんの成長、楽しみですね」
貴子も柔らかく笑っていた。
「はい……!」
妻を亡くして気力をなくしていた隆だが、孫の誕生により表情が明るくなっていた。
「何かこの旅行でいいことが起こってる人多いね」
美玲は今岡親子達の様子を見て微笑んだ。
「そうだな」
誠一も穏やかに笑っていた。
その後、残りのツアー参加者も揃い、明美の案内によりバスに乗り込んだ。
早朝にも関わらず対応してくれたフランス人運転手には感謝である。
こうして、空港へ向かった美玲達。
フランスを出国して日本へと帰国するのであった。
「ん……」
船を降りる際、誠一は少し頬を赤くしながら美玲に手を差し出す。
「え?」
きょとんとする美玲。
「いや……付き合ってるんだったら手とか繋がないかなって……」
少しだけ美玲から目をそらす誠一。
「……そうだね」
美玲は少し照れながら誠一の手を握った。
ごつごつとした大きな手が、美玲の手を包み込んでいた。
「あれ? 美玲ちゃん? 中川さんも」
クルーズ船を降りる際、美玲と誠一は凛子と晃樹にばったり遭遇した。
お互い同じ時間のクルーズ船に乗っていたらしい。
「偶然やな。俺らと同じ船とか」
ハハっと明るく笑う晃樹。
「まさか同じ船とは思わなかった」
誠一も明るく笑う。
「うん。そうだね」
美玲もそれに同意した。
「あれ? 二人共何で手繋いどん? もしかしてそういうこと!?」
凛子が手を繋いでいる美玲と誠一を見て若干興奮気味であった。
「「あ……」」
美玲と誠一は真っ赤にして顔を見合わせる。
「え、じゃあ付き合い始めたってことか! おめでとう!」
晃樹も興奮気味だった。
「パリでフランスで再会して付き合い始めるとか何かロマンチックやな」
凛子は少しうっとりとした表情だ。
美玲と誠一は「ありがとう」と照れ笑いしていた。
「いやあ、実はな……」
晃樹は凛子と目を合わせて改まる。
「俺、さっき凛ちゃんにプロポーズしたんよ」
その言葉に美玲と誠一は驚いて目を丸くする。
「それで凛ちゃんからオッケーもらいましたー!」
テンション高めで嬉しそうな晃樹。
凛子も少し照れながら笑っている。
「えー! おめでとう!」
「末長くお幸せに!」
美玲と誠一もまるで自分のことのように喜んだ。
「ありがとう、美玲ちゃん、中川さん」
「絶対凛ちゃんと二人でもっと幸せになるわ。誠一と岸本さんも幸せになるんやで」
凛子も晃樹も、どこか晴れ晴れと嬉しそうな表情であった。
パリで転機を迎えたのは美玲と誠一だけではなかったのだ。
◇◇◇◇
翌日。
この日フランスを出国して日本へ帰るのである。
ホテルのロビーに集合してチェックアウトを済ませるのは何と午前三時。
荷物の整理などをしていて完全に睡眠不足の美玲だった。
「おはよう、岸本さん。寝不足か?」
少し後からやってきた誠一。
「おはよう、中川くん。多分三時間も寝てない気がする」
ふああ、とあくびをする美玲。
「俺も同じようなもんだな」
誠一もあくびをした。
その後、美玲と誠一は他のツアー参加者が来るまで談笑していた。
すると、神田姉妹と晃樹と凛子がやってきた。
美玲と誠一は軽く挨拶をする。
「あれ? 二人は同じ高校だって聞いてたけど、何か今までより仲よさげになってない? もしかして、何かあった?」
神田姉妹の妹、菫は寝不足そうに見えるにも関わらず、鋭い勘が働いていた。
「実は昨日から付き合い始めました」
誠一が照れながらそう答えた。
「そうなんだ。おめでとう。何かロマンチックだね。フランスで同じ高校の人と再会して付き合い始めるとか。それに、凛子ちゃんと宮本さんの方はクルーズ船でパリの夜景を見ながらプロポーズ。ロマンチックなことばっかり起こってるね」
興奮気味の菫。
「あのさ、お姉ちゃん。こういうの小説にできるんじゃない? 許可取って書かせてもらったら?」
ワクワクとした様子の菫。
「いや、菫、それはちょっと」
「だって編集部から次は現代ものを書いたらどうかって言われてるんでしょう?」
「まあそうだけどさ」
苦笑する神田姉妹の姉、美桜。
「え? 美桜さんって小説家なんですか?」
美玲はきょとんとしながら聞いた。
すると美桜の代わりに菫が答える。
「そうだよ。ライトノベルでデビューして、今色々書いてる。二十代後半から三十代くらいの女性をターゲットにしたやつが主かな」
「会社員やりながらですよね?」
今度は凛子だ。
「まあ……そうですね」
美桜が少し困ったように笑い頷く。
「本名で活動されてるんですか?」
誠一も意外そうな表情だ。
「いえ、ペンネームです。本名は流石に少し恥ずかしいので」
困ったように苦笑する美桜。
「俺、小説家の人に初めて会ったわ。取材ならいつでも受けますよ」
ノリのいい笑みの晃樹だ。寝不足を吹っ飛ばせそうである。
談笑しているうちに、今岡親子と年配の松本夫妻がやって来る。
「え! 父さん、スマホ見て! 妹の旦那さんから連絡来てる! 予定日より少し早いけど、生まれたってさ! 女の子! 母子共に健康だってさ!」
息子である圭太の明るい声だ。
圭太の妹が無事出産したようである。
「生まれたのか……!」
感慨深い表情の父、隆。
「今岡さん、おめでとう。いよいよお祖父ちゃんか」
茂がポンポンと隆の肩を叩く。まるで自分のことであるかのように嬉しそうだ。
「おめでとうございます。お孫さんの成長、楽しみですね」
貴子も柔らかく笑っていた。
「はい……!」
妻を亡くして気力をなくしていた隆だが、孫の誕生により表情が明るくなっていた。
「何かこの旅行でいいことが起こってる人多いね」
美玲は今岡親子達の様子を見て微笑んだ。
「そうだな」
誠一も穏やかに笑っていた。
その後、残りのツアー参加者も揃い、明美の案内によりバスに乗り込んだ。
早朝にも関わらず対応してくれたフランス人運転手には感謝である。
こうして、空港へ向かった美玲達。
フランスを出国して日本へと帰国するのであった。



