無事に地下鉄の乗り換えもできて、ホテルまで戻ってきた美玲と誠一。
「中川くん、今日は本当にありがとう」
美玲はスッキリとした表情である。
「おう。また何かあったら相談に乗るから」
誠一はフッと優しく微笑んだ。
「うん。じゃあまた明日」
「おう、また明日な」
美玲と誠一はお互い部屋に戻るのであった。
◇◇◇◇
そして翌日。
朝食を終えた美玲はこの日持って行く荷物をまとめてワクワクしていた。
この日は美玲が一番楽しみにしていたベルサイユ宮殿に行く日なのだ。
ちなみに、美術館で買った絵画がプリントされたTシャツを着用し、同じく絵画がプリントされたトートバッグを持っている。更に、トートバッグにはエッフェル塔のキーホルダーを着けていた。
シャルトルの街で購入したネックレスも着用している。
もう完全にフランスを楽しんでいる観光客の姿である。
「おはよう、岸本さん」
集合場所であるホテルのロビーで誠一に会った。
「あ……おはよう」
昨日誠一から告白されたことを思い出し、美玲は少し頬を赤く染め、誠一から目をそらしてしまう。
(どうしよう……)
美玲はうるさい心臓をひたすら落ち着かせようとしていた。
「昨日の返事は急いでないからさ。避けられる方が寂しい」
誠一が苦笑しながらボソッと呟く。
「……うん」
美玲はゆっくりと誠一を見上げた。
穏やかで優しげな表情だった。
美玲はその表情に、どこか安心した。
「それにしても、完全に観光客って感じの格好だな」
誠一は、美玲の姿を見てそう笑った。
「うん、まあね」
美玲はクスッと笑う
死ぬことを考え直し、生きる選択をした美玲は、今までよりも明るかった。
その表情を見た誠一はどこか安心したようである。
「おはよう、お二人さん」
「おはよう」
ロビーには晃樹と凛子もやってくる。
「あ、美玲ちゃん、めちゃくちゃいい感じの服装やな。楽しんでる感満載」
凛子も誠一同様、美玲の服装を見て明るく笑う。
凛子も相変わらず耳にはエッフェル塔のピアスを着けていた。
「それにしても、今日のベルサイユ宮殿、めっちゃ楽しみやわ。実は一番行きたかった場所やねん」
「凛ちゃんもそうなんだ。実は私も。ベルサイユ宮殿行ってみたかったんだよね」
早速朝から凛子と盛り上がる美玲であった。
誠一の方も、晃樹と楽しそうに話している。
その時、ロビーに明るい声が響き渡る。
「え、すごーい! 豪華だね! 美味しそう!」
神田姉妹の妹、菫である。
「いかにもフランスって感じですね」
姉の美桜も穂乃果から見せてもらった写真に目を輝かせていた。
「昨日朱理ちゃんと行ったんですよ〜。朱理ちゃん、注文とかの時もフランス語ペラペラでカッコよかったです〜」
穂乃果が昨日の夕食の写真を見せてへにゃりと笑っていたのだ。
「そういや朱理ちゃんと穂乃果ちゃん、一緒にご飯行ったみたいやね」
凛子も二人が何を食べたのか気になるようである。
美玲達四人も穂乃果に写真を見せてもらうことにした。
オニオングラタンスープ、牡蠣や海老などの海鮮盛り合わせ、フォアグラ、牛肉のソテーと非常に豪華であった。
「すごい……。これ結構高いんじゃない?」
美玲は写真を見て大きく目を見開いている。
「はい、高かったです。でもせっかくですし奮てみました〜。めちゃくちゃ美味しかったんですよ。朱理ちゃんが言うには、お昼にカフェとして利用する方がやっぱり安いみたいです」
アハハと笑う穂乃果。
「それと、朱理ちゃん、ああ見えて結構食べるんですよ〜」
意外そうな表情の穂乃果だ。
「へえ……意外」
美玲も目を丸くした。
(朱理ちゃん、小柄で華奢なのに割と量を食べる。それでいて太る気配を感じない……。正直羨ましい。だけど……)
美玲は自分の内面の変化に気付いた。
今までは胸がチクリと痛み、朱理に対して劣等感を抱いてしまっていた。
しかし、今は朱理に対する劣等感が完全に薄れていた。
(もしかして、生きて自分の人生楽しんでやるって思えるようになったからかな?)
美玲は微かに口角を上げた。
「ちなみになんて名前の店か教えてもらっていい?」
「あ、俺も教えて欲しいわ。明日の自由行動、凛ちゃんと行くのもありやし」
「えっと、店の名前は……あ、これです。ちょっと詳しい場所までは忘れちゃったので朱理ちゃんに聞いてくださいね〜」
誠一と晃樹は穂乃果にお店の名前を聞いていた。
「おはようございます」
そこへ朱理がやってくる。おっとりとした声である。
「朱理ちゃん、おはよう。昨日はありがとね〜」
朱理の姿を見るなり穂乃果はへにゃりと笑った。
「いえ……」
朱理は困ったように苦笑する。
「あの、穂乃果さん。明日は私、パリにいる友達と過ごすのでご一緒できませんからね。本当に大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ〜。多分」
どうやら昨日、朱理と穂乃果に何かが起こったようだ。
「朱理ちゃん、何があったの?」
美玲は恐る恐る聞いてみた。
「その……穂乃果さんの危機感のなさというか……色々とスリに狙われていたんですよ。穂乃果さんが」
朱理はそう苦笑した。
「アハハ、朱理ちゃんがいてくれたお陰で何も盗まれなかったから大丈夫だったよ〜。それに、明日一人でもスマホがあれば何とかなる」
被害に遭いかけた当人はあっけらかんとした様子だった。
「そのスマホを盗られかけていたんですよ。おまけに鞄に手を入れられる、ウエストポーチにまで手を伸ばしてくる人もいて大変でしたよ……。穂乃果さん、日本感覚じゃ本当に駄目ですからね」
朱理は苦笑しながらやんわりとため息をついた。
「穂乃果ちゃん、明日ほんまに一人で大丈夫なん?」
「もしよければ私達と一緒に行動します?」
穂乃果を心配する凛子と美桜。
彼女達を横目に美玲は朱理と会話している。
「さっき穂乃果ちゃんから昨日の夕食の写真見せてもらったけど、かなり豪華だね」
「はい。豪華でした。せっかくですし、食べたいと思ったものを食べておきたかったんです。フランスといえば牡蠣でもありますし、フォアグラもニースで食べて美味しかったので、昨日のお店でも注文してみました」
おっとりとした態度の朱理。しかし、やはりどこか堂々とした雰囲気でもある。
「昨日のお店、ミルフィーユも有名なんですよ」
「へえ、そうなんだ。明日行ってみようかな。せっかくだからフランスのスイーツも堪能したいし」
美玲はクスッと笑う。
すっかり朱理と普通に話せるようになっていたのであった。
「中川くん、今日は本当にありがとう」
美玲はスッキリとした表情である。
「おう。また何かあったら相談に乗るから」
誠一はフッと優しく微笑んだ。
「うん。じゃあまた明日」
「おう、また明日な」
美玲と誠一はお互い部屋に戻るのであった。
◇◇◇◇
そして翌日。
朝食を終えた美玲はこの日持って行く荷物をまとめてワクワクしていた。
この日は美玲が一番楽しみにしていたベルサイユ宮殿に行く日なのだ。
ちなみに、美術館で買った絵画がプリントされたTシャツを着用し、同じく絵画がプリントされたトートバッグを持っている。更に、トートバッグにはエッフェル塔のキーホルダーを着けていた。
シャルトルの街で購入したネックレスも着用している。
もう完全にフランスを楽しんでいる観光客の姿である。
「おはよう、岸本さん」
集合場所であるホテルのロビーで誠一に会った。
「あ……おはよう」
昨日誠一から告白されたことを思い出し、美玲は少し頬を赤く染め、誠一から目をそらしてしまう。
(どうしよう……)
美玲はうるさい心臓をひたすら落ち着かせようとしていた。
「昨日の返事は急いでないからさ。避けられる方が寂しい」
誠一が苦笑しながらボソッと呟く。
「……うん」
美玲はゆっくりと誠一を見上げた。
穏やかで優しげな表情だった。
美玲はその表情に、どこか安心した。
「それにしても、完全に観光客って感じの格好だな」
誠一は、美玲の姿を見てそう笑った。
「うん、まあね」
美玲はクスッと笑う
死ぬことを考え直し、生きる選択をした美玲は、今までよりも明るかった。
その表情を見た誠一はどこか安心したようである。
「おはよう、お二人さん」
「おはよう」
ロビーには晃樹と凛子もやってくる。
「あ、美玲ちゃん、めちゃくちゃいい感じの服装やな。楽しんでる感満載」
凛子も誠一同様、美玲の服装を見て明るく笑う。
凛子も相変わらず耳にはエッフェル塔のピアスを着けていた。
「それにしても、今日のベルサイユ宮殿、めっちゃ楽しみやわ。実は一番行きたかった場所やねん」
「凛ちゃんもそうなんだ。実は私も。ベルサイユ宮殿行ってみたかったんだよね」
早速朝から凛子と盛り上がる美玲であった。
誠一の方も、晃樹と楽しそうに話している。
その時、ロビーに明るい声が響き渡る。
「え、すごーい! 豪華だね! 美味しそう!」
神田姉妹の妹、菫である。
「いかにもフランスって感じですね」
姉の美桜も穂乃果から見せてもらった写真に目を輝かせていた。
「昨日朱理ちゃんと行ったんですよ〜。朱理ちゃん、注文とかの時もフランス語ペラペラでカッコよかったです〜」
穂乃果が昨日の夕食の写真を見せてへにゃりと笑っていたのだ。
「そういや朱理ちゃんと穂乃果ちゃん、一緒にご飯行ったみたいやね」
凛子も二人が何を食べたのか気になるようである。
美玲達四人も穂乃果に写真を見せてもらうことにした。
オニオングラタンスープ、牡蠣や海老などの海鮮盛り合わせ、フォアグラ、牛肉のソテーと非常に豪華であった。
「すごい……。これ結構高いんじゃない?」
美玲は写真を見て大きく目を見開いている。
「はい、高かったです。でもせっかくですし奮てみました〜。めちゃくちゃ美味しかったんですよ。朱理ちゃんが言うには、お昼にカフェとして利用する方がやっぱり安いみたいです」
アハハと笑う穂乃果。
「それと、朱理ちゃん、ああ見えて結構食べるんですよ〜」
意外そうな表情の穂乃果だ。
「へえ……意外」
美玲も目を丸くした。
(朱理ちゃん、小柄で華奢なのに割と量を食べる。それでいて太る気配を感じない……。正直羨ましい。だけど……)
美玲は自分の内面の変化に気付いた。
今までは胸がチクリと痛み、朱理に対して劣等感を抱いてしまっていた。
しかし、今は朱理に対する劣等感が完全に薄れていた。
(もしかして、生きて自分の人生楽しんでやるって思えるようになったからかな?)
美玲は微かに口角を上げた。
「ちなみになんて名前の店か教えてもらっていい?」
「あ、俺も教えて欲しいわ。明日の自由行動、凛ちゃんと行くのもありやし」
「えっと、店の名前は……あ、これです。ちょっと詳しい場所までは忘れちゃったので朱理ちゃんに聞いてくださいね〜」
誠一と晃樹は穂乃果にお店の名前を聞いていた。
「おはようございます」
そこへ朱理がやってくる。おっとりとした声である。
「朱理ちゃん、おはよう。昨日はありがとね〜」
朱理の姿を見るなり穂乃果はへにゃりと笑った。
「いえ……」
朱理は困ったように苦笑する。
「あの、穂乃果さん。明日は私、パリにいる友達と過ごすのでご一緒できませんからね。本当に大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ〜。多分」
どうやら昨日、朱理と穂乃果に何かが起こったようだ。
「朱理ちゃん、何があったの?」
美玲は恐る恐る聞いてみた。
「その……穂乃果さんの危機感のなさというか……色々とスリに狙われていたんですよ。穂乃果さんが」
朱理はそう苦笑した。
「アハハ、朱理ちゃんがいてくれたお陰で何も盗まれなかったから大丈夫だったよ〜。それに、明日一人でもスマホがあれば何とかなる」
被害に遭いかけた当人はあっけらかんとした様子だった。
「そのスマホを盗られかけていたんですよ。おまけに鞄に手を入れられる、ウエストポーチにまで手を伸ばしてくる人もいて大変でしたよ……。穂乃果さん、日本感覚じゃ本当に駄目ですからね」
朱理は苦笑しながらやんわりとため息をついた。
「穂乃果ちゃん、明日ほんまに一人で大丈夫なん?」
「もしよければ私達と一緒に行動します?」
穂乃果を心配する凛子と美桜。
彼女達を横目に美玲は朱理と会話している。
「さっき穂乃果ちゃんから昨日の夕食の写真見せてもらったけど、かなり豪華だね」
「はい。豪華でした。せっかくですし、食べたいと思ったものを食べておきたかったんです。フランスといえば牡蠣でもありますし、フォアグラもニースで食べて美味しかったので、昨日のお店でも注文してみました」
おっとりとした態度の朱理。しかし、やはりどこか堂々とした雰囲気でもある。
「昨日のお店、ミルフィーユも有名なんですよ」
「へえ、そうなんだ。明日行ってみようかな。せっかくだからフランスのスイーツも堪能したいし」
美玲はクスッと笑う。
すっかり朱理と普通に話せるようになっていたのであった。



