モン・サン=ミッシェルからパリへは高速道路を使っても三時間半から四時間くらいはかかる。
時刻は午後七時。
日本だともう完全に暗くなる時間なので、初日はこの明るさに驚いていた。しかし、もう三日目なので慣れてくるのであった。
美玲はモン・サン=ミッシェルの麓の町で買ったお菓子や、途中のトイレ休憩の際に寄ったパーキングエリアのような場所で買ったパンを夕食代わりにしていた。
いよいよパリを囲む環状道路に入った。
美玲達が泊まるホテルはパリ郊外にあるホテル。
利便性が高いホテルはどうしてもパリ郊外になりがちなのだ。
(いよいよパリ……!)
美玲は車窓から見える景色にワクワクと心躍らせた。
◇◇◇◇
ホテルにチェックインし、部屋に入った美玲。
シャワーのお湯が出るかやベッドにトコジラミがいないかなどを軽くチェックした後、美玲はベッドにダイブし、ゴロリと転がる。
(ああ、まだ途中だけど、このツアー参加して本当によかったって思える。まさか中川くんと再会するとは思わなかった。それに、朱理ちゃんに嫉妬しちゃうこともあったけど、まあいっかって思えてきた)
美玲は満足げな表情で天井を見つめていた。
(パリ観光、美術館見学、ベルサイユ宮殿……まだまだ楽しみはたくさんある)
美玲は起き上がり、シャワーを浴びて翌日に備えるのであった。
相変わらずの硬水でシャンプーが泡立ちにくいが、それにも慣れる美玲であった。
◇◇◇◇
翌日。
よく晴れた日だった。眩しい日差しに青々とした空である。
恐らくフランスに来てから初めて晴れたのではないかと思われる。
しかし、高緯度にある国なので、やはり気温は日本よりも低めである。
朝食を終えた美玲は集合場所であるホテルのロビーにいた。
この日は二日目のガイドだった仁美も一緒だ。
明美から軽くこの日の行程の説明があり、美玲達は貸切バスに乗り込んだ。
フランス四日目にして、ようやく首都のパリである。
建物は石造りのような漆喰のような感じであり、パリの街は全体的に白やベージュで統一されているようである。
(すごい……ここがパリ……! 日本にも横浜とかお洒落な街はあるけど、日本とは違ったお洒落さがある……! 流石は花の都!)
美玲は車窓から見えるパリの街並みに目を輝かせた。窓に齧り付くかのようである。
美玲にとって見るもの全てがキラキラと輝いているように見えた。
そうしているうちに、初めの目的地であるエッフェル塔が見えてきた。
「エッフェル塔はですね、ギュスターヴ・エッフェルという人がパリ万博のために建てました。当時は産業革命による工業力の増加、富の増大により各国で相次いで高層建築が建設されて、国家の威信をかけて高さ競争が繰り広げられていたんですよ」
仁美がそう説明する。
なるほどと思いながら、美玲は近付いてくるエッフェル塔に釘付けになっていた。
バスから降り、セーヌ川沿いを歩いてエッフェル塔近くまでやって来た美玲達。
今はエッフェル塔には登らずに写真を撮るだけである。もし上りたい場合は自由時間に個人で登ることになる。
(これがエッフェル塔……)
美玲は目の前のエッフェル塔をまじまじと見つめる。まるで空に向かってそびえ立つ鋼のレースのようだ。
テレビや写真などでは見たことがあったが、実物を見るのは初めてで圧倒されていた。
塔の四隅にそびえる巨大な柱。その上部へと伸びる優雅な曲線。鉄骨が交差する部分はまるで繊細なレースの編み目のように見え、強さと美しさが見事に調和していた。
青々とした清々しい空に、パリのシンボルであるエッフェル塔。写真映えすることは間違いなしである。
「凛ちゃん、そのピアスもっと強調して写真撮ってみる?」
「あ。それええな」
晃樹が凛子の写真を撮る。
エッフェル塔を背景に凛子は横を向き、耳のエッフェル塔ピアスが目立つようにした。
横を向いたことで、紫色の眼鏡のサイドのステンドグラスのようなデザインも見えてよりお洒落であった。
美玲も夢中で写真を撮っていた。
「初めて見たけど、やっぱすげえな。エッフェル塔」
いつの間にか美玲の隣にいた誠一が、エッフェル塔を見上げてそう呟く。
「うん。何か……パリに来たって感じ」
美玲は満足そうに笑った。
「そうだな」
誠一はフッと笑った。
◇◇◇◇
石造りのような、漆喰のような、白やベージュを基調としている洗練された建物。それら全てに高級感があるように見える。
広い道には現地の人や観光客などで賑わっているが、街全体の雰囲気のせいか騒がしいとは思わず、どことなく品がある。
美玲達はシャンゼリゼ通りを歩いていた。
エッフェル塔から再びバスに乗り、美玲達はエトワール凱旋門に向かっていたのだ。
現在はバスを降り、エトワール凱旋門へ向かっている。
「すごい。日本でも見るブランドがこんなに。銀座とかと似てるけどやっぱり違う雰囲気だね」
キラキラオーラを放つ佳奈が目をキラキラと輝かせていた。
「佳奈、最終日の自由行動の時に寄ってみる?」
佳奈の夫である悠人がそう提案する。相変わらず彼もキラキラしたオーラだ。
「うん、行く。あ、じゃあ免税手続きとか改めて調べないと。えっと、確か添乗員の斉藤さんはクレジットカード振込にしたらいいとか言ってたっけ?」
ブランド品を買う気満々な佳奈は明美から免税に関して言われたことを思い出していた。
「朱理ちゃんはブランドのバッグとか買って帰るの〜?」
穂乃果が隣にいる朱理に聞くと、朱理は首を横に振る。
「母から譲り受けたバッグがあるので、ここでは買いませんね。祖母の代から使われているものでして」
朱理はおっとりと微笑んだ。流石はお嬢様である。
「父さん、妹の出産祝いに何かブランドでも買ってくか? 調べたらベビー用品も売ってるっぽいし。もしくは妹に何かバッグとかさ」
圭太が父の隆にそう提案する。
もうすぐ出産予定日の妹へのお土産だそうだ。
「……そうだな」
亡き妻を思ってばかりだった隆は、ほんの少しだけ明るい表情になっていた。
(ブランド……あんま興味ないけど、知ってる名前がたくさんあるなあ)
美玲はシャンゼリゼ通りにある高級ブランド店を見てそう思った。
「何かやっぱりキラキラしとるな」
凛子は周囲を見渡し楽しそうに笑う。彼女の紫色のステンドグラスのような眼鏡も、どことなくキラキラと輝いていた。
ちなみに凛子の彼氏である晃樹は、誠一と宗平の三人で話し込んでいる様子だ。男性同士何やら盛り上がっている。
「うん。何か、目に焼き付けておかないともったいないよね」
美玲はじっくりと周囲を見渡し、写真を撮った。
美玲達ツアー参加者一行は、いよいよエトワール凱旋門まで近付いて来た。
シャルル・ド・ゴール広場までやって来た美玲達。そこでフランスの車の運転の荒さを目の当たりにする。更に、フランス人は明らかに歩行者信号が赤で車が来ているのにも関わらず、当たり前のように渡っている。自転車の運転もかなり荒い。パトカーのサイレン音も、特に何かが起こっているわけではないが鳴り響いて騒々しかった。
「この光景、フランスではよくあることです。日本だとこんなに運転荒くないし、歩行者も信号無視したとしても車が来ていないことを確認しますよね。私も初めてフランスに来た時はびっくりしましたよ。何でもフランス人曰く、道は歩行者が優先。交通ルールは守らなければいけないものではなく、あくまで参考程度だそうです」
仁美が苦笑しながらフランス事情を説明してくれた。
「郷に入れば郷に従えとは言いますが、皆さんはきちんと信号を守ってくださいね。事故に遭ったら大変ですから」
明美が困ったように笑いそう言った。
「それから、堂々とシャルル・ド・ゴール広場を通って凱旋門まで行こうとしている人が見えますよね? あれ、実はやってはいけません。皆さんは今日、ここで写真を撮るだけですが、明後日の自由行動で改めて間近で見たい場合はちゃんと地下道を通って行きましょうね」
仁美がそう教えてくれる。
その後、美玲達はエトワール凱旋門の写真を撮るのであった。
どっしりと威厳ある姿のエトワール凱旋門。かの有名なナポレオン・ボナパルトが一八〇五年のアウステルリッツの戦いでの勝利を記念して建設を命じたものである。
戦勝記念碑ということで、どこか堂々とした雰囲気が感じられた。
(エッフェル塔も凱旋門も、やっぱり実物はすごい……。こうして見るだけでも十分だ)
ずっと行ってみたいと思っていた街にようやく来ることが出来たのだ。
美玲の心は今のパリの空と同じように晴れ渡っていた。
時刻は午後七時。
日本だともう完全に暗くなる時間なので、初日はこの明るさに驚いていた。しかし、もう三日目なので慣れてくるのであった。
美玲はモン・サン=ミッシェルの麓の町で買ったお菓子や、途中のトイレ休憩の際に寄ったパーキングエリアのような場所で買ったパンを夕食代わりにしていた。
いよいよパリを囲む環状道路に入った。
美玲達が泊まるホテルはパリ郊外にあるホテル。
利便性が高いホテルはどうしてもパリ郊外になりがちなのだ。
(いよいよパリ……!)
美玲は車窓から見える景色にワクワクと心躍らせた。
◇◇◇◇
ホテルにチェックインし、部屋に入った美玲。
シャワーのお湯が出るかやベッドにトコジラミがいないかなどを軽くチェックした後、美玲はベッドにダイブし、ゴロリと転がる。
(ああ、まだ途中だけど、このツアー参加して本当によかったって思える。まさか中川くんと再会するとは思わなかった。それに、朱理ちゃんに嫉妬しちゃうこともあったけど、まあいっかって思えてきた)
美玲は満足げな表情で天井を見つめていた。
(パリ観光、美術館見学、ベルサイユ宮殿……まだまだ楽しみはたくさんある)
美玲は起き上がり、シャワーを浴びて翌日に備えるのであった。
相変わらずの硬水でシャンプーが泡立ちにくいが、それにも慣れる美玲であった。
◇◇◇◇
翌日。
よく晴れた日だった。眩しい日差しに青々とした空である。
恐らくフランスに来てから初めて晴れたのではないかと思われる。
しかし、高緯度にある国なので、やはり気温は日本よりも低めである。
朝食を終えた美玲は集合場所であるホテルのロビーにいた。
この日は二日目のガイドだった仁美も一緒だ。
明美から軽くこの日の行程の説明があり、美玲達は貸切バスに乗り込んだ。
フランス四日目にして、ようやく首都のパリである。
建物は石造りのような漆喰のような感じであり、パリの街は全体的に白やベージュで統一されているようである。
(すごい……ここがパリ……! 日本にも横浜とかお洒落な街はあるけど、日本とは違ったお洒落さがある……! 流石は花の都!)
美玲は車窓から見えるパリの街並みに目を輝かせた。窓に齧り付くかのようである。
美玲にとって見るもの全てがキラキラと輝いているように見えた。
そうしているうちに、初めの目的地であるエッフェル塔が見えてきた。
「エッフェル塔はですね、ギュスターヴ・エッフェルという人がパリ万博のために建てました。当時は産業革命による工業力の増加、富の増大により各国で相次いで高層建築が建設されて、国家の威信をかけて高さ競争が繰り広げられていたんですよ」
仁美がそう説明する。
なるほどと思いながら、美玲は近付いてくるエッフェル塔に釘付けになっていた。
バスから降り、セーヌ川沿いを歩いてエッフェル塔近くまでやって来た美玲達。
今はエッフェル塔には登らずに写真を撮るだけである。もし上りたい場合は自由時間に個人で登ることになる。
(これがエッフェル塔……)
美玲は目の前のエッフェル塔をまじまじと見つめる。まるで空に向かってそびえ立つ鋼のレースのようだ。
テレビや写真などでは見たことがあったが、実物を見るのは初めてで圧倒されていた。
塔の四隅にそびえる巨大な柱。その上部へと伸びる優雅な曲線。鉄骨が交差する部分はまるで繊細なレースの編み目のように見え、強さと美しさが見事に調和していた。
青々とした清々しい空に、パリのシンボルであるエッフェル塔。写真映えすることは間違いなしである。
「凛ちゃん、そのピアスもっと強調して写真撮ってみる?」
「あ。それええな」
晃樹が凛子の写真を撮る。
エッフェル塔を背景に凛子は横を向き、耳のエッフェル塔ピアスが目立つようにした。
横を向いたことで、紫色の眼鏡のサイドのステンドグラスのようなデザインも見えてよりお洒落であった。
美玲も夢中で写真を撮っていた。
「初めて見たけど、やっぱすげえな。エッフェル塔」
いつの間にか美玲の隣にいた誠一が、エッフェル塔を見上げてそう呟く。
「うん。何か……パリに来たって感じ」
美玲は満足そうに笑った。
「そうだな」
誠一はフッと笑った。
◇◇◇◇
石造りのような、漆喰のような、白やベージュを基調としている洗練された建物。それら全てに高級感があるように見える。
広い道には現地の人や観光客などで賑わっているが、街全体の雰囲気のせいか騒がしいとは思わず、どことなく品がある。
美玲達はシャンゼリゼ通りを歩いていた。
エッフェル塔から再びバスに乗り、美玲達はエトワール凱旋門に向かっていたのだ。
現在はバスを降り、エトワール凱旋門へ向かっている。
「すごい。日本でも見るブランドがこんなに。銀座とかと似てるけどやっぱり違う雰囲気だね」
キラキラオーラを放つ佳奈が目をキラキラと輝かせていた。
「佳奈、最終日の自由行動の時に寄ってみる?」
佳奈の夫である悠人がそう提案する。相変わらず彼もキラキラしたオーラだ。
「うん、行く。あ、じゃあ免税手続きとか改めて調べないと。えっと、確か添乗員の斉藤さんはクレジットカード振込にしたらいいとか言ってたっけ?」
ブランド品を買う気満々な佳奈は明美から免税に関して言われたことを思い出していた。
「朱理ちゃんはブランドのバッグとか買って帰るの〜?」
穂乃果が隣にいる朱理に聞くと、朱理は首を横に振る。
「母から譲り受けたバッグがあるので、ここでは買いませんね。祖母の代から使われているものでして」
朱理はおっとりと微笑んだ。流石はお嬢様である。
「父さん、妹の出産祝いに何かブランドでも買ってくか? 調べたらベビー用品も売ってるっぽいし。もしくは妹に何かバッグとかさ」
圭太が父の隆にそう提案する。
もうすぐ出産予定日の妹へのお土産だそうだ。
「……そうだな」
亡き妻を思ってばかりだった隆は、ほんの少しだけ明るい表情になっていた。
(ブランド……あんま興味ないけど、知ってる名前がたくさんあるなあ)
美玲はシャンゼリゼ通りにある高級ブランド店を見てそう思った。
「何かやっぱりキラキラしとるな」
凛子は周囲を見渡し楽しそうに笑う。彼女の紫色のステンドグラスのような眼鏡も、どことなくキラキラと輝いていた。
ちなみに凛子の彼氏である晃樹は、誠一と宗平の三人で話し込んでいる様子だ。男性同士何やら盛り上がっている。
「うん。何か、目に焼き付けておかないともったいないよね」
美玲はじっくりと周囲を見渡し、写真を撮った。
美玲達ツアー参加者一行は、いよいよエトワール凱旋門まで近付いて来た。
シャルル・ド・ゴール広場までやって来た美玲達。そこでフランスの車の運転の荒さを目の当たりにする。更に、フランス人は明らかに歩行者信号が赤で車が来ているのにも関わらず、当たり前のように渡っている。自転車の運転もかなり荒い。パトカーのサイレン音も、特に何かが起こっているわけではないが鳴り響いて騒々しかった。
「この光景、フランスではよくあることです。日本だとこんなに運転荒くないし、歩行者も信号無視したとしても車が来ていないことを確認しますよね。私も初めてフランスに来た時はびっくりしましたよ。何でもフランス人曰く、道は歩行者が優先。交通ルールは守らなければいけないものではなく、あくまで参考程度だそうです」
仁美が苦笑しながらフランス事情を説明してくれた。
「郷に入れば郷に従えとは言いますが、皆さんはきちんと信号を守ってくださいね。事故に遭ったら大変ですから」
明美が困ったように笑いそう言った。
「それから、堂々とシャルル・ド・ゴール広場を通って凱旋門まで行こうとしている人が見えますよね? あれ、実はやってはいけません。皆さんは今日、ここで写真を撮るだけですが、明後日の自由行動で改めて間近で見たい場合はちゃんと地下道を通って行きましょうね」
仁美がそう教えてくれる。
その後、美玲達はエトワール凱旋門の写真を撮るのであった。
どっしりと威厳ある姿のエトワール凱旋門。かの有名なナポレオン・ボナパルトが一八〇五年のアウステルリッツの戦いでの勝利を記念して建設を命じたものである。
戦勝記念碑ということで、どこか堂々とした雰囲気が感じられた。
(エッフェル塔も凱旋門も、やっぱり実物はすごい……。こうして見るだけでも十分だ)
ずっと行ってみたいと思っていた街にようやく来ることが出来たのだ。
美玲の心は今のパリの空と同じように晴れ渡っていた。



