石造りの建物と木組みの建物が入り混じるモン・サン=ミッシェル麓の町。ガイドのアルマ曰く、石造りがフランス式の建物で、木組みがドイツ式の建物らしい。アルマの言葉を明美が日本語に翻訳してくれているのだ。
まるで絵本の世界に入り込んだかのような感覚である。
大体の建物がお土産屋やカフェやレストランである。
「わあ、何か美味しそう」
「菫、さっきお昼食べたでしょう」
レストランに気を取られる菫に対し、そう注意する美桜。
先程昼食だったにも関わらず、空腹を刺激してくるような香りが漂い、誘惑に負けかける者もいた。
そして階段が多い。
先頭を歩くアルマは何てことないかのように歩いている。そして最年少の朱理も若さ故か平気な様子だ。悠人と佳奈の夫婦も軽々と歩いている。
美玲はというと、普段あまり運動していないせいか少し息を切らせている。
(結構階段多い……)
まだまだ上り切るまで距離があり、美玲は若干絶望気味な表情だった。
「岸本さん、大丈夫か?」
美玲の隣にやって来た誠一。心配そうに苦笑している。誠一は余裕そうである。
「まさかこんなに階段多いとは思ってなかった」
息を切らせながらそう答える美玲。
「俺も。こうなってるとは思ってなかった」
誠一はハハっと笑う。
「それにしては全然余裕そうじゃん」
美玲は恨めしげに誠一を見る。
「まあ普段週二、週三くらいの頻度でジムとか行ってるからな。運動不足解消のために」
ニッと笑う誠一だった。
(普段の運動不足のツケがここで出てくるとは……)
美玲は軽くため息をついた。
そしてモン・サン=ミッシェルへ向かう階段を上り切った美玲はふと後ろを振り返り見下ろす。
そこには潮が引いていることにより、広大な砂浜が広がっていた。そして、おそらくガイドであろう人物を先頭に、砂浜を裸足で歩く団体が見えた。
(わあ、人があんなに小さい。ここ、結構高さあるんだ……)
美玲は階段を上り切った達成感に包まれていた。
簡単な手荷物検査を受け、美玲達はモン・サン=ミッシェル中に入る。
ちなみに、モン・サン=ミッシェルが何故このような孤立した島に建てられたのには理由がある。当時の聖オベール司教が大天使ミカエルより、「岩山の上に聖堂を建てなさい」というお告げを受けたからであるのだ。
ちなみにこの話はバスの中で明美がしてくれた。
修道院の中はひんやりとした空気に満ちていた。メインとなる修道院附属教会は、天井が高く美しいステンドグラスが使用されている。そのステンドグラスの窓から差し込む光が、荘厳な雰囲気をさらに引き立てている。外が曇っていてもここまでの美しさなのだから、きっとこの日が晴れていたら更なる美しさで人々を圧倒していたのだろうと美玲は感じた。
(キリスト教とか、宗教的なことは全く分からない。でも、本当にこの場所で祈りを捧げていた人達がいるんだなあ……)
身が引き締まるような気持ちになる美玲だった。
そのままアルマに連れられて向かった先は、西のテラス。モン・サン=ミッシェル周囲を見渡せる展望エリアとして観光客に人気の場所である。
「あ! カモメだ〜!」
手すりのような場所に止まっているカモメを見つけた穂乃果が嬉しそうに写真を撮る。
人間が至近距離に来ても全く逃げる気配はない。人慣れしているようだ。
晃樹も冗談っぽく「ボンジュール」とカタコトのフランス語でカモメに挨拶している。その様子を笑いながら写真に撮る凛子。
美玲はゆっくりとテラスから見える景色を眺める。
「すごいな」
隣にいた誠一がそう呟く。
「そうだね」
美玲はクスッと笑い、頷く。
冷たい潮風を浴び、目を閉じて深呼吸をした。
広大な砂浜も、階段を上り切った時とは違った見え方である。そして、砂浜を超えた先に見えるのどかな平地。
美玲はそれらに表情を綻ばせた。
(日本では見られない光景だ)
その表情は、何かが吹っ切れたようである。
誠一がそんな美玲の横顔を、意味ありげに見つめていたことに、美玲は気付かなかった。
その後、中庭を囲む回廊を歩く美玲達。
この場所は神の空間ともみなされ、修道士たちは瞑想しながらここを歩いていたそうだ。
二本の柱で一組の列柱となっていて、その柱が少しずれて建てられている。こうすることで、回廊が永遠に続くかのような錯覚をもたらすらしい。
柱の上には意匠が凝らされた花のような彫刻などが彫られていた。
(確かに、ここをゆっくり歩いたら落ち着くだろうなあ)
美玲はそう思いながら写真を撮った。
食事室や迎賓の間や騎士の間など、モン・サン=ミッシェルを一通り見た美玲達は、最後にアルマと記念撮影をしてから自由行動になった。
各自で集合場所へ向かうようになっている。
◇◇◇◇
行きは進むのに必死でゆっくりと見ることが出来なかったモン・サン=ミッシェル麓の町。
しかし、生憎美玲達がモン・サン=ミッシェル見学を終えた時から激しい雨が降り出したので、のんびりと町を歩くのは難しかった。
そこで、美玲は町にあるお土産屋でお菓子を買い漁ることにした。
「結構買うな。もう見慣れてるけど」
誠一がフッと笑う。
結局何だかんだで美玲は誠一と行動していた。
「いいじゃん。せっかく来たんだし」
明るく笑う美玲。
「……そっか」
誠一はフッと笑った。
「そういや岸本さん、そのネックレス、シャルトルで買ったやつだよな? で、そっちのはシャンボール城か?」
誠一は美玲が身につけていたアクセサリーに気付いた。
「うん。もうせっかくだしじゃんじゃん使ってこうと思ってさ」
美玲はネックレスに触れ、楽しそうに笑う。
「日本に帰ってからつけるんじゃないんだな」
「まあね。今つけたかったからさ。今を楽しむことに集中しなきゃ」
苦笑する誠一に対し、美玲はあははと笑った。
「まあ……そうだな」
誠一はまたもや意味ありげな表情で美玲を見ていた。
その後、美玲は誠一と一緒に集合場所へ向かい、この日の観光を終えた。
そのままパリのホテルへと向かう一行であった。
まるで絵本の世界に入り込んだかのような感覚である。
大体の建物がお土産屋やカフェやレストランである。
「わあ、何か美味しそう」
「菫、さっきお昼食べたでしょう」
レストランに気を取られる菫に対し、そう注意する美桜。
先程昼食だったにも関わらず、空腹を刺激してくるような香りが漂い、誘惑に負けかける者もいた。
そして階段が多い。
先頭を歩くアルマは何てことないかのように歩いている。そして最年少の朱理も若さ故か平気な様子だ。悠人と佳奈の夫婦も軽々と歩いている。
美玲はというと、普段あまり運動していないせいか少し息を切らせている。
(結構階段多い……)
まだまだ上り切るまで距離があり、美玲は若干絶望気味な表情だった。
「岸本さん、大丈夫か?」
美玲の隣にやって来た誠一。心配そうに苦笑している。誠一は余裕そうである。
「まさかこんなに階段多いとは思ってなかった」
息を切らせながらそう答える美玲。
「俺も。こうなってるとは思ってなかった」
誠一はハハっと笑う。
「それにしては全然余裕そうじゃん」
美玲は恨めしげに誠一を見る。
「まあ普段週二、週三くらいの頻度でジムとか行ってるからな。運動不足解消のために」
ニッと笑う誠一だった。
(普段の運動不足のツケがここで出てくるとは……)
美玲は軽くため息をついた。
そしてモン・サン=ミッシェルへ向かう階段を上り切った美玲はふと後ろを振り返り見下ろす。
そこには潮が引いていることにより、広大な砂浜が広がっていた。そして、おそらくガイドであろう人物を先頭に、砂浜を裸足で歩く団体が見えた。
(わあ、人があんなに小さい。ここ、結構高さあるんだ……)
美玲は階段を上り切った達成感に包まれていた。
簡単な手荷物検査を受け、美玲達はモン・サン=ミッシェル中に入る。
ちなみに、モン・サン=ミッシェルが何故このような孤立した島に建てられたのには理由がある。当時の聖オベール司教が大天使ミカエルより、「岩山の上に聖堂を建てなさい」というお告げを受けたからであるのだ。
ちなみにこの話はバスの中で明美がしてくれた。
修道院の中はひんやりとした空気に満ちていた。メインとなる修道院附属教会は、天井が高く美しいステンドグラスが使用されている。そのステンドグラスの窓から差し込む光が、荘厳な雰囲気をさらに引き立てている。外が曇っていてもここまでの美しさなのだから、きっとこの日が晴れていたら更なる美しさで人々を圧倒していたのだろうと美玲は感じた。
(キリスト教とか、宗教的なことは全く分からない。でも、本当にこの場所で祈りを捧げていた人達がいるんだなあ……)
身が引き締まるような気持ちになる美玲だった。
そのままアルマに連れられて向かった先は、西のテラス。モン・サン=ミッシェル周囲を見渡せる展望エリアとして観光客に人気の場所である。
「あ! カモメだ〜!」
手すりのような場所に止まっているカモメを見つけた穂乃果が嬉しそうに写真を撮る。
人間が至近距離に来ても全く逃げる気配はない。人慣れしているようだ。
晃樹も冗談っぽく「ボンジュール」とカタコトのフランス語でカモメに挨拶している。その様子を笑いながら写真に撮る凛子。
美玲はゆっくりとテラスから見える景色を眺める。
「すごいな」
隣にいた誠一がそう呟く。
「そうだね」
美玲はクスッと笑い、頷く。
冷たい潮風を浴び、目を閉じて深呼吸をした。
広大な砂浜も、階段を上り切った時とは違った見え方である。そして、砂浜を超えた先に見えるのどかな平地。
美玲はそれらに表情を綻ばせた。
(日本では見られない光景だ)
その表情は、何かが吹っ切れたようである。
誠一がそんな美玲の横顔を、意味ありげに見つめていたことに、美玲は気付かなかった。
その後、中庭を囲む回廊を歩く美玲達。
この場所は神の空間ともみなされ、修道士たちは瞑想しながらここを歩いていたそうだ。
二本の柱で一組の列柱となっていて、その柱が少しずれて建てられている。こうすることで、回廊が永遠に続くかのような錯覚をもたらすらしい。
柱の上には意匠が凝らされた花のような彫刻などが彫られていた。
(確かに、ここをゆっくり歩いたら落ち着くだろうなあ)
美玲はそう思いながら写真を撮った。
食事室や迎賓の間や騎士の間など、モン・サン=ミッシェルを一通り見た美玲達は、最後にアルマと記念撮影をしてから自由行動になった。
各自で集合場所へ向かうようになっている。
◇◇◇◇
行きは進むのに必死でゆっくりと見ることが出来なかったモン・サン=ミッシェル麓の町。
しかし、生憎美玲達がモン・サン=ミッシェル見学を終えた時から激しい雨が降り出したので、のんびりと町を歩くのは難しかった。
そこで、美玲は町にあるお土産屋でお菓子を買い漁ることにした。
「結構買うな。もう見慣れてるけど」
誠一がフッと笑う。
結局何だかんだで美玲は誠一と行動していた。
「いいじゃん。せっかく来たんだし」
明るく笑う美玲。
「……そっか」
誠一はフッと笑った。
「そういや岸本さん、そのネックレス、シャルトルで買ったやつだよな? で、そっちのはシャンボール城か?」
誠一は美玲が身につけていたアクセサリーに気付いた。
「うん。もうせっかくだしじゃんじゃん使ってこうと思ってさ」
美玲はネックレスに触れ、楽しそうに笑う。
「日本に帰ってからつけるんじゃないんだな」
「まあね。今つけたかったからさ。今を楽しむことに集中しなきゃ」
苦笑する誠一に対し、美玲はあははと笑った。
「まあ……そうだな」
誠一はまたもや意味ありげな表情で美玲を見ていた。
その後、美玲は誠一と一緒に集合場所へ向かい、この日の観光を終えた。
そのままパリのホテルへと向かう一行であった。



