私は鏡の中に入らなかった。
そんな、よくわからない世界に行きたくないと思った。
「なぁんてね! もうひとつの世界から来たなんて冗談よ。ビックリした?」
カレンちゃんはいつものようにニコッと笑った。でも私はさすがに笑えなかった。
「……嘘? やっぱり嘘だったの? ひどいよ、カレンちゃん!」
私はもうカレンちゃんについていけなくなった。嘘ばかりつく人とは付き合いたくない。
「……自分だって……」
「え?」
カレンちゃんが何かボソッと言ったようだったけど、よく聞こえなかった。
「私、帰るね」
私はそう言うと、カレンちゃんを残して先に校舎を出た。
辺りはもうすっかり暗くなっている。
カレンちゃんの七不思議に付き合うんじゃなかったと後悔した。
その時、「チリン」と鈴の音がした。私はずっと握りしめていた右の掌を広げてみる。
「え……なんで鈴が……」
私はなぜかカレンちゃんの鈴を握りしめていた。鈴を探してはいたけど全然見つからなかったのに……。
首を傾げていると、校門の前に誰かが立っているのが見えた。
今にも消えそうな電灯に照らされていたのは、髪をボサボサにした大人の女の人だった。
「!」
全身真っ白い服を着ているからか、一瞬幽霊に見えた。その女の人は棒立ちになってずっと私の方を見ている。
気味が悪いなと思って、目をなるべく合わさないように横を通りすぎようとした時、
「あなただったのね、カレンをいじめたのは」
突然そんなことを言われ、私は思わずその女の人に振り返ってしまった。
女の人はギロリと私を上から睨みつける。私は怖くて体が震えて動けなくなってしまった。
「公園で遊んでいるうちの子を学校に連れ回し……学校の七不思議で怖がらせ、我が子をトイレに置き去りにした……」
「!?」
「カレンは泣きながら学校を出て……車に轢かれて死んでしまったのよ……!!」
「!!」
私は震えながら頭を左右に振った。
「し、知らないっ……知らない、知らない……!」
私がカレンちゃんをいじめた?
カレンちゃんをトイレに置き去りにした? カレンちゃんは車に轢かれて死んでしまった?
じゃあさっきまで一緒にいたカレンちゃんは?
七不思議をしていたカレンちゃんは?
この女の人は一体誰のことを言ってるの?
「ユキちゃん」
その時、背後からカレンちゃんの声がした。
「カレンちゃん……!」
私はカレンちゃんの腕にしがみついた。
「助けて、カレンちゃん! 変な人がっ……」
「紹介するね、ユキちゃん。この人がカレンのママよ」
「……えっ……」
「カレンを一番に愛してくれる、自慢のママよ」
カレンちゃんはそう言うと、私の手を振り払い、カレンちゃんのお母さんに寄り添った。
「ああ、カレン……心配したわ。怪我はない?」
「大丈夫よ、ママ」
カレンちゃんのお母さんは、カレンちゃんの頭を優しく撫でる。
私はもうわけがわからなかった。
さっきカレンちゃんのお母さんの話では、カレンちゃんは車に轢かれて死んでしまったって言ってたのに……。
「ユキちゃん、まだ思い出せないの?」
「カレンちゃん……何を? 私、何もしてな……」
「おかしいわね。ユキちゃんがカレンにしたことと同じことをしてあげたのに、全然思い出せないなんて」
「わけわかんないっ……カレンちゃんはここにいるじゃん!」
この親子はおかしい、そう思った。
でも突然、目の前にいたカレンちゃんが消えて、私の足元に人形が落ちてきた。
それを拾い上げようとすると、
「触らないで!!」
と、カレンちゃんのお母さんに怒鳴られた。
その人形は金色の髪に青色の目をした、カレンちゃんにそっくりな人形だった。
まるで、カレンちゃんが人形になってしまったかのように……。
「あなたがカレンのことを思い出さない限り、あなたは永遠にこの世界をさまようことになるわよ……」
そう言うと、カレンちゃんのお母さんは人形を抱いたまま去って行ってしまった。
そして私は……
カレンちゃんのお母さんが言ったとおり、いまだに学校の七不思議の世界から抜け出せないでいた。
【おわり】
そんな、よくわからない世界に行きたくないと思った。
「なぁんてね! もうひとつの世界から来たなんて冗談よ。ビックリした?」
カレンちゃんはいつものようにニコッと笑った。でも私はさすがに笑えなかった。
「……嘘? やっぱり嘘だったの? ひどいよ、カレンちゃん!」
私はもうカレンちゃんについていけなくなった。嘘ばかりつく人とは付き合いたくない。
「……自分だって……」
「え?」
カレンちゃんが何かボソッと言ったようだったけど、よく聞こえなかった。
「私、帰るね」
私はそう言うと、カレンちゃんを残して先に校舎を出た。
辺りはもうすっかり暗くなっている。
カレンちゃんの七不思議に付き合うんじゃなかったと後悔した。
その時、「チリン」と鈴の音がした。私はずっと握りしめていた右の掌を広げてみる。
「え……なんで鈴が……」
私はなぜかカレンちゃんの鈴を握りしめていた。鈴を探してはいたけど全然見つからなかったのに……。
首を傾げていると、校門の前に誰かが立っているのが見えた。
今にも消えそうな電灯に照らされていたのは、髪をボサボサにした大人の女の人だった。
「!」
全身真っ白い服を着ているからか、一瞬幽霊に見えた。その女の人は棒立ちになってずっと私の方を見ている。
気味が悪いなと思って、目をなるべく合わさないように横を通りすぎようとした時、
「あなただったのね、カレンをいじめたのは」
突然そんなことを言われ、私は思わずその女の人に振り返ってしまった。
女の人はギロリと私を上から睨みつける。私は怖くて体が震えて動けなくなってしまった。
「公園で遊んでいるうちの子を学校に連れ回し……学校の七不思議で怖がらせ、我が子をトイレに置き去りにした……」
「!?」
「カレンは泣きながら学校を出て……車に轢かれて死んでしまったのよ……!!」
「!!」
私は震えながら頭を左右に振った。
「し、知らないっ……知らない、知らない……!」
私がカレンちゃんをいじめた?
カレンちゃんをトイレに置き去りにした? カレンちゃんは車に轢かれて死んでしまった?
じゃあさっきまで一緒にいたカレンちゃんは?
七不思議をしていたカレンちゃんは?
この女の人は一体誰のことを言ってるの?
「ユキちゃん」
その時、背後からカレンちゃんの声がした。
「カレンちゃん……!」
私はカレンちゃんの腕にしがみついた。
「助けて、カレンちゃん! 変な人がっ……」
「紹介するね、ユキちゃん。この人がカレンのママよ」
「……えっ……」
「カレンを一番に愛してくれる、自慢のママよ」
カレンちゃんはそう言うと、私の手を振り払い、カレンちゃんのお母さんに寄り添った。
「ああ、カレン……心配したわ。怪我はない?」
「大丈夫よ、ママ」
カレンちゃんのお母さんは、カレンちゃんの頭を優しく撫でる。
私はもうわけがわからなかった。
さっきカレンちゃんのお母さんの話では、カレンちゃんは車に轢かれて死んでしまったって言ってたのに……。
「ユキちゃん、まだ思い出せないの?」
「カレンちゃん……何を? 私、何もしてな……」
「おかしいわね。ユキちゃんがカレンにしたことと同じことをしてあげたのに、全然思い出せないなんて」
「わけわかんないっ……カレンちゃんはここにいるじゃん!」
この親子はおかしい、そう思った。
でも突然、目の前にいたカレンちゃんが消えて、私の足元に人形が落ちてきた。
それを拾い上げようとすると、
「触らないで!!」
と、カレンちゃんのお母さんに怒鳴られた。
その人形は金色の髪に青色の目をした、カレンちゃんにそっくりな人形だった。
まるで、カレンちゃんが人形になってしまったかのように……。
「あなたがカレンのことを思い出さない限り、あなたは永遠にこの世界をさまようことになるわよ……」
そう言うと、カレンちゃんのお母さんは人形を抱いたまま去って行ってしまった。
そして私は……
カレンちゃんのお母さんが言ったとおり、いまだに学校の七不思議の世界から抜け出せないでいた。
【おわり】