「──ちゃん、ユキちゃん!!」


 どこからか、カレンちゃんの声がする。
 私の視界は真っ暗だ──いや、うっすらと光が見える。


「ユキちゃん、しっかりして!!」


 目を開けると、今にも泣き出しそうなカレンちゃんの顔が見えた。


「あれ……? 私なんで……」


 私はトイレの入り口で横たわっていた。


「ユキちゃん、覚えてないの? ユキちゃんがトイレから出てくるのを待っていたら、急に悲鳴が聞こえたの。それで見に行こうとしたら、ユキちゃんが突然飛び出してきて、気を失って倒れちゃったのよ!」

「……っ……」


 そうだ私、トイレの花子さんを見ちゃったんだ!


「カレンちゃん……! 出たの! トイレの花子さんが、出たの!」

「……え……」

「さっき女子三人組がトイレに来て花子さんを呼び出したから、花子さんが出てきちゃって……」

「待って、ユキちゃん。三人組って?」

「!?」

「ずっと入り口でユキちゃんを待ってたけど、誰もトイレに入ってないわよ?」

「……うそっ……」

「本当よ。カレン、ずっと一人でここで待ってたもの」

「嘘だ!!」


 私はカレンちゃんを突き飛ばした。


「ユキちゃん……!?」

「なんでそんな嘘つくの? 私を怖がらせて楽しい?」

「何を言ってるの、ユキちゃん……全く意味がわからないわ」

「じゃあ、何!? さっきの三人組が幽霊だって言うの? あんなにハッキリ会話が聞こえたのに!」

「……カレンには何も聞こえなかったわ」


 私はカッとなって、ランドセルを背負って歩き出した。


「もういい、帰る! カレンちゃんにつきあってたら、変なことばかり起きるもん!!」

「……カレンのせいなの?」

「そうだよ、全部カレンちゃんのせいなんだから!!」


 私はそこまで言って、我に返った。さすがに今のは言い過ぎたと思った。
 謝ろうとカレンちゃんの方に振り返ると、カレンちゃんは何故か笑っていた。


「ふふふ、そうね……カレンのせいかもしれないわね」

「……カレンちゃん?」


 てっきり悲しませたと思ったのに、カレンちゃんはずっとクスクス笑っている。


「やめてよ、なんで笑うの?」

「あのね、ユキちゃん。カレンの秘密を教えてあげる」

「秘密……?」


 わけがわからなかった。
 嫌な予感もした。
 でもカレンちゃんの秘密と聞いて、好奇心の方が勝ってしまった。私はカレンちゃんの後をついて、屋上への階段を上がって行く。
 何気なしに数えてしまった階段の数は13段だった。


 階段を上った先には大きな鏡があった。埃が被っていて、自分の姿がぼんやりとしか写らない。


「カレンはね、この世界の住人じゃないの」

「え?」


 カレンちゃんは唐突にわけがわからないことを話し始めた。


「この鏡を使って、もうひとつの世界から来たのよ。友達を探しに来たの。ずっと一人で寂しかったから……」


 そう言うと、カレンちゃんはニコッと笑った。


「ねえ、ユキちゃん。カレンと一緒に鏡の中に入ってみない?」

「えっ……」


 私は大きな鏡をじっくり見た。
 変わらず自分の姿がぼんやりと写るだけで、変わったところは特にない。


 本当にカレンちゃんは、この鏡を使ってもうひとつの世界から来たのだろうか。
 そんなことが本当にあるんだろうか。


 興味があるけど、怖い──。
 私は……


【A】 鏡の中に入った→第六章
【B】 鏡の中に入らなかった→第七章