カレンちゃんは私が落ち着くまで、ずっと頭を撫でて抱きしめてくれた。
「カレンもね、毎日ママにこうやって抱きしめてもらってるの」
「そうなんだ……」
私は半分ボッーとしながら、羨ましいなぁと思った。そういえば小学生になってから、あまりお母さんに抱きしめてもらってない。
「ママはね、仕事から帰ってくるとすぐにカレンを抱きしめるの。それからご飯食べる時も、お風呂に入る時も寝る時も、ずうっと一緒にいてくれるのよ」
「お風呂も!?」
「そうよ、お風呂も。私の髪と体を毎日綺麗にしてくれるの」
「え~恥ずかしくないの?」
「どうして? 全然恥ずかしくないわ」
「……」
なんだかカレンちゃんちのお母さんは、ちょっと子離れできてないのかなって思った。
でもどうりで、カレンちゃんの肌はスベスベで、髪もサラサラなんだと納得した。
「あっ……」
「どうしたの?」
「……っ……」
どうしよう。
安心したらトイレに行きたくなってしまった。できれば家まで我慢したいけど、我慢出来なさそう。
「もしかして、トイレ?」
「……うん……」
「我慢しちゃだめよ。膀胱炎になっちゃうわよ。カレンもついていくからトイレに行きましょ」
カレンちゃんはまるで大人みたいなことを言う。私と手を繋ぐと、近くにあるトイレまで連れていってくれた。
「ランドセルはカレンが持ってるわね。ごゆっくり」
「本当にここにいてね? いなくならないでね?」
私はニコニコしているカレンちゃんに少し不安を覚えながらも、四つある一番奥の個室へと入った。
もう我慢できなかった。
用を足すとホッと息を吐いた。
──そういえばカレンちゃんの鈴、見つかったのかな? あとで聞いてみよう。
それにしてもさっき教室で見たアレは一体なんだったんだろう。はっきりとは見えなかったけど、上半身がなかったような気がする……。
「……」
私はハッとして、頭を左右に振った。
トイレでつい考え事をしてしまうのは私の悪い癖だ。カレンちゃんも待ってるし、怖いし、早く出よう──そう思った時、人の話し声と複数の足音が聞こえてきた。
「どうする? 誰がやる?」
「ね~やめようよ~、本当に花子さんが出たらどうするの?」
「花子さんが出たらスマホで写真撮って、SNSにアップするんじゃん」
──花子さん!?
私はその三人の女子の会話を聞いてビックリした。と、同時にどうしたらいいかわからなくなった。
すぐに個室から出れば良かったんだけど、なぜか急に身体が金縛りにあったかのように動けなくなってしまい、声も出すことができなくなってしまった。
そうこうしているうちに、入り口から近い個室のトイレから順にノックする音が響いてきた。
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
そしてついに私がいる四番目の個室の番になった。私は目を瞑り、気づかれないように息をひそめた。
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
「…………」
辺りはシーンと静まり返る。
私は気づいてほしいような、気づいてほしくないような、そんな複雑な気持ちになった。
「なぁんだ、何も起こらないじゃん」
「よかったぁ~」
「え~、面白くな~い」
三人はあっさりと女子トイレから出て行った。すると私の金縛りも解けて、声も出せるようになった。
「もう、一体なんなの……」
まさか自分がトイレに入ってる時に、花子さんを呼び出されるなんて思いもよらなかった。
それにトイレの入り口にはカレンちゃんがいるはず。どうしてカレンちゃんは彼女たちに、私がトイレを利用していることを言ってくれなかったんだろう。
少しモヤモヤしながら洗面所で手を洗っていると、なんとなく背後が気になって、鏡越しで個室の方を見てみた。
すると黒い髪のおかっぱ頭の女の子がこっちを見て立っているのが見えて、一瞬で体が凍りついた。
『……イルヨ……』
顔はよく見えない。でも何か言っている。
『……ワタシハ……ココニ……イルヨ……』
「きゃあああああっ!!」
「カレンもね、毎日ママにこうやって抱きしめてもらってるの」
「そうなんだ……」
私は半分ボッーとしながら、羨ましいなぁと思った。そういえば小学生になってから、あまりお母さんに抱きしめてもらってない。
「ママはね、仕事から帰ってくるとすぐにカレンを抱きしめるの。それからご飯食べる時も、お風呂に入る時も寝る時も、ずうっと一緒にいてくれるのよ」
「お風呂も!?」
「そうよ、お風呂も。私の髪と体を毎日綺麗にしてくれるの」
「え~恥ずかしくないの?」
「どうして? 全然恥ずかしくないわ」
「……」
なんだかカレンちゃんちのお母さんは、ちょっと子離れできてないのかなって思った。
でもどうりで、カレンちゃんの肌はスベスベで、髪もサラサラなんだと納得した。
「あっ……」
「どうしたの?」
「……っ……」
どうしよう。
安心したらトイレに行きたくなってしまった。できれば家まで我慢したいけど、我慢出来なさそう。
「もしかして、トイレ?」
「……うん……」
「我慢しちゃだめよ。膀胱炎になっちゃうわよ。カレンもついていくからトイレに行きましょ」
カレンちゃんはまるで大人みたいなことを言う。私と手を繋ぐと、近くにあるトイレまで連れていってくれた。
「ランドセルはカレンが持ってるわね。ごゆっくり」
「本当にここにいてね? いなくならないでね?」
私はニコニコしているカレンちゃんに少し不安を覚えながらも、四つある一番奥の個室へと入った。
もう我慢できなかった。
用を足すとホッと息を吐いた。
──そういえばカレンちゃんの鈴、見つかったのかな? あとで聞いてみよう。
それにしてもさっき教室で見たアレは一体なんだったんだろう。はっきりとは見えなかったけど、上半身がなかったような気がする……。
「……」
私はハッとして、頭を左右に振った。
トイレでつい考え事をしてしまうのは私の悪い癖だ。カレンちゃんも待ってるし、怖いし、早く出よう──そう思った時、人の話し声と複数の足音が聞こえてきた。
「どうする? 誰がやる?」
「ね~やめようよ~、本当に花子さんが出たらどうするの?」
「花子さんが出たらスマホで写真撮って、SNSにアップするんじゃん」
──花子さん!?
私はその三人の女子の会話を聞いてビックリした。と、同時にどうしたらいいかわからなくなった。
すぐに個室から出れば良かったんだけど、なぜか急に身体が金縛りにあったかのように動けなくなってしまい、声も出すことができなくなってしまった。
そうこうしているうちに、入り口から近い個室のトイレから順にノックする音が響いてきた。
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
そしてついに私がいる四番目の個室の番になった。私は目を瞑り、気づかれないように息をひそめた。
コンコンコン
「花子さん、遊びましょう」
「…………」
辺りはシーンと静まり返る。
私は気づいてほしいような、気づいてほしくないような、そんな複雑な気持ちになった。
「なぁんだ、何も起こらないじゃん」
「よかったぁ~」
「え~、面白くな~い」
三人はあっさりと女子トイレから出て行った。すると私の金縛りも解けて、声も出せるようになった。
「もう、一体なんなの……」
まさか自分がトイレに入ってる時に、花子さんを呼び出されるなんて思いもよらなかった。
それにトイレの入り口にはカレンちゃんがいるはず。どうしてカレンちゃんは彼女たちに、私がトイレを利用していることを言ってくれなかったんだろう。
少しモヤモヤしながら洗面所で手を洗っていると、なんとなく背後が気になって、鏡越しで個室の方を見てみた。
すると黒い髪のおかっぱ頭の女の子がこっちを見て立っているのが見えて、一瞬で体が凍りついた。
『……イルヨ……』
顔はよく見えない。でも何か言っている。
『……ワタシハ……ココニ……イルヨ……』
「きゃあああああっ!!」