森や村、そして妖達を守る使命のある信は屋敷を離れ各地を飛び回っていた。
愛する妻である陽子のそばにいたい早く彼女に会いたいという気持ちがどんどん強くなってゆく。信を苛立たせる原因だった。
だが、紅葉から「幾ら陽子様のそばに居たいからって変な態度だけはとらないように。嫌われちゃいますよ?」と釘を打たれていたお陰でなんとか平常心を保つことができていた。
(陽子に嫌われるなんて辛い。生きていけない…)
屋敷にはつらら達がいるから安心ではあるが、やはり心配は尽きない。
ようやくあの地獄のような家と家族から逃げ出すことができた陽子を再び危険に晒したくなかった。もし、今みたいに自分がいない時に何かあったらと思うと信は気が気でなかった。
ため息をつくと"かーかー"と背後から鴉の声が聞こえてきた。信は声がして方に振り向く。
声の正体は鴉の妖である譲葉だった。鴉神の使いでもある彼は信の友人の一人だ。
譲葉は嘴に何かを咥えながら信の肩にそっと乗った。
「なんだ譲葉か。何か用か?」
「ああ。ある人間がお前さんに彼を渡せとよ。まーーったく、いやな人間共だぜ。これでも俺神様の使いなのによぉ!」
「やけに機嫌が悪いな。何があった?」
「今まで会った人間で一番最悪だったぜ。態度は悪いし、変なガキには追いかけ回されるし!!それに!あの村の巫女はなんだ?!全然なっとらん!!」
「巫女…?その女の名は知ってるか?」
「確か"れいな"って周りから呼ばれてたな。俺を見た途端撃ち落とせ!気持ち悪いとか言い出して散々だわ」
譲葉の口から出た玲奈の名。
彼が手紙を受け取ったのは陽子が住んでいた村からだろう。しかも、陽子を傷つけたものからの伝言。信は譲葉から受け取った手紙を開き読み始めた。
その手紙には、いかにもあの親子の我儘であろう要求が手紙にしたためられていた。
陽子が龍神の巫女になった時は行われなかった任命式と祝い。玲奈の母親が金の無駄だからと婚姻の儀同様に妨害されたが可愛い我が子の場合は逆だ。
信は怒りを覚え手紙を強く握り紙に皺を作らせた。
そして、もう一つ要求してきたものがある。それは龍神と巫女を顔合わせする儀式だ。どうしても龍神様の顔を拝みたいという玲奈の我儘から生まれたものだというのは文面だけですぐに分かってしまった。信の苛立ちがさらに増す。
(陽子の時は何もしなかったくせに。ふざけてる…)
「おい。信。あんま怒んなよ。周りの奴らがビビってる」
小動物や妖が怒る龍神を見て怯えていた。けれど、それ程までに信は玲奈達に怒りを覚えたのだ。譲葉は察した上で彼を諫めた。
「俺の顔を見てなんになる。ろくに巫女の務めを果たしてない癖に」
「やっぱアレじゃないか?蛇神・瑪瑙の…」
「……なるほど。小賢しい奴らめ」
信は彼女らを監視してゆくうちに、何故陽子達の前に現れたのかその目的が明らかなになっていった。
玲奈達親子が陽子の前に現れ後妻になった最大の理由。それは、先祖が引き起こした惨劇が原因だった。
蛇神・瑪瑙とその家族達を我欲の為に襲い、瑪瑙を復讐の鬼へと変えたあの女の子孫。子孫達は、瑪瑙の呪いから逃れるために各地を転々としていた。
そして、呪いから逃れる為には瑪瑙の憎しみが込められたあの黒い結晶を破壊するしかないとどこかで知ったのだろう。
決勝の在処を探る事と、陽子が亡き母から継いだ巫女の名と癒しの異能を奪い取る為に近付いた。
挙げ句の果てに子孫である玲奈は、真の龍神の巫女である陽子を陥れ殺そうとした。もう救いようがないと思えてしまう。
「あの玲奈って巫女さん。随分面食いらしーぞ?もう旦那もいるってのにねぇ〜」
どこからか流れてきた噂を聞いて龍神に会ってみたいと思ったのだろう。どこまでも愚かな女だと信と譲葉は呆れ返った。
「そんなに会いたいなら。会ってやるさ。でも…」
「でも?」
「陽子がなんて言うか…。妹に会いに行くと言ったらきっと悲しむ」
「そうかもしれんけど、親父さんと蛇神との約束を果たすには避けては通れんぜ?」
「分かってる」
屋敷で待っている陽子の気持ちを考えると躊躇してしまう。
また妹に奪われてしまうのではないかと。
(もう悲しませないと約束したのに)
少しでもいいからあの親子の本性を知りたい。陽子に危害を加えた奴らの顔も全員覚えてやりたかった。
どんな風に断罪してやろうかと想像できる。
愛する人を傷つけた者には誰であろうと許さない。
きっと、蛇神・瑪瑙も同じ思いであの結晶の中にいるのだろう。痛いほど気持ちがわかる。
そして、これは彼女の大切な母親の形見の奪還に繋がることでもある。陽子の笑顔を守る為の糧だと信は自分に言い聞かせた。
「譲葉」
「ん?」
「龍神の巫女の一族に伝えろ。承諾したと」
「え?!いいのかよ?!!」
「いいから。俺の気が変わらないうちに」
だぁー!!本当人使いが荒い〜!!!っとぼやきながら譲葉は再び玲奈達が住む村の方へと飛び立って行った。
信は白鷺に姿を変え、心にモヤを抱えたまま陽子が待つ屋敷へと飛び立った。
早く愛する人に会いたい。手紙のことを伝え必ず戻ってくると伝えたい。
その気持ちを抱えたまま空を駆けていった。
偽りの巫女である玲奈の仮初の幸せが崩れる音がするのはもう時間の問題だろう。
愛する妻である陽子のそばにいたい早く彼女に会いたいという気持ちがどんどん強くなってゆく。信を苛立たせる原因だった。
だが、紅葉から「幾ら陽子様のそばに居たいからって変な態度だけはとらないように。嫌われちゃいますよ?」と釘を打たれていたお陰でなんとか平常心を保つことができていた。
(陽子に嫌われるなんて辛い。生きていけない…)
屋敷にはつらら達がいるから安心ではあるが、やはり心配は尽きない。
ようやくあの地獄のような家と家族から逃げ出すことができた陽子を再び危険に晒したくなかった。もし、今みたいに自分がいない時に何かあったらと思うと信は気が気でなかった。
ため息をつくと"かーかー"と背後から鴉の声が聞こえてきた。信は声がして方に振り向く。
声の正体は鴉の妖である譲葉だった。鴉神の使いでもある彼は信の友人の一人だ。
譲葉は嘴に何かを咥えながら信の肩にそっと乗った。
「なんだ譲葉か。何か用か?」
「ああ。ある人間がお前さんに彼を渡せとよ。まーーったく、いやな人間共だぜ。これでも俺神様の使いなのによぉ!」
「やけに機嫌が悪いな。何があった?」
「今まで会った人間で一番最悪だったぜ。態度は悪いし、変なガキには追いかけ回されるし!!それに!あの村の巫女はなんだ?!全然なっとらん!!」
「巫女…?その女の名は知ってるか?」
「確か"れいな"って周りから呼ばれてたな。俺を見た途端撃ち落とせ!気持ち悪いとか言い出して散々だわ」
譲葉の口から出た玲奈の名。
彼が手紙を受け取ったのは陽子が住んでいた村からだろう。しかも、陽子を傷つけたものからの伝言。信は譲葉から受け取った手紙を開き読み始めた。
その手紙には、いかにもあの親子の我儘であろう要求が手紙にしたためられていた。
陽子が龍神の巫女になった時は行われなかった任命式と祝い。玲奈の母親が金の無駄だからと婚姻の儀同様に妨害されたが可愛い我が子の場合は逆だ。
信は怒りを覚え手紙を強く握り紙に皺を作らせた。
そして、もう一つ要求してきたものがある。それは龍神と巫女を顔合わせする儀式だ。どうしても龍神様の顔を拝みたいという玲奈の我儘から生まれたものだというのは文面だけですぐに分かってしまった。信の苛立ちがさらに増す。
(陽子の時は何もしなかったくせに。ふざけてる…)
「おい。信。あんま怒んなよ。周りの奴らがビビってる」
小動物や妖が怒る龍神を見て怯えていた。けれど、それ程までに信は玲奈達に怒りを覚えたのだ。譲葉は察した上で彼を諫めた。
「俺の顔を見てなんになる。ろくに巫女の務めを果たしてない癖に」
「やっぱアレじゃないか?蛇神・瑪瑙の…」
「……なるほど。小賢しい奴らめ」
信は彼女らを監視してゆくうちに、何故陽子達の前に現れたのかその目的が明らかなになっていった。
玲奈達親子が陽子の前に現れ後妻になった最大の理由。それは、先祖が引き起こした惨劇が原因だった。
蛇神・瑪瑙とその家族達を我欲の為に襲い、瑪瑙を復讐の鬼へと変えたあの女の子孫。子孫達は、瑪瑙の呪いから逃れるために各地を転々としていた。
そして、呪いから逃れる為には瑪瑙の憎しみが込められたあの黒い結晶を破壊するしかないとどこかで知ったのだろう。
決勝の在処を探る事と、陽子が亡き母から継いだ巫女の名と癒しの異能を奪い取る為に近付いた。
挙げ句の果てに子孫である玲奈は、真の龍神の巫女である陽子を陥れ殺そうとした。もう救いようがないと思えてしまう。
「あの玲奈って巫女さん。随分面食いらしーぞ?もう旦那もいるってのにねぇ〜」
どこからか流れてきた噂を聞いて龍神に会ってみたいと思ったのだろう。どこまでも愚かな女だと信と譲葉は呆れ返った。
「そんなに会いたいなら。会ってやるさ。でも…」
「でも?」
「陽子がなんて言うか…。妹に会いに行くと言ったらきっと悲しむ」
「そうかもしれんけど、親父さんと蛇神との約束を果たすには避けては通れんぜ?」
「分かってる」
屋敷で待っている陽子の気持ちを考えると躊躇してしまう。
また妹に奪われてしまうのではないかと。
(もう悲しませないと約束したのに)
少しでもいいからあの親子の本性を知りたい。陽子に危害を加えた奴らの顔も全員覚えてやりたかった。
どんな風に断罪してやろうかと想像できる。
愛する人を傷つけた者には誰であろうと許さない。
きっと、蛇神・瑪瑙も同じ思いであの結晶の中にいるのだろう。痛いほど気持ちがわかる。
そして、これは彼女の大切な母親の形見の奪還に繋がることでもある。陽子の笑顔を守る為の糧だと信は自分に言い聞かせた。
「譲葉」
「ん?」
「龍神の巫女の一族に伝えろ。承諾したと」
「え?!いいのかよ?!!」
「いいから。俺の気が変わらないうちに」
だぁー!!本当人使いが荒い〜!!!っとぼやきながら譲葉は再び玲奈達が住む村の方へと飛び立って行った。
信は白鷺に姿を変え、心にモヤを抱えたまま陽子が待つ屋敷へと飛び立った。
早く愛する人に会いたい。手紙のことを伝え必ず戻ってくると伝えたい。
その気持ちを抱えたまま空を駆けていった。
偽りの巫女である玲奈の仮初の幸せが崩れる音がするのはもう時間の問題だろう。