あれから一週間が過ぎた。その間響希は一度も病室に来なかった。以前はほぼ毎日来てくれていたので心配になりつつ、信じて待ってみることにした。
 
 響希がまたお見舞いをしに来てくれたのは、それから約一ヶ月後のことだった。
 
 
「鈴花さん!ずっと行けなくてごめん。」 
「響希!?長い間来なかったけど何かあったの…?」
「………いや言う程のことではない。」
「なにそれ…ほぼ毎日来てたのに途中から来ないし、連絡もないし。ずっと心配してたんだよ…!」
「ごめんね…これを話すときっと君の未来も変わってしまうから…」
 何を言っているのか理解出来なかった。わけを話すと未来が変わる?そんなことがあるのだろうか。
 
 ────無理やりにでもいいわ。この人は押しに弱いから聞き出しなさい。今すぐに。

 久しぶりに女の人の声を聞いた。守護霊のようなものなのかわからないが、従ってみることにした。
「いいから教えてよ響希!何かあったんでしょ!?私も力になれるかもしれない。たとえ未来が変わっても!」
 
 響希はしばらく黙っていた。やっとかという時に、口を開いた。

「実は…君の記憶はまだ戻っていないけど、未来に帰れたんだ。」
「帰れたの!?でもどうやって…?」
「未来の鈴花さんが俺を帰らせたみたいで。」
「未来の私そんなことできるの!?」
「あぁ、そうらしい。ただ…もう未来の鈴花さんは亡くなった。」
「え…?」
 私は目を見開いた。衝撃だった。未来の私が死んでいる?じゃあ私は若くして亡くなってしまうということなのか。
「突然こんなこと言われても、びっくりするよね。俺もまだ混乱してる…」
「まって!じゃあどうして響希はまた過去に来ることが出来ているの?」
「それは分からない、気がついたらここに居たんだ。もしかしたら幽霊になった鈴花さんもここにいるのかもな、(笑)」
 響希は苦笑しながらも、重くなった空気を和まそうとする。大変な時にそんな冗談言わなくていいんだよ、と言いたかったが口を開くことさえできなかった。
  
 ─────冗談なんて滅多に言わないのに、ばれていたのね。
 
 また女の人の声…ばれていたってどういうことだろう…?
 ──あっ
 少しだけ分かった。
「響希、冗談なんか言わないで。未来の私は本当に幽霊になってるみたい。」
「鈴花さんが幽霊…?俺に冗談を言わせないで、自分は言うんだな(笑)しかもそんな真顔で。」
「違う!!前に私は女の人の声が聞こえるって言ったでしょう?あれはきっと未来の私の声なの!」
「そんなこと有り得るのか…?」
「さっき未来の私が言ってたの。響希が幽霊になった鈴花さんがここにいるって言った後に、ばれていたのねって。」
「えっ───。鈴花さん本当にいるの…?どこにいるの?出来ることならもう一度だけ会いたい…」
 
 ─────本当に仕方のない人ね。じゃあゲームをしましょう。私は昔、人と関わることが苦手でそんな自分がコンプレックスだったの。記憶喪失の私は覚えていないかもしれないけど、本当は人と関わりたかったし、自分を変えたかった。そこで三日以内に、記憶を失くしている貴方が響希や杏と記憶を取り戻し、人と素直に関わることができるようになれば、貴方たちの勝ち。そうなれば私は声だけじゃなく姿も、貴方と響希の前に現れる。どうかしら?

 三日以内…厳しいゲームだけど、響希のためなら勝つしかない。
「響希、絶対勝つよ!!」
「えぇ急に何!?」
 
 響希が未来の私の声が聞こえないことを忘れていた。すぐに言っていたことを説明すると響希はやる気で満ちていた。
「よしやるぞ!鈴花さん頑張ろう!絶対記憶を取り戻して、君の性格もコンプレックスじゃなくなるように変えよう!
 とりあえず、何から始めようか?」
「うーん…あっそうだ。響希に聞きたいことあったんだけど、私と同じ学校だったの…?」
「─なんでそれを知っているんだ…?」

 やっぱり隠していたんだ。でも何の為に?
「どうして教えてくれなかったの…?」
「言う必要もないかなって、被ってた時期はないんだし…」
「もしかしたら出会っていたかもしれないでしょ…!」
「───そうだよ本当は出会ってた。学校で。」
「どういうこと…?」
「俺吹奏楽部だったんだ。そこで鈴花さんの入学式の時、部員が足りないからOBも一緒に演奏してくれないかって頼まれて。そこで鈴花さんを見た時、俺は人生で初めて一目惚れをした。」
「一目惚れ…響希って見た目で選ぶタイプなんだね(笑)」
「いやそこかよ。鈴花さんは特別だったんだよ、あとから話しかけて話しているうちに心も開いてくれて、性格も大好きなんだ。」

 なんだかまた頭が痛い…あぁ゙──
「なにか思い出した…?」
「そういえば、今思い出したけど、入学式の時話しかけてきた男の人いたかも…あの人が響希だったのかな。」
「それ俺だ!入学式の時話しかけたんだ。」
 
 ─────君音楽好きだったりする?
 ──別に。音楽は好きですけど人に興味は無いので。

「私に音楽好きか聞いた…?」
「聞いた!もしかして記憶が戻ってきた?」
「かもしれない…それで私は、別にって答えたあと、音楽は好きだけど人に興味が無いって答えた…?」
「答えてた!面白い子だと思ってたんだよなぁ」
「私面白い人だったの?」
「俺にとってはね(笑)」
「そんなことより急がなきゃ!あと二日!」
「でも今の話で思い出せてきてるから、入学式を再現してみるのもありかもしれない…」
「再現…?でも2人だけでどうやって…?」
「鈴花さん人脈を広くするんだよ。そして少しでも多くの人に協力してもらう。これで記憶が戻った時も友達が増えて、だんだんと人と関わることができるようになるかもしれない。」
「確かに!じゃあ杏ちゃんに友達紹介してもらおっと」

 杏ちゃんなら人脈が広いから、たくさんの人を呼べるはず。絶対に記憶を取り戻して響希と未来の私を会わせてあげたい。