その日の夜──「(頭痛いし、気持ち悪い、はぁ、あれなにか見える、ああ゙あ゙)」
 
 ─────鈴香ー!おはよー!(杏ちゃん…?)
 山城さんおはよう。
  鈴花、そろそろ私のこと杏って呼んでくれてもいいんじゃないのー?(これってもしかして…)
 せっかく仲良くなれたのに───

 頭痛がしてから見えた、幻聴のようなものは私の記憶喪失になる前の出来事なのかもしれない。

「鈴花さん!!」
 この声は…響希?
「うなされてるし、汗も異常なくらい大量に…水分飲むために起きて欲しいんだけどな…」
 
 私はそんなにうなされていたのかと思い、起きなきゃと思った瞬間──
 
 嘘だ。目が開かない。身体自体動かない。
「(なんで、どうして!?これって、もしかして金縛り!?)」
 起き上がりたくても起き上がれないもどかしさに腹が立ってきた。
 
 ───はっ
「鈴花さん!目覚めたんだねよかった。早く汗拭いて、水分とろう。すごくうなされてたんだよ。」
「私さっき金縛りにあってた…」
「金縛り?そっか、辛かったね。今は思い通り身体動かせれる?」
「動かせれる!目も開けれる!」
「ならよかった。どんな夢見てたのかはわかんないけど、金縛りになるくらい酷い夢だったんだろうな。」
 
 そういえば、前から思っていたことだけど響希はいつも私の気持ちに共感してくれる。初めて会った時も、記憶を取り戻す手伝いをしてくれた時も。
 
 響希ってほんとにいい人だな…
 それに優しいし。考えれば考えるほど頭の中が響希でいっぱいになる。
 
「私この気持ち知らない…」
 思わずポロッと声が出てしまった。
「ん?なにか言った?」
響希は私のためにお茶を紙コップにトポトポと音を立てながら入れてくれているから、気づかなかった。

 私は迷いつつ、伝えてみることにした。
「響希って共感力高いし、優しいよね。いい性格してると思う!」
 ───ははっ
 響希の笑い声が病室内に響いた。
 
「なにか思い出した?」
 なんで今それを聞くのだろう、と思いながら
「え?何も思い出せてないよ」
「思い出してないかー、実はこの会話、似たようなのを鈴花さんと記憶を失くす前にもしたんだよ」
 えっ───
 驚いて目を丸くして響希を見つめてしまった。そんな偶然あるの?
 
 ──もしかしたら、前の私と今の私の感情はリンクしているのかもしれない。そう思うと納得がいった。
 だって私と響希は未来で婚約してる。だったら二人は両想いの可能性が高い。つまり、私のこの響希に対する気持ちも答えに辿り着く。
「恋…」
「えっお茶の味濃かった?」
「えっあっううん!濃いけど美味しい!」
「濃いのが好きなんだね。薄めが飲みたかったらまた言ってね」
「うん!ありがとう」
 
 あまりに焦って上手く話せたか分からないけど、響希が鈍感なことは分かった。

 この気持ちは黙って自分の中にしまっておこう。響希には未来の私がいるし、そもそも私は記憶喪失だ。万が一記憶が戻ったら私は大人しい性格に戻ってこの気持ちも無かったことになるかもしれない。そんな恐れがあるのだから響希への想いは墓場まで持っていく。
 
 でも記憶を失う前の私は周りの人に心を開かなかったらしいし、響希と婚約したってことは相当心を開ける人に出会えたんだな…

響希に出会えてよかった。