朝が来て目を覚ましても、昨日と同じ光景で記憶喪失のままだった。
 
「あっ鈴花さん起きた。記憶とか体調はどう?」
「体調は大丈夫だけど…記憶は何も覚えてない!!」 
「じゃあとりあえず行ってみる?」
「どこに?」
「未来の鈴花さんが言ってた、思い出の場所に」
 未来の私が言ってた思い出の場所…?静かな性格だったらしいけど、私にもそんな場所があったんだ。行く場所はたくさんあるらしく、車で行くらしい。響希は私の四歳年上で、うんてん免許も持っている。
 
「────着いたよ」
「もう着いたの〜?ふあぁ、ねっむ」
 
「──え?綺麗!お花畑だ!」
「そうだよ。鈴花さんは花が大好きなんだ」
「うん!私花だいすき!綺麗だしいい匂いだもん」
 花の事を考えるだけで胸が踊る。特に好きな花はシオンだ。
 
 ───あれ…?またなにか引っかかる。こういう時は、どうしても頭が痛くてしんどくなってしまう。でも何が引っかかるのか全く分からないからモヤモヤする。
「あーもう!記憶喪失になんかなりたくなかった!思い出そうとすると頭痛くなるし最悪!」
「そうだよね。きっとまだ混乱してるだろうし、休憩を多めに取りながら少しずつ頑張ってみようか。」
 
 前の自分を知らないけど、正直静かな自分よりかは、今の明るい自分が好きだから思い出さなくてもいい、だなんて言えなかった。そんなことを言ったら響希が未来に帰れなくなるから。
「……うん、頑張る」
 

 ─────やっぱりシオンの花は落ち着いていいわね。

「(この声…誰なんだろう)」
 
「鈴花さんどうかした?疲れた?」
「いや…疲れたのもあるけど…知らない女の人の声が聞こえてきて、」
「知らない女の人の声?まだ混乱して幻聴が聞こえるのかな。また病院で検査してもらおっか。」
 なんだか幻聴でもない気がしたけど、混乱してるだけなのかもしれないしその時はとりあえず「検査してもらう!」と明るく返事しておいた。
  
 何ヶ所か回ってみたけど、記憶の手がかりになりそうなところはあまり無かったので、病院に戻ることにした。
「私の記憶、どこに行っちゃったんだろう」
 
────あなたの記憶はあなたにしか分からないわよ。

「(またさっきと同じ女の人の声…) さっきからいろんなことを言ってるのは誰なの…!」

 反応してくれるかも、と思ったがなにも返事はなかった。
「もうなんなのー!!」