そして部活動勧誘も終わり、思い出したことは何も無く入学式の帰りの時間になった。
「はあ、何も思い出せなかったな…」
「──ねえ君!音楽好きだったりする?吹奏楽部の演奏の時ずっとリズム乗ってくれてたよね(笑)演奏してた曲知ってた?」
 話しかけてきたのは響希だった。これも再現の一部なんだろう。
「音楽好きです!曲は知らないけど、体が無意識にリズム乗ってました(笑)」
「無意識に乗れるのいいね!この曲は『シオン』っていうんだ。もしよかったら吹奏楽部入らない?今人手も足りないし、君みたいな音楽好きな子が入ってくれたら嬉しいな───」
 あれ…頭が割れそうなくらい痛い……これってもしかして思い出してきたってことなのかな…痛い、あぁ゛───

  ───音楽好きな子
   ──吹奏楽部入らない?
 ───シオン

 何が起こったか分からなかったけど、頭の中でその三つの言葉が流れながら、ぶわっと今までの記憶が戻ってきた気がした。

「──響希!入学式のとき、私吹奏楽部に入るって返事しないで無視した…?!」
「してたよ。本当に人に興味がない子なんだなって思ったけど、音楽が好きだからなのか吹奏楽部に入ったって聞いた。嬉しかったよ、OBとして顔を出したら君がいるから。」
「やっぱり…私吹奏楽部入ってたんだ…」
「何か思い出した…?」
「うん…なんで今まで私がこんなに人と関わろうとしなかったのか、今まで私がどんな風に過ごしてきたか、全部思い出した。私、本当は人と関わりたかったけど怖かったんだろうな。人間のイザコザに巻き込まれたくなかったし、不安が大きかった。今まで周りでそういうのたくさんこの目で見てきたから。」
「そっか、辛かったよね。俺のために頑張って思い出してくれてありがとう。思い出したけど性格は記憶が無い時と変わらないんだね」
「えっ確かに。でもそうなると、人と関わることに関心を持つゲームは…」
「カウントされないかもね。」

 ─────その性格のままでいいのよ。今の貴方は人と関わることが出来るのだから。

「……今未来の私の声が聞こえたんだけど、人との関わりに関心を持つのは今の性格そのままで良いらしい…」
「ということは鈴花さんに会える…?!」
 
 ─────その通り。今から行くからそこで待っていなさい。

「待っててだって…」

「響希。過去の私。ゲームをクリアしてくれてありがとう。」
「鈴花さん…?」
「響希、鈴花、よくここまで頑張ってくれたわね。それに…杏も。隠れていないで出てらっしゃい。」
「…ばれちゃったか」
杏ちゃんはえへへと笑いながらこちらに向かってきた。
「お見通しよ。私と杏が親友になってからの歴史は長いんだから。」
「私、未来で鈴花に杏って呼んでもらえてるんだ!」
「そうよ。仲良しだもの。
それから響希、急に驚かせてごめんなさいね。今私はまだ成仏していないから、こうやって会いに来れたけど…もうすぐ成仏の時間が来てしまうの。」
「そんな…これが最後なのか?」
「そう。そして私が居なくなると、未来自体が消えてしまう。つまり貴方はもう戻れないわ。現代にいるしかないの。それでも私と一緒に居たい、そう思うんでしょう?」
「うん、うん…悔しいくらいに思ってしまう。」
「この現代で私と居たいなら、この時代の私と一緒に居るのがいちばんよ。響希、貴方この時代で私と記憶探しをしている時も、一緒に居て楽しいって思っていたでしょう(笑)お見通しなんだから。」
「あはは、本当になんでもばれてしまうな。それじゃあ、未来の鈴花さんも現代の鈴花さんのことも同じくらい愛すよ。」

一気に顔が赤くなってしまったのと同時に嬉しくて心がいっぱいになった。未来の鈴花も照れ隠ししているように、鼻を触っていた。

「ええ、よろしくね。それじゃあ、成仏の時間が来たからそろそろお別れね。過去の私、杏といつまでも仲良くね。人と関わることにも関心をこれからも持ち続けなさい。怖がらなくていい。大丈夫よ。そして末永くお幸せに。
そして響希、耳を貸しなさい。」
「今までありがとう。空の上に居ても愛しているわ。過去の私のこと、任せたわよ。」

響希の耳にしか聞こえていないので、何を言われたのかは分からないけど顔が真っ赤になって崩れ落ちていたから、照れることを言われたのだろう。

「鈴花さん、ありがとう。愛しているよ。」

響希が小声でそう言うと、未来の鈴花はニコッと微笑んで、キラキラと綺麗に儚く消えていった。

「未来の私が来てくれなかったら、記憶を思い出したまま人と関わることが怖くて堪らなかったかもしれないな。でも、人と関わることはやっぱり楽しいかもしれない…!」
「良かった。確かに人と関わったら虐めに合うかもしれない、実際に俺も虐められたことはあるし。でも諦めずにたくさんの人と関わって信頼関係を築いたから皆、いじめっ子から俺の味方をしてくれた事もあったよ。鈴花さんならきっともっとたくさんの人と仲良くなれるよ。コンプレックスも無くなったね!」
「うん。未来の私と響希のおかげ。それに杏とも仲良くなれて本当に良かった!」
「鈴花が人と関われるようになれて嬉しいよ。誰目線って感じだけど(笑)でも私のことも杏って呼んでくれてるし!」
杏は少し照れているようで泣いていた。
入学式の再現に協力してくれた人たちに感謝を伝えてから三人で笑って帰った。
その帰り道で私は夢について語った。
「私、夢が出来たんだ。それはね──────」
「いいね!鈴花さんらしい。」
「人と関わることが好きになれた鈴花にぴったりだね!」


──────それから数年
私は夢を叶えて、スクールカウンセラーになった。
自分が持っていたコンプレックスと向き合うためにも、たくさんの悩みを持っている子供たちの話を聞いてあげたり、解決策を一緒に考えたり、信頼関係を築けていて毎日充実している。

響希とは、夏が終わりそうな少し蒸し暑い今日、結婚式を挙げる予定だ。恥ずかしくて自分から「好き」と言えることはなかなか無いけど、響希は毎日のように愛情を伝えてくれる。前の私だったらきっと鬱陶しいと思っていただろう。でもこんな風に変われたのも響希のおかげだ。

杏とも、ずっと仲良くしている。月に何回かご飯に行ったりゆったり遊びに行ったりしている。杏は高校生の頃よりは大人しくなったけど、今でも耳元で名前を叫ばれることはしばしばある。それは正直辞めて欲しい。でもそんな杏が大好きなのだ。

もう前の私とは違う。同じだけど違う。コンプレックスを変えて武器にするだけで、考え方をちょっと変えるだけで、こんなにも人生が変わる。


「──鈴花さん、どうしたの?もうすぐ挙式が始まるよ」
「ちょっと昔のことを思い出していたの。あの頃は私が結婚するだなんて思ってもいなかったから(笑)」
「今じゃ、子供たちのヒーローみたいなスクールカウンセラーだもんな」
「お陰様でね…!今はコンプレックスを気にしないで人と関われているから毎日楽しいよ」

「響希、これからも末永くよろしくお願いします!」

夏の終わりに君の隣で、幸せに人生を過ごす。