翌週になって、私は二時間目終わりの小休憩の時間に、花の香りを嗅ぎに来た。
 そこには、青葉さんの姿はなく、ぽつんと花があるだけ。少し残念な気もするけど、目的の秘密を見た。
 それは、趣味のこと。前回と同じく水無月くん視点だ。
 映されたのは彼の部屋の中。広々していて、フローリングの床の上は、綺麗に片付けられている。イメージ通り部屋の左側に本棚があって、様々な本が敷き詰められていた。けれど、その反対にあるベッドの上には、熊とかイルカとかホワイトタイガーなどの動物のぬいぐるみが置いてあって。ベッド付近には大きなペンギンのぬいぐるみがある。そこに、水無月くんがそのベッドにダイブしてめっちゃもふもふしていた。
 そして、仰向けでままイルカ抱き上げて、話しかけ出す。
相談内容は私と会話して嬉しかったとか、上手く話せたかなとか、変に思われていないかなとか、私との関わりについてだった。喋り終えるとそのまま夜抱いて目を閉じた。
 意識が薄れる寸前、近くのショッピングモールで私と青葉さんとぬいぐるみを買いに行く想像をしながら眠りについて映像が途切れる。
最後に一瞬、小学生くらいの青葉さんが泣いているのを見つめているというシーンが流れて、記憶の再生が止まった。


*

「意外すぎる」

 最初に口に出たのはその言葉で。まさか冷たい仮面の下に、こんな甘い表情があったなんて。そういえば、探しているとき、クールだけど可愛らしい人って妄想してた気がする。 
なら、予想通りだね。

「というか私、やばいことしてない?」

 よく考えたら、他人の秘密を盗み見るって結構まずい気がする。意図的に行動させているから、偶然という言い訳も出来ない。
 高揚してた頭が冷えてきて、罪悪感がふつふつと。

「でもでも、悪いことに使うわけじゃないし……」

 誰に言っているのかわからないけど、弁解を試みてしまう。でも、それは本当のことだし、言いふらすわけじゃない。しまっておけば大丈夫だよね。その結論で締めくくって思考に蓋をした。
 それに、秘密を見れるの正直ワクワクしている。ミステリアスな水無月くんだから、色々気になるし、今回みたいなのだとより。
 だからごめんなさいと心の中で謝りながら、私はこの場を後にした。下駄箱に戻り靴を入れて上履きに履き替えていると、青葉さんが近づいてくる。

「ねぇ、あいつの見た?」

 私はコクコクと二回頷いて肯定。

「それなら、休みの日に買い物に行かない?」
「え」

 またしても思わぬ提案で、聞き間違いかと何度も反芻するけど、間違いはなさそうで。

「どういうこと?」
「言葉の通りだけど。あたしと玲士とあんたと買い物に行こうって」
「ええと、どういうこと?」

 言葉も意味もわかるのだけど、疑問しか浮かばない。

「……別に、行く気がないならいいんだけど」
「違うの。行きたいんだけど、どうして誘ってくれるのかなって」

青葉さんからしたら私は邪魔な存在なはずなのに。

「ただの気まぐれよ。理由なんてないから」
「そう……なの?」
「ええ。ただそれだけだから」

 真意はわからない。私のことが好きなら全然納得出来るのだけど、ライバルで多分好かれていないから、それもないし。

「それでなんだけど、あんた土曜日の一時とか空いている? あそこのショッピングモールに行こうと思っているんだけど」

 学校から自転車で十五分くらいの距離に大型のショッピングモールがある。あそこなら、色々なお店があるし、ゲームセンターとか沢山遊ぶことができる。お金が許す限りだけど。

「うん空いているよ」
「そっ。ならその時間に集合ね」

 もやもやは残ってはいるけれど、綾音ちゃん以外で、友達と少し遠出して遊びに行くことは初めてで、緊張と共に楽しみな気持ちもあって。
その約束を取り付けてからは、暇さえあればどんな風に遊ぶのか、ポジティブとネガティブの両パターンを脳内でシミュレーションしたりして過ごして、早く休みになって欲しいなと、いつも以上に祈った。