水曜日、木曜日と水無月くんに勉強を教えてもらう日々が続き、そして金曜日となった。天気は雨で多少気持ちは浸水。
 けれど、その心を綾音ちゃんや青葉さん、そして水無月くんに乾かしてもらえる。
 今日もお馴染みとなった図書室で、今日も水無月くんに教えてもらっていた。

「……」

 家でやるより捗るし、ストレスも無くて最高なのだけど、一昨日からこちらを見る人の気配が増えている気がしている。たまにこそこそ話も耳に入ってきて、すごく私の悪口を言われている想像が膨らんで、集中力が削ぎ落とされてしまって。

「それでここがこうなって……ってどうかしたか?」
「いや、その」

 背後から露骨に人から見られている感覚がチリチリとしていた。しかも、足音が静寂の中でコツコツと接近してくる。間近まで来ているはずなのに、そのままで。
 何をされるのか。もしかして、あなたには相応しくないとかで修羅場とかになったりするんじゃ。
 カチコチになった首を後ろに動かした。

「って青葉さん?」

 あわあわしている青葉さんがそこにいた。手が中途半端な位置で伸びている。

「あ、その」

 もしかして話しかけようとしたのだろうか。

「日向が図書室って珍しいな」
「まぁ、少し暇で来たのよ。それで、あんた達は仲良くお勉強?」

 ちょっぴり嫌味っぽく言うけど、むっとはならなくて。

「そう。水無月くん教えるの上手くてさ、シャーペンが進むんだ」
「ふーん。ま、玲士が上手いのは知っているけど。昔とか教えてもらってたし」
「何で張り合ってるんだよ……」

 ライバルなだけあって、付き合いの長さでマウントを取ってくる。流石にこれには勝てない。

「なら、最近はどうなの?」
「星乃さん?」

 カウンターを仕掛けてみた。

「え? ない……けど」

 効果はてきめんだったようで、言葉を詰まらせた。

「そ、それが何よ。だからって負けじゃないから」
「何のバトルしているんだ?」

 完全に蚊帳の外になっている彼は置きざりに話は進む。

「じゃあ、引き分けってことで」
「むぅ」
「お、終わったのか?」

 埒が明かないと思い、すぐに矛を収めようとするけど、青葉さんは不満そう。

「な、なら。今教えてもらえればあたしの勝ちよね」
「え? そ、そうなるかな」

 まだ引き下がらない。そんなにこだわる勝負なのだろうか。

「玲士、そういうことだから」
「どういうことだよ。それに、時間ももうない」

 いつの間にか、昼休みも残り五分だ。

「明日、どう?」
「明日って休みだけど。どこでやるんだ?」
「えーと……む、昔みたいに、あたしの部屋でとか?」

 頬を赤らめて恥ずかしそうに勉強のお誘いをする。

「いいんだが……」

 チラチラと水無月くんが助けを求めるアイコンタクト的なの送ってくる。

「私も入れてもらってもいいかな」

 断られるかもだけど尋ねてみる。

「構わないけれど」
「良いんだ」
「別に。あたしの勝ちは決まっているし。過去と今の二つでね」

 青葉さんは勝ち誇った笑みを浮かべる。

「あ、あのぉ。図書室では静かにお願いします」

 騒いでしまった音を聞きつつけて、図書委員の気弱な男子生徒に注意されてしまった。
 皆で謝り、小声で約束の詳細を決めることに。予想外にも休日に勉強会が決まってしまった。

「ふふっ」

 空は暗雲に包まれているけど、私の心は晴れやかだ。気がかりなのは、明日の天気の機嫌だ。
 私の心を反映してくれと天に祈った。