記憶が蘇るトリガーはあらゆるところにある。音楽、景色、そして香り。意図的に思い出そうと利用することもあれば、偶発的にそれらによって、昔のことが再生されたりする。
小学六年生の出来事を経てからは、人の笑い声とか少し険悪なムードを感じ取ると、過去の扉が開いてしまう。そうなる度に忘れようと頭を抑える。
それらと似たようなことで私はよく妄想をしてしまう。妄想のトリガーは身の回りのいたるところにあって、ちょっとしたことで想像の羽が飛び立つ。そして勝手に色々と発展させてしまい、現実に戻れずぼーっとしてしまう。まぁ、それに少しの幸せを感じるのだから仕方ない。
そんな感じで今日も誰かに語る妄想を一旦終えて、私は昼休みの喧騒から抜けるべく教室を出た。
四時間目の体育の授業の後、私はなんとなく体育館裏を覗いた。体育館と学校の塀の間の幅は二人分くらいで、雑草が生い茂っていて何かの倉庫が二つ並んでいた。そして、更に奥にもう一つ小さい体育館があって、その裏に塀に背を向ける形で、謎のベンチがあった。
本当に行ってもいいのか怖くて、すぐには進めなかった。けどすごく気になったし、あそこに座ると異世界に行くとかタイムスリップするとか、色々と妄想してしまったりもして、いても立ってもいられなくて、足がそこに向かった。
「……」
体育館の中からはボールの打ちつける音やキュキュっと上履きと床が擦れる音、楽しげな声が聞こえる。だけど、その裏には私しかいなくて、他の人が来ないであろう場所にいると、秘密基地みたいでワクワクしてしまう。
私は恐る恐るベンチまで歩を進める。さっきまでの音も離れていき、草が好き放題に伸びていて、外れた道って思わせてきて、心細くなる。同時に、先生に怒られるみたいなことも考えてしまって、足が引き返したくなるけど、好奇心が勝って、なんとか辿り着いた。
このベンチは見つけた人限定の特等席みたいだと思った。ベンチの奥は大きな木が一本立っていて行き止まりで、しかもここは学校の裏門近くにあって見つかりにくい。体育館裏にわざわざ行く人も少ないだろうし。そう思うと、何だか私だけの場所って感じがして嬉しくなる。
木製のベンチは少し年季が入っていて、座るとザラザラしそうだし、ちょっと汚い感じもして躊躇してしまう。
「あれ」
ベンチを眺めていると、その隙間から白色の花瓶に入った一輪の黄色い花を見つける。
「なんでここに」
手に取って見ると、少し小さいけど大きな黄色い花びらを五つ、つけていて可愛らしい。
私と同じような子が育てているのかな。想像してみると、その子と友達になってみたいと思った。なんか秘密を共有してるって感じがして。まぁ妄想だけど。
何の花かはわからないけど、とりあえず疑問は置いて、ベンチに腰掛ける。予想通りのチクチクとした座り心地だった。
「……あ」
花を近づけてみると爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。それと同時に、意識がふっと薄れて頭の中に鮮明な知らない光景が流れ出しす。
その映像は、私の見る景色とは少し高い目線の知らない記憶。それは、学校の中のある人を見ているシーンを断続的に映していて、それだけじゃなく、視点人物の胸の奥に温かいものが広がる感覚も共有されていて。
「わ、私……?」
その人は肩口まで髪を切り揃えた少し神経質そうな顔つきの日頃鏡の中でよく見る人物。信じられないけどそれは自分だった。
廊下ですれ違う私の姿、教室の一番後ろの窓際の席でムスッとしている姿、唯一の友達である綾音ちゃんとおしゃべりしている姿と。無数の私が埋め尽くされていて、強烈な好意に圧倒されていると、意識が現実に引き戻された。
「……これまじ?」
とんでもない情報で情緒がどうにかなりそう。というか、この花は一体何なのだろう。いや、それよりもガチなら誰かが私のことを……いやいやそうじゃなくて。
何から考えればいいのか、若干高揚しているせいで、論理的な思考が働かない。
「……ふへへ」
そうなれば、私はもう空想するしかなくなってた。もう非現実とか、私の頭がおかしくなったとか、知らない知らない。
どんな人だろう。クールで少し可愛らしい所がある人かな。それとも明るいけど実は少し陰がある人かも。
「私と同じタイプの人の可能性もあるな」
想像は尽きることなく、昼休みの終わりを告げるチャイムまで、ハッピータイムは続いた。
小学六年生の出来事を経てからは、人の笑い声とか少し険悪なムードを感じ取ると、過去の扉が開いてしまう。そうなる度に忘れようと頭を抑える。
それらと似たようなことで私はよく妄想をしてしまう。妄想のトリガーは身の回りのいたるところにあって、ちょっとしたことで想像の羽が飛び立つ。そして勝手に色々と発展させてしまい、現実に戻れずぼーっとしてしまう。まぁ、それに少しの幸せを感じるのだから仕方ない。
そんな感じで今日も誰かに語る妄想を一旦終えて、私は昼休みの喧騒から抜けるべく教室を出た。
四時間目の体育の授業の後、私はなんとなく体育館裏を覗いた。体育館と学校の塀の間の幅は二人分くらいで、雑草が生い茂っていて何かの倉庫が二つ並んでいた。そして、更に奥にもう一つ小さい体育館があって、その裏に塀に背を向ける形で、謎のベンチがあった。
本当に行ってもいいのか怖くて、すぐには進めなかった。けどすごく気になったし、あそこに座ると異世界に行くとかタイムスリップするとか、色々と妄想してしまったりもして、いても立ってもいられなくて、足がそこに向かった。
「……」
体育館の中からはボールの打ちつける音やキュキュっと上履きと床が擦れる音、楽しげな声が聞こえる。だけど、その裏には私しかいなくて、他の人が来ないであろう場所にいると、秘密基地みたいでワクワクしてしまう。
私は恐る恐るベンチまで歩を進める。さっきまでの音も離れていき、草が好き放題に伸びていて、外れた道って思わせてきて、心細くなる。同時に、先生に怒られるみたいなことも考えてしまって、足が引き返したくなるけど、好奇心が勝って、なんとか辿り着いた。
このベンチは見つけた人限定の特等席みたいだと思った。ベンチの奥は大きな木が一本立っていて行き止まりで、しかもここは学校の裏門近くにあって見つかりにくい。体育館裏にわざわざ行く人も少ないだろうし。そう思うと、何だか私だけの場所って感じがして嬉しくなる。
木製のベンチは少し年季が入っていて、座るとザラザラしそうだし、ちょっと汚い感じもして躊躇してしまう。
「あれ」
ベンチを眺めていると、その隙間から白色の花瓶に入った一輪の黄色い花を見つける。
「なんでここに」
手に取って見ると、少し小さいけど大きな黄色い花びらを五つ、つけていて可愛らしい。
私と同じような子が育てているのかな。想像してみると、その子と友達になってみたいと思った。なんか秘密を共有してるって感じがして。まぁ妄想だけど。
何の花かはわからないけど、とりあえず疑問は置いて、ベンチに腰掛ける。予想通りのチクチクとした座り心地だった。
「……あ」
花を近づけてみると爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。それと同時に、意識がふっと薄れて頭の中に鮮明な知らない光景が流れ出しす。
その映像は、私の見る景色とは少し高い目線の知らない記憶。それは、学校の中のある人を見ているシーンを断続的に映していて、それだけじゃなく、視点人物の胸の奥に温かいものが広がる感覚も共有されていて。
「わ、私……?」
その人は肩口まで髪を切り揃えた少し神経質そうな顔つきの日頃鏡の中でよく見る人物。信じられないけどそれは自分だった。
廊下ですれ違う私の姿、教室の一番後ろの窓際の席でムスッとしている姿、唯一の友達である綾音ちゃんとおしゃべりしている姿と。無数の私が埋め尽くされていて、強烈な好意に圧倒されていると、意識が現実に引き戻された。
「……これまじ?」
とんでもない情報で情緒がどうにかなりそう。というか、この花は一体何なのだろう。いや、それよりもガチなら誰かが私のことを……いやいやそうじゃなくて。
何から考えればいいのか、若干高揚しているせいで、論理的な思考が働かない。
「……ふへへ」
そうなれば、私はもう空想するしかなくなってた。もう非現実とか、私の頭がおかしくなったとか、知らない知らない。
どんな人だろう。クールで少し可愛らしい所がある人かな。それとも明るいけど実は少し陰がある人かも。
「私と同じタイプの人の可能性もあるな」
想像は尽きることなく、昼休みの終わりを告げるチャイムまで、ハッピータイムは続いた。