料理がテーブルに運ばれると、賑やかな食事が始まった。
家で食べるときはあまり会話がないんだけど、紬がいるだけで麻衣はおしゃべりになる。
どうやら二人とも同じクラスになったようで、担任の教師が若い女性だったことや紬が見つけたイケメンの話で盛り上がる。俺は話を聴く一方で、相づちを打つぐらいしかしていない。
もちろん、その時間は退屈ではない。逆だ。彼女たちの魅力を知るきっかけになるので、非常に有意義で楽しい時間が過ぎていく。
食事も終わりに近づくと、デザートを食べながら最近の趣味についての話題に移った。
「えーっ! 麻衣は音楽を作ってるの?」
女子高生から見るとマイナーな趣味をもっている麻衣に、紬は驚いた声を上げていた。
機材を貸してから、しっかりと勉強していたようだ。
俺が知らない間に部屋でソフトの使い方を自主的に学んでいるという姿勢は好ましい。才能の有無はわからないけど、好きというのだけは伝わってきた。
外に出ないでずっと家にいるから心配していたけど、趣味に没頭していたのであれば問題ない。友達もしっかりいるんだし、俺が小言を言う必要はないな。このままでも大丈夫だろう。
「音楽ってほどじゃないよ。まだ音の編集をしているぐらいかな。ミックスっていう、いくつかの声や音を最適に聴こえるように調整する作業をしているだけなんだ」
ミックスは、音の聞き分けや左右のバランス調整などが出来る優秀な耳が必要だ。麻衣の場合は、すでに持っていたのでテクニックやソフトの使い方さえ覚えれば、すぐにプロレベルのミックスも出来るようになるだろう。
そうなってしまえば、サンプル音源を作って技術を販売するって事も出来る。今はそういった仲介サイトも多いので、安全に取引も出来る。もちろん未成年一人に仕事をさせるわけにはいかないので、保護者として俺がサポートするのは必須だ。
本当に仕事を始めるのであれば、その時には連絡のしかたなど色々と教えてあげよう。
「それでも、すごいよ! 今後、聴かせて!」
「納得するものが完成したらね」
恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうな表情をした麻衣を見て、機材を貸して良かったと心から思えた。俺と二人の時は、ああいった自然な笑顔にはなってくれないので、柚に少しだけ嫉妬してしまった。
いつか本当の家族になって、俺にも自然にわらいかけてくれるような関係を築いていきたい。
「でもさー。どうして、音楽を作ろうと思ったの?」
「欲しいものがあったからだよ。それに、私の特技を活かせるお仕事になるかなって、思ったんだ」
特技とは耳が良いことを言っているのだろう。人一倍、音に敏感でこだわりがあるなら、音に関連した仕事をするのも一つの手だ。麻衣に向いているのか分からないが、若いうちに試せるのであれば、やるといいと思う。
仮に違ったなと思っても失敗にはならないし、音楽の経験はいつか役に立つときがくるだろう。目先の成功や失敗にこだわっても仕方がないのだ。
「麻衣って昔からしっかりしてるよね。私なんてテニスが出来れば何でも良いって思っちゃう」
「全国大会レベルって評判なんだから、紬はそれでいいと思うよ。私は何も持ってないから、探すのに必死なだけだって」
スポーツできるだろうなとは思っていたけど、全国レベルだったのか。紬も麻衣に劣らず、すごい特技を持っているじゃないか。
俺が高校生の時は特技と呼べる者は持っていなかった。自慢できるとしたら彼女がいたぐらいか? それ以外は、ごく普通の生活をしていたので驚いてしまった。
「そうかなあー。麻衣は勉強も出来るし、凄いと思うんだけど」
「もういいよ~! それよりさ、新しいクラスはどう思った?」
褒められすぎて照れくさくなったのか、麻衣は強引に話題を変えた。
新しいクラスについては保護者として気になることだ。黙って二人の会話を聞いていたが、
「イケメンがいたからアタリだと思ったけど、あの二人がいたからなあー」
「あー。そうだね」
具体的な話はなく、納得したようですぐに話が終わってしまった。
「あの二人って?」
気になってしまい、つい質問をしてしまった。
二人とも同じタイミングでこっちを見ると、麻衣が口を開く。
「同中の子なんですけど、ギャルなんですよ。初日から校則破ってるし、すぐ上級生に目をつけられるって噂されているんです」
あー、俺の時にもいたな。そういうクラスメイト。やたら声が大きく、ズバズバと遠慮なく言ってくるので苦手なタイプだった。
ああいったタイプはヤンキー系の男と付き合っていることが多いので、話しかけるのも気を使ってしまう面倒な存在という思い出だけが残っている。オタクに優しいギャルなんて、創作物にしか存在しないのだ。
「なるほど。派手な子たちなんだね」
「そうなんですよ。いろんな噂があるので、ちょっと怖いんです」
麻衣の言葉に同意するように紬がうなずいた。
気持ちは分かるけど、同じクラスになってしまったんであれば、どうしようもない。一年間付き合っていくしかない。
「わかる! できるだけ関わらないように過ごすしかないよね」
「うん。それが一番だよね」
俺と同じ結論を出した二人は、クラスの話は止めてしまい、話題は最近流行り始めている髪型に移っていく。女子高生が話す話題はコロコロと変わるので、ついていくだけで大変だ。
家で食べるときはあまり会話がないんだけど、紬がいるだけで麻衣はおしゃべりになる。
どうやら二人とも同じクラスになったようで、担任の教師が若い女性だったことや紬が見つけたイケメンの話で盛り上がる。俺は話を聴く一方で、相づちを打つぐらいしかしていない。
もちろん、その時間は退屈ではない。逆だ。彼女たちの魅力を知るきっかけになるので、非常に有意義で楽しい時間が過ぎていく。
食事も終わりに近づくと、デザートを食べながら最近の趣味についての話題に移った。
「えーっ! 麻衣は音楽を作ってるの?」
女子高生から見るとマイナーな趣味をもっている麻衣に、紬は驚いた声を上げていた。
機材を貸してから、しっかりと勉強していたようだ。
俺が知らない間に部屋でソフトの使い方を自主的に学んでいるという姿勢は好ましい。才能の有無はわからないけど、好きというのだけは伝わってきた。
外に出ないでずっと家にいるから心配していたけど、趣味に没頭していたのであれば問題ない。友達もしっかりいるんだし、俺が小言を言う必要はないな。このままでも大丈夫だろう。
「音楽ってほどじゃないよ。まだ音の編集をしているぐらいかな。ミックスっていう、いくつかの声や音を最適に聴こえるように調整する作業をしているだけなんだ」
ミックスは、音の聞き分けや左右のバランス調整などが出来る優秀な耳が必要だ。麻衣の場合は、すでに持っていたのでテクニックやソフトの使い方さえ覚えれば、すぐにプロレベルのミックスも出来るようになるだろう。
そうなってしまえば、サンプル音源を作って技術を販売するって事も出来る。今はそういった仲介サイトも多いので、安全に取引も出来る。もちろん未成年一人に仕事をさせるわけにはいかないので、保護者として俺がサポートするのは必須だ。
本当に仕事を始めるのであれば、その時には連絡のしかたなど色々と教えてあげよう。
「それでも、すごいよ! 今後、聴かせて!」
「納得するものが完成したらね」
恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうな表情をした麻衣を見て、機材を貸して良かったと心から思えた。俺と二人の時は、ああいった自然な笑顔にはなってくれないので、柚に少しだけ嫉妬してしまった。
いつか本当の家族になって、俺にも自然にわらいかけてくれるような関係を築いていきたい。
「でもさー。どうして、音楽を作ろうと思ったの?」
「欲しいものがあったからだよ。それに、私の特技を活かせるお仕事になるかなって、思ったんだ」
特技とは耳が良いことを言っているのだろう。人一倍、音に敏感でこだわりがあるなら、音に関連した仕事をするのも一つの手だ。麻衣に向いているのか分からないが、若いうちに試せるのであれば、やるといいと思う。
仮に違ったなと思っても失敗にはならないし、音楽の経験はいつか役に立つときがくるだろう。目先の成功や失敗にこだわっても仕方がないのだ。
「麻衣って昔からしっかりしてるよね。私なんてテニスが出来れば何でも良いって思っちゃう」
「全国大会レベルって評判なんだから、紬はそれでいいと思うよ。私は何も持ってないから、探すのに必死なだけだって」
スポーツできるだろうなとは思っていたけど、全国レベルだったのか。紬も麻衣に劣らず、すごい特技を持っているじゃないか。
俺が高校生の時は特技と呼べる者は持っていなかった。自慢できるとしたら彼女がいたぐらいか? それ以外は、ごく普通の生活をしていたので驚いてしまった。
「そうかなあー。麻衣は勉強も出来るし、凄いと思うんだけど」
「もういいよ~! それよりさ、新しいクラスはどう思った?」
褒められすぎて照れくさくなったのか、麻衣は強引に話題を変えた。
新しいクラスについては保護者として気になることだ。黙って二人の会話を聞いていたが、
「イケメンがいたからアタリだと思ったけど、あの二人がいたからなあー」
「あー。そうだね」
具体的な話はなく、納得したようですぐに話が終わってしまった。
「あの二人って?」
気になってしまい、つい質問をしてしまった。
二人とも同じタイミングでこっちを見ると、麻衣が口を開く。
「同中の子なんですけど、ギャルなんですよ。初日から校則破ってるし、すぐ上級生に目をつけられるって噂されているんです」
あー、俺の時にもいたな。そういうクラスメイト。やたら声が大きく、ズバズバと遠慮なく言ってくるので苦手なタイプだった。
ああいったタイプはヤンキー系の男と付き合っていることが多いので、話しかけるのも気を使ってしまう面倒な存在という思い出だけが残っている。オタクに優しいギャルなんて、創作物にしか存在しないのだ。
「なるほど。派手な子たちなんだね」
「そうなんですよ。いろんな噂があるので、ちょっと怖いんです」
麻衣の言葉に同意するように紬がうなずいた。
気持ちは分かるけど、同じクラスになってしまったんであれば、どうしようもない。一年間付き合っていくしかない。
「わかる! できるだけ関わらないように過ごすしかないよね」
「うん。それが一番だよね」
俺と同じ結論を出した二人は、クラスの話は止めてしまい、話題は最近流行り始めている髪型に移っていく。女子高生が話す話題はコロコロと変わるので、ついていくだけで大変だ。