水の木。
 水が出るのか、水を含んだ実が生るのかは分からない。
 むしろ水なんてまったく関係ないかもしれない。
 でも水が出ると信じて、いや信じたくて成長させた。

 木というよりは太い蔓が数本、縄のように巻き付いたような植物だ。
 だけど実はついていない。
 幹を切ったら水が出るだろうか。
 切る――道具がない。

 うあぁぁ、もうダメだ。
 せっかく、せっかく希望が見えたってのに。

 いや、そうだ。別に水でなくてもいいんだよ。
 野菜。野菜の木だ。
 水分の多い野菜でも実ってくれれば――。

「こ、れ……"成長促、しん"」

 芽吹いた種を砂に植える。それからまた成長させて、今度は見た目普通の木に成長した。
 いや、訂正。
 全然普通じゃない!

「なん、だ、これ。一本の木に、野菜が……」

 太い枝の一本一本に、それぞれ違う野菜が垂れ下がるようにして実っていた。
 野菜。野菜、やさい、ヤサイ。

「あ、あったっ」

 力を振り絞って木によじ登る。
 太い木は幸い、背丈はそう高くはない。それに小枝のおかげで足を掛ける場所もある。
 伸ばして掴んだのは、真っ赤な実のトマト。

 そのままかぶりついて、

「くうぅぅ、生き返るぅ」

 瑞々しい!
 あ、キュウリもあるじゃないか!
 カリッカチと歯ごたえもあって、それでいて水分も補給出来る。
 最高だ。

 木のおかげで日陰も出来た。
 ただこの木、それぞれの野菜の葉が少しあるだけで、木自体の葉はなく十分な日陰とは言えない。
 太陽が真上に来たら日陰もなくなるだろう。

「ツリーハウス……ハウスってことは家か?」

 種はどれも一〇粒ずつ入っている。一つぐらいお試しで使っても大丈夫だろう。

「"成長促進"――お、おぉ」

 成長する! めちゃくちゃ大きくなる!
 縦というより、横に。
 どんどん太くなっていく木には、野菜の木と違ってもさもさと葉が茂っている。
 おかげで充分な日陰が出来た。

「扉がある……中に入れる、のか?」

 扉を開けてみると、中は空洞になっていてまさに部屋って感じだ。
 何もない部屋。だけど涼しい。

「そうだ」

 まずは体力をしっかり回復させなきゃな。
 実っているのはトマトとキュウリ、それからじゃがいも、人参、カブもある。
 人参とカブは逆さまに実ってて、ちょっと笑えた。

 全部を収穫する体力はなさそうだ。
 生でも食べられるトマトとキュウリを優先して収穫し、あとは一つ二つ採ってツリーハウスの中へ。

「はぁ、涼しい」

 キュウリうめぇ。

「インベントリ・オープン」

 改めて見ると、いろんな種入ってるなぁ。
 まぁ逆に言うと、種しか入ってない。
 農業チートスキルだし、そんなもんだよな。

「はぁ、これからどうするかなぁ」

 キュウリを齧りながら、呆然と天井を見た。
 なんか天井が波打って見える。
 いや違う。

 俺の目が回ってんだ!?

 うぁ……眠気……半端、な……。





「うあぁっ!? ゆ、夢?」

 クラブを終えて教室に戻ったら洞窟で、スキル鑑定とか捨てられて砂漠に飛ばされたとか、そんなバカなことが――

「あった……」

 見慣れない天井。何もない部屋。
 扉を開ければそこは、砂漠。

「夢じゃない」

 膝から崩れ落ちた。

 白み始めた空が、なんか虚しさを倍増させている。
 朝、か。かなり長いこと眠っていたみたいだな。
 
「スキルを使うと、マジックポイント的なものが減るんだろうな」

 回数なのか、それとも成長させた時間《・・》なのか。
 野菜は数カ月単位だろうけど、ツリーハウスは年単位だろうしなぁ。

 起き上がると、とりあえず腰が痛い。
 床に直接寝てたしな。
 ただ眩暈はしないようだ。

 昨日の野菜の木を見ると、残していた野菜が早くも変色していた。
 この木、種は実るのかな?
 昨日のこともあるし、ちょっと心配だけどやらない訳にもいかない。

 種が出来るまで成長しろと考えながら、野菜の木にスキルを使う。

「あー……なるほど。個々の野菜で種が出来るのか」

 木、ではなく野菜の方にそれぞれ種が実った。
 キュウリとトマトは変色し、中の種を採れってことだろう。
 砂の上に落として、そのまま放置しておこう。
 日中丸一日置いておけば、乾燥するだろうし。
 
「うぅ、さむ。中でトマトでも食おう」

 砂漠は日中暑く、太陽が沈めば寒い。知識としては知っていても、実際体験するとマジで寒いな。
 冬服でよかった。
 これ夏服だったら耐えられなかっただろ……ん?

 ツリーハウスに戻ろうと踵を返すと、向こうの植物――水の木に実が生ってる!?

「あれって瓢箪かっ」

 砂を蹴って駆ける。
 やっぱり瓢箪だ。三〇センチほどのサイズの瓢箪が一つ。それより一回り小さいのが二つ実ってる。
 
 水の木……この実の中にまさか?

 揺らしてみると、ちゃぷんと音がする。

「入ってる!」

 掴んで瓢箪を回転させた。
 ぷつんっと、ヘタのところから取れる。

「へぇ、ヘタが蓋のようになってるんだな」

 コルクの栓みたいだ。
 ぽんっと抜いて、中身を少し出してみた。

 水だ。どこからどう見ても水だ。
 水……水……。

「み、みずうぅぅーっ!」

 瓢箪に口を付けてぐびぐびと喉を鳴らせる。
 あ、思わず飲んでしまったけど、大丈夫だろうか……。
 いや、今更か。

 無味無臭。
 さっき出した時も完全な透明だった。
 大丈夫だいじょうぶ。

「っぷはぁー、生き返るぅ」

 野菜の水分もいいけど、やっぱり水で渇きを潤す方がいい。

「よし。これも収穫してっと」

 瓢箪をひとつ収穫して、インベントリに入れてみる。
 お、水の入った瓢箪(小)って表示された。
 飲みかけの奴は(中)と出る。

 あとはトマトとキュウリを入れて、

「さぁ、町を探すか」

 ここを拠点にして周囲の探索をしよう。