「ほんっとすみません」
「いやいや、いいんだよ。こっちも伝え忘れていたわけだからね」

 俺はまた、町に来ている。
 なぜか。

 忘れていたからだ。

 家畜のことを!

「まぁ仕方ないさ。港の建設場所探しから、シーサーペントまで、急展開でしたからねぇ」
「ほんと、美味いって聞いてから肉のことで頭がいっぱいになってました。あ、食べました?」

 俺がそう聞くと、ゼブラさんはにっこりと頷いた。

「いやぁ、予想以上に美味しかったですよ。海生物なのに、陸上生物の肉に似てましたね」
「そうなんですよ。村の方でもみんなに好評でした。あ、また話し込んでたら忘れそうだ」
「あっはっは。確かに。ではこちらです」

 規模は小さいけれど、町にも牧場はある。
 岩塩と交換で仕入れてもらった豚や牛は、そこの牧場に預かってもらっているそうだ。
 お金がゼブラさんが出してくれているので、その分のお礼をしなきゃな。

「へぇ、ここは鶏もいるのか」

 豚小屋に鶏がいた。普通の鶏だ。

「それにしても、家畜を飼うにも少なすぎませんか?」
「あ……と、とりあえず飼育が初めてなんで、まずは慣れるために」
「あぁ、なるほど」

 種牛と種豚をそれぞれ二頭ずつ。あとは雌を三頭ずつお願いしてある。
 もちろんたくさん欲しい。でも家畜って安くはないんだよな。
 それに値段だけじゃない。繁殖そのものは俺にはどうすることもできないが、妊娠さえしてくれればスキルで成長させられる。
 生まれてきた赤ちゃんも、繁殖可能になるまで一瞬だ。

 とはいえ、初めて家畜を飼育するの嘘じゃない。
 最初は少ない頭数で、飼育そのものに慣れていかなきゃな。

「でしたら、ここの方にお願いして飼育の勉強をしてみるのもいいかもしれませんよ。事情を話して臨時で働かせてもらうといいかと思います」
「飼育の勉強……そうだなぁ。村の人とも相談してみます」
「もしここで臨時で働くというときには、わたしに仰ってください。口添えをいたしますので」
「その時はよろしくお願いします」

 預かってもらっていた牛と豚を引き取り、そのついでに鶏の卵を貰った。
 家畜を砂船の船室に入れ、フレイに運んでもらう。甲板にいさせたらフレイを見て気絶する牛や豚がでるかもしれないし、何よりおっこちたら大変だ。

「さぁて、やってみますかね。――"成長促進"」

 成長させるのは、貰った鶏の卵だ。
 有精卵だったら――

「おっ」

 ピキ、パキっと卵が割れ始める。
 貰った卵は十個。ワンパック分だ。

『ピィ』

 卵の中からか細い声が聞こえる。
 孵化したのは五つか。雄と雌が揃ってるといいなぁ。





「とはいえさ、うちの村にはチキンホーンがいるから鶏は必要ないんだよ」
「に、にわとり? これが町で食った鶏料理の正体なのか?」

 砂漠の村に行って、孵化したヒヨコ――ならぬ鶏五羽をハクトに預けることにした。
 またヒヨコの状態で渓谷に連れて行ったら、ルーシェやシェリルが『一瞬で成長させるのヤダ』って言いかねないから。

 鶏は飛ばない。だけど羽をバタバタさせて結構な高さまで跳ねたりはする。
 小屋を建てるまでは臨時でツリーハウスを使って貰おう。

「まずは繁殖させることが大前提だ。そのうち卵もとれるようになったら、料理の幅もぐんと広がるぜ」
「楽しみだ。だがどう飼育すればいいのか……」
「そのことなんだけどさ」

 ゼブラ氏からの提案をハクトに話すと、ぜひ世話の仕方を学びたいという。
 村の誰かに家畜の飼育を担当してもらう人を決めて、その人に行って貰うという話になった。

 そうだな。畑も家畜もどっちもみんなでってわけにもいかないだろう。
 渓谷の村でも、畑班と家畜半に分けた方がいいだろうな。

 渓谷の村に戻ると、さっそくみんなに手伝ってもらって牧場に牛と豚を移した。
 地面には牧草もたくさん生えている。この牧草はバフォおじさんに厳選してもらった、草食動物大好き草だ。

「おぉ、さっそく食べてるな。いっぱい食べて、子供を授かってくれよぉ」
「草を食べたからって、子供ができるとは限らないわよ」
「あ、シェリル、ルーシェ。ただいま」
「おかえりなさいまで、ユタカさん」

 まぁそりゃ草を食べたら妊娠するなら、楽なもんだけどさ。
 
「しばらくは繁殖がメインなんでしょ?」
「あぁ。でも牛の方は一度出産してる牝牛もいるから、搾乳はできるよ」
「じゃ、ヤギさんのミルクは必要なくなるのですか?」
「いや。チーズはヤギの乳の方が適してると思うから、定期的にもらうつもりだよ」

 今まではチーズにミルク用にと、使い道がいろいろだった。そのせいもあって、チーズもミルクもちょっと足りないって状態だったんだよな。
 それをチーズ一本に絞るから、ヤギたちに無理して貰わなくても量的に足りるようになるだろう。

 村に戻ってさっそく、飼育を担当する人を決めようって話をした。
 で、二家族がそれぞれ牛と豚の飼育担当に。
 数日後には砂漠の村の鶏飼育担当一家と一緒に町へ。
 そこで十日間、牧場で家畜の世話の仕方をみっちりと教わることに。

 で、その間に――

「あー、こりゃ妊娠してんなぁ」
「本当かバフォおじさん!」

 牝牛が一頭妊娠した。


「おぅ。他所から来たばっかりだってんのに、元気じゃねーか。ベヘベヘベヘ。お前ぇもちったぁ見習えよ」

 何をだよ。