村に戻って来た。
 前回ほどじゃないけど、やっぱり悲鳴が上がった。
 フレイが少しいじけて見えた気がする。

 村で必要なものをインベントリから出して、それから――

「これが塩か。真っ白だな」
「ここじゃ塩に不自由はしていないから、交換する必要がなかったから見たこともなかったが」
「味はどうなんだい?」

 海水を蒸発することで出る塩。
 その塩を、最初は町で売ろうと思った。
 だけどハクトが「それは止めた方がいい」と。

「どうやって手に入れた」

 とつっこまれるだろうから。
 そりゃそうだ。

 悪徳商人が岩塩を求めてきていたぐらいだ。塩は貴重なんだろう。
 あの商人には岩塩が採掘できる場所を聞かれたようだが、それが教えてないとハクトが言っていた。
 町で食べた料理には塩が使われていた。
 ってことは、砂漠の町では塩はそう貴重ではないんだろう。

 ならあの商人はどうして岩塩を欲しがったのか。
 まぁ内陸に売るためだろうな。
 海からも遠く、岩塩の採掘も出来ない国に。

 そこで、塩ではなく岩塩を取引しようってことになった。
 だから海水を蒸発させて出た塩は自分たちで使い、採掘した岩塩を町に持って行く。

「この白い塩の方が苦味というか辛みがまろやかな気がします」
「そうね。岩塩の方が味付けが強くなるのかしら」
「あぁ。美味かった。凄く美味かった」

 ハクト。それは塩じゃなくって魚のことじゃないのか?
 
 まぁ塩は塩だ。使い方は同じ。
 ついでに魚の塩焼きを披露すると、わりとあっさり受け入れられた。

「美味しいねぇ、この塩。ほくほくして、なんて香ばしいんだろう」
「ほんとだねぇ」

 おばあちゃん、それは塩じゃなくって白身魚ですよ。

 そんなことで、しばらくは白い塩を使うことに。
 他の集落でも同じように塩を配って回った。
 さすがにフレイに乗っていくと大騒ぎになるから砂船で。
 欲しいものリストにあったものを渡していくと、みんな大喜び。
 さらに町で仕入れたと誤魔化して成長させた野菜も、たっぷりと渡した。
 それから魚の塩焼きをご馳走した。

 自分たちの集落に戻ったのは翌日。
 そしてやっぱり魚の塩焼きパーティーに。

 インベントリに入れたものは、時間が止まっているかのように鮮度が保たれている。
 これなら大量に魚を獲って来て、インベントリに入れっぱなしにしておくのもいいかもしれない。
 でもやっぱり、必要なものを必要な量だけ必要な時に……というのがいい気もする。
 
 なんか……独占してるようで……。

 夜はようやく一息つけた。

「はぁ。やっぱり我が家だと落ち着くなぁ」
「ここ最近は、海岸で野宿でしたからねぇ」
「野宿と言ったって、寝泊まりは船の中だったじゃない」
「そうだけど、でもなんていうか……床が斜めでしたし」

 そうなんだよ。
 砂浜にぽんと置いた船だから、傾いてたんだよな。
 それでもクラーケンが水平になるよう頑張ってくれたけど、それでもすこーしね。
 ハンモックで寝ていたから、水平じゃなくても関係はなかったけど。

「おかえりなさい、三人とも」
「お、マリウス。久しぶり」
「なんだか淡泊ですね……忘れていたでしょう、僕のこと!」

 ……ここは何も答えないのが正解、なのかな?
 
「なんですか、その間は!」
「いや……なんでもない」
「何かあるでしょ!」
「あー……アスたちは?」
「適当に思いついたんでしょそれ! 寝てますよっ。よっぽど疲れていたんでしょうね。すぐにコテンっと寝ましたよ」

 焼き魚パーティーの時まではしゃいでいたのにな。
 ま、電池が切れたんだろう。

「そうだ。マリウス、王国にいた頃って、塩なんかは手軽に手に入っていたのか?」
「塩ですか? 塩は貴重なものでしたよ。だからここに来て塩がふんだんに使われてるのを見て、正直ビックリしましたし」

 逆にここだと、以前は塩以外がなかったんだけどな。

「市民には出回らないほど?」
「そこまではなかったと思いますが。まぁそれでも、料理に使えるのは一食に一摘まみほどじゃないかなぁ」
「ってことは、岩塩を売ればけっこうな儲けにはなるのかな」
「もちろんです! それで……実はその件なのですが、お願いがありまして」

 ん? 珍しくマリウスからお願いをされたな。

「その……僕は領地を持たない下級貴族の四男でして」
「貴族だったのか!? そんな印象まったくなかったけど」
「う……っぽくないとは、よく、言われていました……」

 あ、なんか触れてはいけない案件だったかな。

「そ、それでお願いってのは?」
「あ、はい。母は貴族ではなく、商家の娘なんです。きっと今回のことで、両親や母の実家にも迷惑をかけていると思いまして」
「今回のことって?」
「ですから、アリアンヌ王女の命令を遂行出来ず、ダイチさまを連れ帰れなかったことです。その件で僕、役職をクビになってますし」

 あぁあぁ。そうだった。
 任務をやり遂げられなかったからクビになって、婚約も破棄されて、それで砂漠に来たんだっけ。
 あの姫のことだ。マリウスだけじゃなく、親族にも嫌がらせで何かやっているかもしれない。

「そ、それでですね……岩塩の取引を、母の実家と……」
「俺は別にいいと思うよ」
「へ? あ、い、いいんですか!?」
「一応、みんなと相談してからだけどな。砂漠の町の商人と取引しても、たぶんそう高くは買い取ってくれないかもしれないし、いいと思う」

 砂漠での適正価格での取引になるだろう。
 買い取った商人は内陸に輸送するだろうから、そのコストがかかるから高額では買い取ってくれないはず。
 更にそこから内陸の商人と取引するとなると、砂漠での買取価格を低く設定しなきゃ自分たちの儲けが出ない。

「どうやって家族と連絡を取り合うんだ?」
「時間はかかりますが、砂漠の町から手紙を出そうと思います。そこから航路で、物資の輸送も行っているようですし、手紙のやり取りもできるはずですから」
「まぁそっちは任せるよ。とにかく先に、みんなの承諾を得てからだな」
「はいっ」

 翌日、集落のみんなと話し、ここではマリウスに任せると決まった。
 更に村、他の集落とも話をして、そちらもOKってことに。
 すぐさまマリウスが手紙を書き――

「お願いです火竜さまっ。僕を町まで連れて行ってください」
『……気安く乗り物代わりに使うな』
「そんなぁぁぁ」

 火竜をタクシー代わりにしようとは、マリウスも逞しくなったなぁ。

『ふんっ。我の名を答えることができれば、町まで乗せてやろう』
「名前? 名前……えぇー?」

 マリウスの前では、まだフレイの名を呼んでなかったもんな。
 そりゃ知らないはずだ。

 察したように彼が俺を見る。
 いつもいつも留守番ばかりさせて悪いし、ここは――

「フレイ」
「フレイさまです!」
『お主、我を裏切ったな!』
「いやいや、この程度で裏切りとかないし。それに俺は教えたんじゃなくって、呼んだだけ。な、頼むよ。マリウスを町まで連れて行ってやってくれ。今度アスをここに連れて来て、お泊りさせてやるからさ」
『お泊り!? つつ、つまり我は、息子を抱いて眠れるということか!?』

 頷くと、フレイがさっと手を差し出した。

『魔術師よ、さっさと乗れ』
「ありがとうございます!」

 うんうん。チョロいな。
 ま、アスも嫌がったりしないだろうし、キャンプのつもりで来れば楽しいだろう。

 あっという間にフレイが飛んで行ったあと、ふと心配になった。

 町までって言ったけど、もしかして本当に町に直接下ろしたりしない……よな?