僕と君と私の世界の物語

「我々も、龍という器を使って色別で性格も異なるが、すべては自分だという意識を持っている。自分の分身のような仲間の龍が、体感することや思うことが、すべて自分自身に返ってくる。だから、我々は、すべての守護者を対等に守り導くと決めている。金の龍が『本当の君』の側にいると決めているのなら、今の君を守るのも我々の役目だ」
「金の龍と『本当の僕』は、どこにいるのですか?」
「この黄金都市のもう1つのピラミッドの方にいる。そこは幻想の空間であり、夢、幻、憧れなどを見せる偽物の世界だ。だが、すべてが偽物ではなく、半分は本物だ。だからこそ、迷い、悩み、苦しんで抜けられなくなる」
「なぜ、そんな所にいるのですか?」
「そこへは自分から行くのだよ。自分の意志でそこへ行くのだから、そこから出るのも自分の意志が必要だ」
「そこへは僕も行けますか?」
「すべての星の子たちが行ったことのある空間だ。普段は、夜寝ている時に行く場所である夢の世界だ。普通の星の子は、無意識の状態でその空間へ行く。だが、特別な星の子は意識がある状態でそこへ行く。だから、本物の世界だと思い込んで、いつまでもその空間にとどまってしまう。長くいればいるほど、その空間から出られなくなる」
「それは、どうしてですか?」
「自分が誰だか忘れてしまい、思い出せなくなるからだよ」
「そんな!!じゃあ、『本当の僕』は自分のことを忘れてしまっているのですか?」
「『本当の君』は眠っている。眠ったまま、自分が誰だか思い出せなくなっている。このまま眠り続けたら、やがて自分を完全に忘れ、永遠に目覚めないで、あの空間に閉じ込められたまま出られなくなる」
「えっ!!そんな・・・・」
「慌てなくていい。『本当の君』のことを誰か1人でも覚えてくれていたら、大丈夫だ。我々はお互いに繋がっているからこそ、彼が記憶を思い出すように手助けすることが出来る。その手助けとなるのが水だ。水には叡智と意志があり、すべてを記憶している。水の記憶を使って、彼を目覚めさせることが出来れば、この世界は変わる」
「変わるとはどういうことですか?」
「この世界がもう1段階上に進化するという意味だ」
(「進化・・・・」それは、創造主が真に望むことなんだろうか?)
(進化するために、「本当の僕」を助け目覚めさせる? それが、今の僕の役目?)
(特別な星の子って、創造主から与えられた使命があると聞いた。僕のは何だろう?)

「僕が創造主から与えられた特別な使命というのは何ですか?」
「この世界のすべての存在を愛することだよ」

(それが僕の使命?「すべての存在を愛する」そんな壮大な役目を『本当の僕』は、どれくらいの間やってきたんだろうか?)

「君は本当にすべての存在に愛を届けていた。君は心から願い、祈り、星の子たちに幸せな思いを与えていた」
「『本当の僕』が眠っている間は、星の子たちはどうなったんですか?」
「残念ながら、星ごと消滅した」
「えっ!!!」
 サッーと血の気が引くような思いで、心臓がバクバクと早打ちした。
「星の子は、みんな死んだのですか?」
「星が消えて、そこの空間は真っ暗闇になっている。それは、君のせいではないし、誰のせいでもない。星も意識を持っている。星が消えると決めたら、誰にも止められない。星の子たちの意識も影響している。星と星の子たち、自然界、動物界など、すべての存在たちの思いが一致して出来事は起こる。偶然のようで必然なのだ」

 ガラガラと何かが音を立てて崩れていく。それが何なのか。自信か、信頼か。
 それとも、僕自身なのか・・・・。

 僕の中で、感情がうごめく。
 後悔、懺悔、情けなさ、後ろめたさ、悲しみ、苦しみ、怒り、憎しみ・・・・。
 全部僕にとって「悪」という感情だ。
 感じてはいけない。そんな感情を持つことは許されない。
 どんな時も僕は・・・・。

 いつの間にか、僕は泣いていた。
「僕は・・・・」
 言葉にならない思いを、ざわめく感情をどこに吐き出せばいい?
 これは今の僕の心の嘆きなのか、「本当の僕」の心の叫びなのか。
 何のために、誰のために、泣いているのだろう・・・・。
 僕の感情がこの空間すべてを包み、さらにこの世界を丸ごと飲み込んでいく。
「君の感じている思いは、この世界にすべて伝わっている。なぜなら、この世界のありとあらゆる所に水は存在し、星の子たちの思いをすべて記憶するからだ。
 創造主も水も、星の子たちの思いはすべて受け入れる。どんな感情も思いも願いも祈りも、すべてだ。だから、君がどんな感情を感じてもいい。
 君は君の使命のために、星の子たちの感情を自分のこととして感じてしまう。
『星の子たちが幸せであるように』と願い、祈る。その思いは、創造主と水も同じように考えている。
 それは、星の子たちが様々な経験をして、あらゆる感情を感じた先に『真の望み』が生まれることを知っているからだ。
『真の望み』を叶えるために創造力を使う。創造力は、創造主から与えられた『愛』なのだよ」

 その言葉を聞いて、僕は許されたような気がした。
 本当は、誰にも何にも許してもらう必要なんかない。
 でも、きっと僕を許せなかったのは、僕自身だ。
 今も眠っている「本当の僕」
 君は、誰に許されたいの?
 それとも、僕を許せないのかな・・・・。

「僕と『本当の僕』は、体と魂が分離してしまった状態なのですか?」
「そうではない。『本当の君』は、そのまま眠っている。
 君は、彼が生み出した記憶の中の存在だ。
 つまり、彼の夢の中で生きている意識の1つだ」

 思ってもみなかったことを告げられ、しばし言葉を失う。

「僕が記憶の一部・・・・? いや、それは事実ではない」と僕の心は叫ぶ。
 そんな訳ない。だって、僕は今ここに、器を持って存在している。
「僕の名前は・・・・」
 あれ? 僕の名前? 名前って何? 僕は誰?
 分からない。
 僕はなぜここにいる?
 ここはどこだ?
 早く戻らないと。
 みんなが待っている所へ。
 戻る?どこへ?
 みんなって誰だ?
 僕はどこへも行けない。
 僕はここから出られない。
 僕は・・・・。

 キラはそのまま意識を失い、倒れてしまった。
 天空の入口で別れ、普通の星の子たちが進む道を行った友人たち。みんなは雲の上をふわふわと歩く感触に大はしゃぎだった。
 案内の人から「友人たちだけで先に食事をしてください」と言われたので、みんなは美味しそうな匂いのする人気店で、お腹いっぱい食事をしていた。
 お喋りに花が咲き、長時間居座って話し続けた友人たち。
 ふと気がつくと、何か大切なことを忘れているような感覚に襲われた。

「あれ?俺たち何でここに来たんだっけ?」
 アレスが思い出したようにみんなに聞く。
「お腹が空いていたからでしょ!」
 ルタは(そんなこと当然でしょ!)というような口調だ。
「そうそう!すっごく美味しかったねー」
 キャミはお喋りが楽しくて、表情が和やかだ。
「うん。けっこう長時間喋っていたよね?」
 双子のカルとポールは「俺たちはまだまだお喋り出来る!」と言いながら、デザートを頬張っている。
「何か忘れているような気がするんだけど?」
 ピアの心配性レーダーが作動したが、どうしても思い出せない。
「あー、俺も同じこと思った」
 アレスは、胸の中に何かが引っかかっているようなモヤモヤした気持ちを感じていた。
「何だっけ?全然思いつかないよ?」
 双子たちもピアとアレスの言葉が気になり、お互いに「何だと思う?」と聞き合っている。
「私も。さっきから何か引っかかるんだけど、思い出せない」
 ルタもみんなと同じように違和感を感じている。

「うーん。まあ、諦めて今日の所は帰りますか?」
 双子たちはデザートも食べ終わったし、早々に考えるのを止めた。
「そうだね。後で思い出すかもしれないし」
 キャミも仕方がないといった様子で、双子たちの意見に同意した。
「でも、とっても大切なことのような気がする」
 アクナは、胸の奥がチクチクと痛むような悲しみを感じていた。

 友人たちは、いくら考えても思い出せないことを考えるのは止めて、家に帰ることを決めた。
 みんなは、大切なキラのことを忘れてしまったのだった。

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