講義の後、キラは、グレートティーチャーに質問をしに行った。

「先生、水の記憶って何ですか?」
 質問したキラの顔を、先生はじっと見ている。
 先生の瞳の奥は(深い、深い宇宙の色だ・・・・)そう思っていると

「水はすべてを記憶する。すべてだ。水が知らないことは、何もない」
「じゃあ、過去の出来事も覚えているんですか?」
 キラが聞くと、先生は少し寂しそうな表情で笑った。

「時間は幻想だよ。過去、現在、未来が、同時に存在しているこの世界で『出来事が起こった』これが1つの事実。
 それをいつの時点で見るのかによって、認識が違ってくる。
 君から見れば、過去に思える出来事も、過去にいる人にとっては『今、まさに体験している出来事』なんだ。
 そして、君が過去の出来事を思い出すと『今ここ』にいても、意識は過去と同期する。
 器である体は現在にいながら、意識は過去を再体験している」

(じゃあ、僕が、過去かもしれない夢で見たことを考えている時は、記憶の再体験をしているってことか)

「水が記憶している出来事は、やっぱり正しいのかな・・・」
 キラが呟くように言うと

「水はあらゆることを記憶しているが、すべてが真実という訳ではない」
「えっ⁉︎そうなんですか」
「星の子たちは、毎瞬、毎瞬、何かを思い、考え、感じている。
 そのすべてを水は記憶する。
 水は混ざり合って、流れて、あちこちへ広がって行く。
 だから、水の記憶も、時には混ざり合って重なって、別の形を作り出すこともある」
「じゃあ、水の記憶がすべて正しいという訳ではないんですね?」
「ある意味ではそうだ。だが、水はいつでも正しい真実を知っている」
「正しい真実?」
「星の子1人1人が、自分の真実を持っている。
 それは、その星の子にとっては「正しい真実」だが、他の星の子にとっては違う。
 みんな、自分だけの真実を信じて生きている」

 先生の言葉をきいて(確かにそうかも!)とキラは思った。

「もし、君の真実が何かあるとすれば、それは君だけの真実だ。
 他の星の子にとっては、君の真実は関係ない。
 でも、この世界に共通する真実は存在する」
「それは、何ですか?」
「創造力だ!」

 先生は僕の肩をそっと掴み、優しい顔で言った。

「君は真実を知っている。
 君が何を思い、考え、願うのか?
 それが大切なんだよ」
「それだけでいいんですか?」
 そう聞いた僕に、先生はニコッと笑って言った。
「そうだよ」