そこは、想像していたよりも、とてもとても広い空間だった。
 360°見渡すことの出来る球体の中にいるような感じだ。
 窓がないのに中は明るくて、空間全体は穏やかなクリーム色だ。

(何もないなー)とキラが思っていると、突然、空間いっぱいに映画のフィルムのような、1コマずつ切り取った映像が映し出された。
 それは自由に動き回って、映像から音声も聞こえてきた。全部の映像から音が聞こえるので、どれがどの音声なのか分からない。
 キラはびっくりして、圧倒されたようにしばし呆然として、映像を眺めていた。

(この映像は記憶なのか?誰のだろう?)

 この空間に現れた映像は膨大な量で、しかもあちこちに移動しているので、じっくり見ることが出来ない。

(僕が知りたいのは「黄金都市と虹の花」)

 キラが心の中でそう思うと、1つの映像が近付いてきた。その映像と目が合った途端、キラは映像の中に吸い込まれた。

 キラは、映像の全体像を上空から俯瞰して見ている状態で、勝手に流れていく映像には干渉出来ないようだ。


 たくさんの人々が、上空を見上げている。
 みんなの顔は、期待と喜びに満ちあふれている。
 音楽と花吹雪が舞い、人々は笑い合っている。

(何かのお祭りなのか?)

 なぜか上空は強い光に覆われて、はっきりと見えない。


 次に場面が変わったようで、さっきまでお祭りムードだった雰囲気が一変して、今度は、人々が泣き叫びながら逃げ回っている。
 上空には光はなく、真っ暗闇に覆われている。

(何が起きたんだ?)

 どちらの場面も人々の表情は分かるが、なぜか音声が消されたようで、人々の声や周囲の音がまったく聞こえない。

(これじゃ、何も分からない)

 そう思って、もっと近くで見てみようと、人々の方へ近付いて行った。
 すると、人々が、キラの方へと指を差しながら迫ってくる。

 人々の目は鋭く狂気じみた形相で、口々に何かを叫びながら、キラを捕まえようとする。
 そのうちの1人が、キラの腕を力強く握りしめ「お前のせいだ!」と言って、襲いかかろうとした。

 たくさんの人々の手が、キラの体を捕まえようと手を伸ばす。
 キラは、恐怖で体が固まって動けない。
 実際に首を絞められ、苦しく息が出来ない。
「もうダメだ」と思った瞬間、映像の外へと投げ出されていた。