「え。なになに。写真なんか撮って。俺のカフェを紹介してくれるの? 嬉しい。助かるよ。最近は写真映えを重要視する子が多くて、インテリアにもかなり気を使っているから」

「はい……もちろん。最高の夜カフェだって、紹介します」

「都内で最高?」

「国内で最高っていう宣伝文句にしましょう……あ。冬馬さん、また良い匂いする。なんだか、美味しそうなにおい……」

 また冬馬さんからうっとりするくらい、美味しそうな甘い匂いがして、私は自分では見えないけどとろけた顔になっていると思う。

「……そう? さっきまでケーキを仕込んでいたから、バニラエッセンスの匂いが付いたのかもしれない」

 自分の服を摘んで匂いつつも、冬馬さんは当人だから匂わないのか、不思議そうな顔をしていた。こんなに良い匂いなのに。

「あ。甘い香りっていうか……すごく美味しそうな匂いがします。あ。冬馬さん……呼ばれてますね。仕事中なのに引き止めてしまって、ごめんなさい」

「いや、ありがとう。まゆちゃん。ゆっくりして行って」

 従業員さんに「オーナー」と呼ばれた彼は、にこにこして手を振って去って行った。

 慌てて目の前にあったカフェモカを飲み干した私はその朝は慌てて部屋へと帰り、誤って録画してしまった動画の中に冬馬さんの声が録音されていることを確認した。

「おはよう。まゆちゃん」

 その部分を、何度も何度も繰り返し聞いた。

 そして……完全に彼に恋に落ちてしまった様子の私は、目覚まし時計に流れるモーニングコール代わりに、彼の朝の挨拶の声を登録したのだ。