◇◆◇


 朝から遅刻必至なドタバタ劇だった仕事終わりに、例の夜カフェに訪れた私は、今朝もお会いしたばかりのイケメン店員に遠慮がちにカフェオレを注文した。

「あれっ……今日は、いつものケーキセットじゃないんだね。仕事終わりなのに、お腹は空かないの?」

 彼はすぐ隣に居た店員に手を振って私が知り合いであることを示すと、笑いながら親しげに言った。

 私はここの名物メニューのキャラメルシフォンケーキが大好きなので、いつもはドリンクと一緒のケーキセットを頼む。

 だけど、今回は別に軽いお客様気分ではなく、昨夜から朝にかけて大変迷惑を掛けた彼に悪い気持ちでいると、少しでも伝えたくて。

「はい……あのっ……これ、お礼です。少ないんですけど」

 私は鞄から取り出した二枚の紙幣が入っている茶封筒を、彼へ差し出した。