昼休み。
いつもならすぐに僕の方へやってくるはずの詩音さんも、今日はやって来ない。
結果発表の予定時刻を過ぎていることを確認し、机にパソコンを出して開いてすぐにブックマーク登録していた結果発表ページへ飛ぶ。
そのページでは、既に受賞者の一覧が発表されていた。
早く結果を確認して、詩音さんに連絡しよう。
そう思うのに、表示されている文字を読むのを躊躇してしまう。
教室を見渡しても、詩音さんは見当たらない。
昼休みが始まってすぐに教室を出ていったのだろう。
鞄の中のスマホに手をかける。
僕は首を振った。
覚悟を決めて、視線を正面に向ける。
周囲の喧騒がやけにうるさく聞こえる。
無機質な画面のブルーライトが冷たい。
ページの一番上、最優秀賞の欄に、僕の小説のタイトルが掲載されていた。
視界が滲む。
詩音さんに連絡しないと、と思い僕はスマホを取り出す。
『文也くん』
詩音さんは真剣な声でそれだけ言う。
「最優秀賞」
一言だけ告げる。
『さすが文也くん! おめでとう!』
詩音さんは、自分が受賞したみたいに喜ぶ。
僕は涙を流す。
周囲からの視線が痛い。
いくら山咲さんが僕に嫌がらせするという指示を撤回したといえ、別に僕を手厚く保護するという意味ではない。
僕が俯いて涙を流していると、すぐに詩音さんが帰ってきた。
「文也くん、おめでとう」
優しげな声に、僕は顔を上げる。
生温い水滴が頬を伝ることはなかった。
「まあ、文也くんならきっと受賞するって信じてたから、私は大して驚いてないけど」
なぜか得意気な詩音さんに、僕は思わず笑みを零す。
「ありがとう、信じてくれて」
「だからさ、文也くんももっと自分を信じてあげなよ」
真面目な顔になって詩音さんは言う。
「善処する」
僕の冗談に二人で笑い合う。
そんな僕らのところへ、山咲さんが訪ねてくる。
「二人とも、どうしたの?」
詩音さんがまたこちらを確認する。僕は頷いた。
「文也くんが、最優秀賞を受賞したの」
「あー、この前言ってたコンテストのやつ? すご!」
驚いて言葉が出ないというような様子で山咲さんは口許を押さえる。
僕たちに嫌がらせをしていた頃からは考えられないが、山咲さんはただ一点の悪意もなく僕を称賛する。
僕は、少しだけ自信がついた。
「もっと自分を信じてあげなよ」と詩音さんが告げた言葉にさっきより少し近づいたような気がする。
「えっと、七瀬は他の人にはこのこと隠してるんだっけ?」
山咲さんが僕に問いかけるが、僕はどうするべきか判断がつかず俯く。
その様子を見た山咲さんは詩音さんの方に視線を移すが、詩音さんが僕の方へ視線を動かすと、山咲さんは再び僕の方を見た。
僕はどう説明するべきか悩む。
これまでなら間違いなく隠してただろうが、詩音さんと出会い、自分の作品が受賞し、そして山咲さんにも認められ自信がついた。
だから、もしかしたら他のクラスメイトも、という気持ちがある。
その反面で、昔のトラウマは消えない。
小説を書いていることを嗤われるんじゃないかという疑念が拭えない。
詩音さんを伺うが、詩音さんはただ笑うだけで僕に口を出すつもりはないみたいだった。
確かにこれまで詩音さんに頼りすぎてきたし、そろそろ自分で判断するべきなのかもしれない。
周囲を眺める。
そういえばクラスメイトたちから嫌がらせされてたな、と少し前のことを思い出す。
しかし改めて見ると、彼ら彼女らは好んで嫌がらせをするような人間には見えない。
「今までは隠してたけど、今はもう隠してるってわけじゃない」
一息に告げる。
今日は覚悟を決めることが多い日だ、と心臓を大暴れさせながら内心で呟く。
「そうか。皆に話してもいい?」
「大袈裟にはしないでね」
僕の注意に、山咲さんは二つ返事で了承した。
すぐに山咲さんは他のクラスメイトのところへ飛んで行って、得意げな顔でなにかを話しているようだった。
山咲さんが一通り話し終わると、山咲さんが先ほど話しかけていたクラスメイトの二人組が席を立ってこちらに歩いて来る。
僕は詩音さんと顔を見合わせる。
詩音さんと相談するよりも早くクラスメイトの女子二人組が僕に声をかけた。
「七瀬くん、小説のコンテストで最優秀賞だったって?」
二人が笑っているのが一瞬嘲笑のようにも見えるが、きっと違うと自分に言い聞かせて僕は重い口を開く。
「そうだよ」
目の前の二人組が『――地味だね』と笑いながら言う幻影が見える。
呼吸が、荒くなる。
「――七瀬くん、小説なんて書けるんだね。すごい!」
実際の反応は僕の想像より僕に優しいものだった。
いつもならすぐに僕の方へやってくるはずの詩音さんも、今日はやって来ない。
結果発表の予定時刻を過ぎていることを確認し、机にパソコンを出して開いてすぐにブックマーク登録していた結果発表ページへ飛ぶ。
そのページでは、既に受賞者の一覧が発表されていた。
早く結果を確認して、詩音さんに連絡しよう。
そう思うのに、表示されている文字を読むのを躊躇してしまう。
教室を見渡しても、詩音さんは見当たらない。
昼休みが始まってすぐに教室を出ていったのだろう。
鞄の中のスマホに手をかける。
僕は首を振った。
覚悟を決めて、視線を正面に向ける。
周囲の喧騒がやけにうるさく聞こえる。
無機質な画面のブルーライトが冷たい。
ページの一番上、最優秀賞の欄に、僕の小説のタイトルが掲載されていた。
視界が滲む。
詩音さんに連絡しないと、と思い僕はスマホを取り出す。
『文也くん』
詩音さんは真剣な声でそれだけ言う。
「最優秀賞」
一言だけ告げる。
『さすが文也くん! おめでとう!』
詩音さんは、自分が受賞したみたいに喜ぶ。
僕は涙を流す。
周囲からの視線が痛い。
いくら山咲さんが僕に嫌がらせするという指示を撤回したといえ、別に僕を手厚く保護するという意味ではない。
僕が俯いて涙を流していると、すぐに詩音さんが帰ってきた。
「文也くん、おめでとう」
優しげな声に、僕は顔を上げる。
生温い水滴が頬を伝ることはなかった。
「まあ、文也くんならきっと受賞するって信じてたから、私は大して驚いてないけど」
なぜか得意気な詩音さんに、僕は思わず笑みを零す。
「ありがとう、信じてくれて」
「だからさ、文也くんももっと自分を信じてあげなよ」
真面目な顔になって詩音さんは言う。
「善処する」
僕の冗談に二人で笑い合う。
そんな僕らのところへ、山咲さんが訪ねてくる。
「二人とも、どうしたの?」
詩音さんがまたこちらを確認する。僕は頷いた。
「文也くんが、最優秀賞を受賞したの」
「あー、この前言ってたコンテストのやつ? すご!」
驚いて言葉が出ないというような様子で山咲さんは口許を押さえる。
僕たちに嫌がらせをしていた頃からは考えられないが、山咲さんはただ一点の悪意もなく僕を称賛する。
僕は、少しだけ自信がついた。
「もっと自分を信じてあげなよ」と詩音さんが告げた言葉にさっきより少し近づいたような気がする。
「えっと、七瀬は他の人にはこのこと隠してるんだっけ?」
山咲さんが僕に問いかけるが、僕はどうするべきか判断がつかず俯く。
その様子を見た山咲さんは詩音さんの方に視線を移すが、詩音さんが僕の方へ視線を動かすと、山咲さんは再び僕の方を見た。
僕はどう説明するべきか悩む。
これまでなら間違いなく隠してただろうが、詩音さんと出会い、自分の作品が受賞し、そして山咲さんにも認められ自信がついた。
だから、もしかしたら他のクラスメイトも、という気持ちがある。
その反面で、昔のトラウマは消えない。
小説を書いていることを嗤われるんじゃないかという疑念が拭えない。
詩音さんを伺うが、詩音さんはただ笑うだけで僕に口を出すつもりはないみたいだった。
確かにこれまで詩音さんに頼りすぎてきたし、そろそろ自分で判断するべきなのかもしれない。
周囲を眺める。
そういえばクラスメイトたちから嫌がらせされてたな、と少し前のことを思い出す。
しかし改めて見ると、彼ら彼女らは好んで嫌がらせをするような人間には見えない。
「今までは隠してたけど、今はもう隠してるってわけじゃない」
一息に告げる。
今日は覚悟を決めることが多い日だ、と心臓を大暴れさせながら内心で呟く。
「そうか。皆に話してもいい?」
「大袈裟にはしないでね」
僕の注意に、山咲さんは二つ返事で了承した。
すぐに山咲さんは他のクラスメイトのところへ飛んで行って、得意げな顔でなにかを話しているようだった。
山咲さんが一通り話し終わると、山咲さんが先ほど話しかけていたクラスメイトの二人組が席を立ってこちらに歩いて来る。
僕は詩音さんと顔を見合わせる。
詩音さんと相談するよりも早くクラスメイトの女子二人組が僕に声をかけた。
「七瀬くん、小説のコンテストで最優秀賞だったって?」
二人が笑っているのが一瞬嘲笑のようにも見えるが、きっと違うと自分に言い聞かせて僕は重い口を開く。
「そうだよ」
目の前の二人組が『――地味だね』と笑いながら言う幻影が見える。
呼吸が、荒くなる。
「――七瀬くん、小説なんて書けるんだね。すごい!」
実際の反応は僕の想像より僕に優しいものだった。