その日から、僕はスマホを開かなくなった。

 受賞していたとしても受賞していなかったとしても、連絡が来る来ないを気にして他の作品を書く手が止まるのは嫌だったから。

 それに、受賞していたかどうか発表される前に知ってしまっては、詩音さんにリアルタイムで連絡出来ない。

 詩音さんとは口頭で約束させてもらって、締め切りまで作品の隅々を徹底的に見直した。

「今日の昼頃発表だったよね」

 結果発表が予定されている日の朝、普段通り駅前で僕と合流した詩音さんが僕に確認した。

「そうだよ」
「じゃあ、結果を確認するときは言ってね。私は一旦文也くんから離れるから」

 改めて聞くと、なんて滑稽なことだろう。

 ただ僕が結果を確認する一瞬だけ詩音さんと離れ、確認してすぐに詩音さんと合流する。

「本当に、意味あるの?」
「そう言われるとちょっと怪しいかも。でもさ、結果を知ってから一番大きく感情が動くのって、結果を確認した瞬間じゃないかな。あえてその瞬間を一人で過ごすことで、自分の感情がはっきりわかると思う」

 詩音さんの言わんとしていることはわかる。

 確かに、例えば僕が泣き出しそうなほど悲しんだとして、僕は詩音さんが近くにいたら涙を抑えるかもしれない。

「じゃあ、意味あるかも」

 僕の言葉に詩音さんは満足げに笑った。

「一人じゃ抱えきれないと思ったら他人と分け合うことも大事だとは思うけど、それが出来ない場面だってあるし、他人と分け合わないとなにも出来ない人よりも一人で抱えきれる人の方がやりやすいこともあるだろうから」

 僕は黙って頷く。

「ちょっとかっこつけすぎちゃったかも……」

 詩音さんは今度は控えめに笑い、僕はどんな顔をすればいいかわからなくて曖昧に笑った。