山咲さんと友達になってしまえば、それ以降の日々は山咲さんの友人からの嫌がらせもほとんどなくなった。

 僕は、人生ってこんなに上手くいくことがあるんだ、と感心した。

 一方で今回のコンテストに応募する作品については、誰に邪魔されることもなく、詩音さんの手伝いの下で進んでいった。

 前までは学校で執筆をしていると邪魔されることも多く、順調とは言えない進み方だった。

 しかし、嫌がらせさえなくなれば学校でも問題なく執筆を進めることが出来るようになった。

 そのおかげで執筆作業自体は既に終わり、あとは読み直して矛盾や良くない表現を改善すれば作品は完成だ。

「詩音さん、僕の作品に協力してくれてありがとう。自分の作品もあるだろうに」
「いや、私、今回のコンテストには出さないから」

 初耳だった。

 僕は、詩音さんも自分の作品をコンテストに出すのだとばかり思って、今度こそは詩音さんに勝つという心意気で作業していたのだが、どうやらその考えは間違っていたらしかった。

「どうして?」
「書籍化に向けた動きも忙しいし、家事もやって学校にも行かないといけないから、さすがに時間が取れないよ」

 詩音さんの時間が減ってしまった理由はきっとそれだけではなくて、僕の小説の手伝いをしていたからでもあるのだろう。

 そう考えると罪悪感が湧いてくる。

「それに、文也くんの小説の手伝いに全力を注ぎたかったから」
「え?」

 僕の小説は詩音さんから見てそんなに価値のあるものだったのか。

「今回の文也くんの小説、すごい調子よさそう」
「確かにかなりの自信作だけど……なんでそのことがわかったの?」
「付き合いもそろそろ長くなってきたし、そのくらい文章を見ればわかるよ」

 ふふっと自慢げに笑う詩音さんが微笑ましい。