「え、服買うだけで半日終わったんだけど……」
外は既に暗く、星の光が微かに見える。
詩音さんの虚しい呟きが真っ暗な虚空に溶ける。
「ショッピングモールに入る前は夕日が見えてたのに、完全に沈んでる……」
「七瀬、これもショッピングモールの魔力だ。時間があっという間に過ぎていくの」
詩音さんの着せ替えを通して僕との距離がさらに縮まった山咲さんは、神妙な面持ちで言った。
「いやいや、二人がずっと私を着せ替えてたのが悪いんじゃないかな」
「そういう見方も出来るわけか」
「それ以外のなんでもないけど」
真剣な表情で考え込む詩音さんに、詩音さんが真顔で突っ込む。
僕は声をあげて笑った。
そんな僕を、山咲さんは不思議そうに、詩音さんは嬉しそうに見る。
「文也くん、珍しく声をあげて笑ってる」
詩音さんは微笑みながら言う。
「春香とは仲良くなれたね。これなら、他の人たちもなんとかなりそうじゃない?」
でも、僕が山咲さんと仲良くなれたのは、詩音さんという共通点が、詩音さんを着せ替えするという共通の趣味がたまたまあったからだ。
僕は俯く。
「なにも全く同じ手順で仲良くならないといけないってわけじゃないから。小説を読むのが好きな人とはまた別の視点からの話が出来るだろうし、文也くんには他にも趣味があるだろうし」
その言葉を聞いて、僕は顔を上げた。
山咲さんは僕たちの会話に置いていかれているようだったが、僕たちを静かに見守っていた。
「七瀬のこと、暗い奴だと思って敬遠してた。でも、話してみると案外気が合うかもしれないと思った」
山咲さんがなんと言おうとしているのか、僕は薄々感づいた。
山咲さんは、たぶん僕に自信を持たせようとしてくれている。
僕が山咲さん以外の人とも仲良くなれるように。
「ありがとう、山咲さん」
「なんのこと?」
山咲さんはそっぽを向いた。
その耳が、少し赤くなっていた。
「じゃあそろそろ帰ろうか」
詩音さんが真っ暗に染まった空を見上げながら言った。
「そうだね、もう遅いし」
「七瀬は親も心配してるだろうし」
山咲さんの他人事のような言葉に、僕は少し違和感を覚える。
「山咲さんは、親は?」
「私は一人暮らし。親のせいでこんな性格になったみたいなところあるから」
山咲さんがそう語って、僕は山咲さんが親に虐待されていたという話を思い出した。
それなら、少しでも早く親元を離れようと一人暮らしをしているのも納得だ。
「僕は、別に山咲さんの性格が悪いとは思わないけど」
「私も、春香はいい子だと思う」
僕の言葉に詩音さんが同意して、それを見た山咲さんは呆れたように笑う。
「あんたたちの方がお人好しじゃん」
僕と詩音さんは顔を見合わせる。
僕の視線の先の詩音さんは、そう言われる心当たりがない、みたいな顔をしていた。きっと僕も同じ顔をしている。
「最近の七瀬、結構詩音に似てきた。ちょっと好きかも」
「むう」
山咲さんの言葉に、詩音さんはなぜか少し不服そうな顔をした。
「当然、友達として、って意味なんだけど」
そう付け足した山咲さんがこちらに歩み寄ってきて、僕は少し怯む。
なにかされるんだろうか。
だが僕の予想は外れ、山咲さんはただ僕に向かって右手を差し出す。
握手しろって意味だと思うけど、違った場合少し恥ずかしいので、僕は山咲さんが差し出した手から視線を上へ移動して、山咲さんと目を合わせる。
「握手」
山咲さんの言葉を聞いて僕は確信を持ち、差し出された右手を僕の右手で握る。
「七瀬、これからよろしく」
いつもと変わらないはずの夜空。
そこに浮かぶ、いつもと変わらないはずの星々が、笑ったような気がした。
外は既に暗く、星の光が微かに見える。
詩音さんの虚しい呟きが真っ暗な虚空に溶ける。
「ショッピングモールに入る前は夕日が見えてたのに、完全に沈んでる……」
「七瀬、これもショッピングモールの魔力だ。時間があっという間に過ぎていくの」
詩音さんの着せ替えを通して僕との距離がさらに縮まった山咲さんは、神妙な面持ちで言った。
「いやいや、二人がずっと私を着せ替えてたのが悪いんじゃないかな」
「そういう見方も出来るわけか」
「それ以外のなんでもないけど」
真剣な表情で考え込む詩音さんに、詩音さんが真顔で突っ込む。
僕は声をあげて笑った。
そんな僕を、山咲さんは不思議そうに、詩音さんは嬉しそうに見る。
「文也くん、珍しく声をあげて笑ってる」
詩音さんは微笑みながら言う。
「春香とは仲良くなれたね。これなら、他の人たちもなんとかなりそうじゃない?」
でも、僕が山咲さんと仲良くなれたのは、詩音さんという共通点が、詩音さんを着せ替えするという共通の趣味がたまたまあったからだ。
僕は俯く。
「なにも全く同じ手順で仲良くならないといけないってわけじゃないから。小説を読むのが好きな人とはまた別の視点からの話が出来るだろうし、文也くんには他にも趣味があるだろうし」
その言葉を聞いて、僕は顔を上げた。
山咲さんは僕たちの会話に置いていかれているようだったが、僕たちを静かに見守っていた。
「七瀬のこと、暗い奴だと思って敬遠してた。でも、話してみると案外気が合うかもしれないと思った」
山咲さんがなんと言おうとしているのか、僕は薄々感づいた。
山咲さんは、たぶん僕に自信を持たせようとしてくれている。
僕が山咲さん以外の人とも仲良くなれるように。
「ありがとう、山咲さん」
「なんのこと?」
山咲さんはそっぽを向いた。
その耳が、少し赤くなっていた。
「じゃあそろそろ帰ろうか」
詩音さんが真っ暗に染まった空を見上げながら言った。
「そうだね、もう遅いし」
「七瀬は親も心配してるだろうし」
山咲さんの他人事のような言葉に、僕は少し違和感を覚える。
「山咲さんは、親は?」
「私は一人暮らし。親のせいでこんな性格になったみたいなところあるから」
山咲さんがそう語って、僕は山咲さんが親に虐待されていたという話を思い出した。
それなら、少しでも早く親元を離れようと一人暮らしをしているのも納得だ。
「僕は、別に山咲さんの性格が悪いとは思わないけど」
「私も、春香はいい子だと思う」
僕の言葉に詩音さんが同意して、それを見た山咲さんは呆れたように笑う。
「あんたたちの方がお人好しじゃん」
僕と詩音さんは顔を見合わせる。
僕の視線の先の詩音さんは、そう言われる心当たりがない、みたいな顔をしていた。きっと僕も同じ顔をしている。
「最近の七瀬、結構詩音に似てきた。ちょっと好きかも」
「むう」
山咲さんの言葉に、詩音さんはなぜか少し不服そうな顔をした。
「当然、友達として、って意味なんだけど」
そう付け足した山咲さんがこちらに歩み寄ってきて、僕は少し怯む。
なにかされるんだろうか。
だが僕の予想は外れ、山咲さんはただ僕に向かって右手を差し出す。
握手しろって意味だと思うけど、違った場合少し恥ずかしいので、僕は山咲さんが差し出した手から視線を上へ移動して、山咲さんと目を合わせる。
「握手」
山咲さんの言葉を聞いて僕は確信を持ち、差し出された右手を僕の右手で握る。
「七瀬、これからよろしく」
いつもと変わらないはずの夜空。
そこに浮かぶ、いつもと変わらないはずの星々が、笑ったような気がした。