「これで全員揃ったね」

 僕がサイゼリヤ前に着くころには、詩音さんも山咲さんも既にそこにいた。

「ごめん、待った?」
「大丈夫だよ。ね、春香」
「うん」

 詩音さんが山咲さんに話を振り、山咲さんは気まずそうに僕から視線を逸らしながら答える。

 僕たちは、詩音さんを間に挟まないと全然会話が出来ない。気まずい。

「じゃあ、自転車で四十分くらいだっけ? れっつごー!」

 詩音さんが満面の笑みで腕を突き上げたので、僕と山咲さんも死んだ魚のような目でそれに倣った。

「二人とも、もっと仲良くしなよ。その方が楽しいでしょ?」
「喋ること、ないんだよね」

 詩音さんの言葉を聞いて、山咲さんは僕の方をちらりと一瞥して申し訳なさげに言った。

「僕も同意。共通点がなにもないから」

 片やクラスの中心格の女子、片や教室の隅で一人小説を書いているモブ。

 詩音さんがいなければ交わることが無かったであろう二人に、共通点なんてない。

「じゃあ仕方ないよね。無理に喋らなくてもいいけど、気が合ったら話してくれるとありがたいんだけどな」

 僕は詩音さんの言葉に納得した。

 確かに、三人で一緒にいて自分以外の二人がなかなか喋らなかったら気まずいであろうことは容易に想像できる。

「……じゃあ山咲さん、よろしく」
「……七瀬、よろしく」

 僕らは二人とも詩音さんに迷惑をかけられないと思ったのか、どちらともなく自然に不自然な挨拶をして、互いにちらちら見ながらそれぞれ自転車にまたがる。

「それじゃ、出発しようか」

 僕らは自転車を漕ぎ始めた。

 しばらく自転車を漕ぎ続け、この間詩音さんと海に行ったときと途中まで同じルートを辿ったが、途中でこの間より情報量が多いルートに移動した。

 僕は道がわからず少し不安に思いながら詩音さんと山咲さんの後をついて行くと、しばらくした後に例のショッピングモールが見えてくる。

「そろそろ着く?」
「そうだね……駐輪場はもうちょっと遠いけど、ほぼ着いたよ」

 詩音さんの言葉に、山咲さんも軽く頷く。

「二人はここよく来てたって言うし、安心感があるね」

 僕が思ったことを口に出すと、詩音さんは表情を明るくし、山咲さんは僕の方から顔を背けた。

 山咲さんの反応に違和感を覚えるが、山咲さんなりの照れ隠しということで僕の中で納得した。

「この辺のことは私たちに任せてね。ね、春香」
「……うん」

 山咲さんは蚊の鳴くような声で詩音さんに同意した。

 会話をしているうちに駐輪場へ着いたらしく、詩音さんと山咲さんが行く方へついて行く。

「ここの駐輪場、はめるやつないんだね」

 自転車の前のタイヤをカチッとはめて、自転車を出すときに番号を入力して入庫していた時間に対応した料金を支払うアレが、この駐輪場にはなかった。

「駐輪は基本無料だったはず」

 珍しく山咲さんが答えて、僕は目を瞠った。

「なるほど、ありがと。無料で駐輪できるなんてすごいね」

 僕たちはそこに自転車を置くと、すぐ近くにあった入り口からショッピングモールに入る。

「天井が高い」

 僕は驚いて言った。

「ショッピングモールだっらこのくらい普通だと思うけど……。七瀬はショッピングモールとかあんまり行かないわけ?」

 詩音さんに迷惑をかけまいとしているのか、山咲さんがまたも僕の言葉に反応した。

「僕は基本外に出ることが無いから。詩音さんと遊ぶときくらい」
「私は文也くんとショッピングモールに行ったことないな」

 僕の言葉を補った詩音さんに深く頷く。

 僕はあまり外に出ないので、二人で遊びに行くと言われて買い物に行くという思考がなかった。

 だから、詩音さんと買い物に行ったこともない。

「じゃあ、七瀬はショッピングモール初めてってことか」
「そういうことになるね」
「それなら、ショッピングモールの正しい回り方を教えよう」
「よろしくお願いします」

 山咲さんが先ほどまでよりも積極的に僕との距離を詰めてくれて、出会ってすぐのころの詩音さんのことが思い起こされる。

「春香、最初はどこ行く?」
「決まってる、服屋!」
「そうなんだ。その心は?」

 別に最初に服屋へ行こうがどこに行こうが、大して変わらないような気がしてならない。

「そりゃもちろん、詩音を着せ替えるためよ」
「よしきた」

 僕は財布から一万円を三枚取り出す。

「資金は僕に任せて。すべては最高に可愛い詩音さんを見るために」

 僕と山咲さんは拳を突き合わせた。