「ただいま」
「お帰り、文也」

 僕が家に帰ると、母はリビングにいた。

 出かけようとするとどうしてもリビングを通る必要があるので今から出かける理由を母に告げなければならないのが少し気怠い。

 しかし、脳内の詩音さんが「自分を心配してくれる人がいるのは、きっと幸せなことなんだよ」と言った。

「お母さん、友達と遊んでくる」
「文也に友達……。この間遊園地に行ってたのと同じ人?」
「なんで知ってるの」

 たぶん母が指しているのは詩音さんのことだろう。

 だが、僕は遊園地に行ったときにはそのことを母に言っていないはずだ。

 だから、母は遊園地のことを知らないはずだ。

「部屋の机にチケットが置いてあったわよ」
「一人で行ったかもしれないだろ」
「文也は一人で遊園地行くの?」
「行かない」
「ほら、友達と行ったでしょ」
「確かに」

 母は見事な推理を披露し、僕が友達と遊園地に行ったことを証明した。

「で、その時の人と同じ人?」
「ああ」
「あら、いい友達じゃない。友達は大切にね」

 言われなくてもそうする、と心の中で答えながら僕はいってきます、と言った。

 家の外に出ると、ほっと息を吐く。

 これまで僕と両親の仲は悪い方だったが、ひとまず母とは仲良くできそうだった。

「じゃあ、行くか……」

 僕は自転車にまたがり、自転車を走らせる。