「文也くん、授業終わったあ!」
「授業は終わったけど、どうしてわざわざ僕に……?」
「そりゃ当然、文也くんと話がしたかったから」

 そう言って詩音さんははにかんだ。

 その様子が不満だったのか、どこからともなく山咲さんが現れる。

「私は? わたしとは話がしたくないの?」

 なるほど、確かに先日詩音さんが言っていた通り、歪んだ愛が言動の端々から感じられる。

「春香とももちろん話したいよ!」

 詩音さんはにこにこ笑いながら言った。

 詩音さんのその様子は、ついこの間まで山咲さんたちのことをあれほど怖がっていたとは思えないものだった。

「それじゃあ、今日帰ったら自転車でサイゼリヤ集合ね」
「ああ、自転車で買い物行くのか」
「そうだよね、詩音はあんまり余裕ないんだっけ……」

 心を入れ替えた山咲さんは、詩音さんのことも気遣っているようだった。

「でも、二人は電車で来てもいいよ」
「いや、それは無い。僕も自転車で行く」
「私も」

 僕も山咲さんも、詩音さんを一人にしたくなかった。

 それと、僕と山咲さんの二人きりになるのは気まずいから詩音さんの力を借りたい。

 どうやら山咲さんも同じ気持ちらしく、僕らは顔を見合わせた。

「二人とも、ありがと。それじゃあ、皆で自転車で買い物に行こー!」
「私は詩音とは家の方向違うから、先に帰るね」

 山咲さんは詩音さんに告げて、自分の席に戻って、帰る準備を始めた。

「それじゃあ、私たちも一回帰る準備しようか」
「わかった」

 詩音さんも自分の席に戻って帰る準備を始める。

 僕も、一人で教室に残っても仕方ないので、彼女たちを見習って帰る準備を始めた。