僕が詩音さんと一緒に登校し、普段通り自分の席に着席すると、ばつが悪そうに山咲さんが僕の席までやってきた。
 
「七瀬、ごめん。理不尽なことで嫌がらせして」

 山咲さんはこれまでの態度からは考えられないほど素直に謝る。

 しかし、その謝罪は嫌々という様子ではなく、心からの謝罪のようだった。

 心から謝意を持っているようだったが、「許す」というのも上から目線なような気がして、僕は答えに迷う。

「僕は、別に」

 最終的には、僕は気にしていないという旨を素っ気なく伝える。

 だがその意図は正確には伝わらず、山咲さんは僕が怒っていると思ったようだ。

「許してほしいとは言わないけど……ただ、反省の意思を持ってることだけ、知っていてほしい」
「僕は、別に気にしてないから」

 僕が訂正すると、山咲さんは頭を搔きながら言う。

「ありがとう」

 僕はどう答えるべきかわからず、そっぽを向いた。

 山咲さんもなにも言わず、気まずい空気が漂い始める。

「春香、文也くん!」

 沈黙を打破したのは、やはり詩音さんだった。

「今日空いてる?」

 詩音さんが僕たちに尋ねる。

「僕は空いてる、けど……締め切りが……」
「そっか、だいぶ厳しい?」
「結構作業したから、一日くらいならなんとかなる」
「わかった」

 僕は詩音さんの答えに頷いてちらりと山咲さんの方を見る。

 当の山咲さんは、メモ帳のようなものを確認していた。

「私も、今日はなにもない」

 それぞれの答えを聞いて、詩音さんはぱあっと顔を輝かせた。

 それを見て山咲さんの顔からは気まずさは消えた。

「じゃあ、今日ショッピングモール行こ!」

 僕と山咲さんは同時に顔を見合わせた。

「二人も、息ぴったりだね!」

 詩音さんは、少し勘違いをしているみたいだった。僕たちの息が合ったのは、たぶん詩音さんの提案が急すぎたからだと思う。

 それとも、詩音さんの提案が急なのも、息ぴったりだと言ったのも、僕と山咲さんの仲を取り持つための手段なのかもしれない。

 僕と山咲さんが棒立ちになっていると、詩音さんは鼻歌を歌いながら僕の席を離れた。

「七瀬……、じゃあその、またあとで」

 山咲さんは遠ざかっていく詩音さんの姿を気にしながら、気まずそうに僕の席から離れた。

 僕が最初の授業の用意をすると、隣の人がいつも通り嫌がらせをした。

 山咲さんの行動は変わっても、他のクラスメイトたちまではそのことは伝わっていないらしかった。