それからしばらくの間は、いじめこそ続いたが特に大きな問題が起こることもなく、僕たちはいじめられることにそろそろ慣れてきて余裕が出てきた。
いじめの具体的な内容というのは、精々暴言を吐かれる程度。
そんなものは慣れればどうでもよく、実害が出ているのは物が隠されたり壊されたりすることくらいだった。
それに関してはどうしようもなく、教師に言っても彼らはわりかし適当なので大した効果はなくて、諦めるしかなかった。
そうしておよそ二カ月、僕が作品を応募した小説のコンテストの結果発表が近づいてきた。
近づいてきたと言えども、結果発表の具体的な日付は公開されていない、もしくは決定されていないため、僕は今か今かと結果発表の日を待ち続けた。
いつも通り今日も僕が家に帰り、パソコンを開いて小説投稿サイトを開く。
そこにはコンテスト結果発表の文字がでかでかと踊っているバナーがあり、僕はすぐにそのバナーをクリックした。
最優秀賞、優秀賞……。
その中に僕の作品のタイトルは見つからず、作者名にも僕が登録しているユーザー名は発見出来なかった。
だが、気になるユーザー名が一つ。
「これ……」
最優秀賞――作者、”Shion”。
きっと詩音さんとはなんの関係もない。
「しおん」なんてよくいる名前だし、そもそも小説投稿サイトに本名で登録するなんてインターネットリテラシーが見受けられない。
だからきっと、詩音さんじゃない。
そう思うのになぜか心臓の鼓動は速くなって、自分の作品が受賞しなかったことよりも「Shion」というユーザーの方が気になってしまう。
僕は本気で小説家を目指しているのに、コンテストの反省よりもこのユーザーへの興味が先行するのは明らかに異常だ。
詩音さんに違うと言ってもらってさっさと片付けて、次の作品へ進もう。
そう思って焦っていたのだろうか、僕はメッセージではなく電話をかけるという手段を選択した。
『もしもし、文也くん? 電話なんて珍しいね』
「詩音さん、結果発表見た? 最優秀賞を受賞した作者のユーザー名が、Shionなんだけど」
なんの結果発表なのか、ユーザー名がShionだからなんなのか、僕は明らかに言葉足らずに言ったが、しかし詩音さんはしっかりとその言葉を理解したようだった。
『ああ、それ私だよ。実は文也くんからコンテストのこと聞いて、応募してたんだ。隠してたってわけじゃないんだけど――』
受賞したのは詩音さんだった。
僕を置いて受賞した。
たとえ詩音さんが応募しようが受賞しようが、僕がそれに口を出すことは出来ない。
そのはずなのに、裏切られたような気分になる。
協力するとか言っておいて、自分はのうのうと小説を書いて受賞。
ふざけるな。
僕が何年小説を書いてきたと思ってる。僕がどれだけのキャパシティを小説に割いてきたと思ってる。僕がどんな気持ちで小説を書いてきたと思ってる。
「……そうか。信頼したのが悪かったのか。僕が悪かったのか」
思わず言葉が零れ落ちた。
電話の向こうで詩音さんが息を呑む音が聞こえる。
『待って文也くん――』
「言い訳なんて聞きたくない。内心見下しながら僕と過ごすのは楽しかったか? もう話しかけないでくれ」
詩音さんに告げた僕は、大きな喪失感を感じた。
だが、詩音さんに対してその感情を抱くのが気に食わなくて、なかったことにして握りつぶす。
僕を見捨てて見下して、大した努力もせずに僕が先に応募したコンテストで受賞した。
そんな詩音さんに価値を感じたくなかった。
いじめの具体的な内容というのは、精々暴言を吐かれる程度。
そんなものは慣れればどうでもよく、実害が出ているのは物が隠されたり壊されたりすることくらいだった。
それに関してはどうしようもなく、教師に言っても彼らはわりかし適当なので大した効果はなくて、諦めるしかなかった。
そうしておよそ二カ月、僕が作品を応募した小説のコンテストの結果発表が近づいてきた。
近づいてきたと言えども、結果発表の具体的な日付は公開されていない、もしくは決定されていないため、僕は今か今かと結果発表の日を待ち続けた。
いつも通り今日も僕が家に帰り、パソコンを開いて小説投稿サイトを開く。
そこにはコンテスト結果発表の文字がでかでかと踊っているバナーがあり、僕はすぐにそのバナーをクリックした。
最優秀賞、優秀賞……。
その中に僕の作品のタイトルは見つからず、作者名にも僕が登録しているユーザー名は発見出来なかった。
だが、気になるユーザー名が一つ。
「これ……」
最優秀賞――作者、”Shion”。
きっと詩音さんとはなんの関係もない。
「しおん」なんてよくいる名前だし、そもそも小説投稿サイトに本名で登録するなんてインターネットリテラシーが見受けられない。
だからきっと、詩音さんじゃない。
そう思うのになぜか心臓の鼓動は速くなって、自分の作品が受賞しなかったことよりも「Shion」というユーザーの方が気になってしまう。
僕は本気で小説家を目指しているのに、コンテストの反省よりもこのユーザーへの興味が先行するのは明らかに異常だ。
詩音さんに違うと言ってもらってさっさと片付けて、次の作品へ進もう。
そう思って焦っていたのだろうか、僕はメッセージではなく電話をかけるという手段を選択した。
『もしもし、文也くん? 電話なんて珍しいね』
「詩音さん、結果発表見た? 最優秀賞を受賞した作者のユーザー名が、Shionなんだけど」
なんの結果発表なのか、ユーザー名がShionだからなんなのか、僕は明らかに言葉足らずに言ったが、しかし詩音さんはしっかりとその言葉を理解したようだった。
『ああ、それ私だよ。実は文也くんからコンテストのこと聞いて、応募してたんだ。隠してたってわけじゃないんだけど――』
受賞したのは詩音さんだった。
僕を置いて受賞した。
たとえ詩音さんが応募しようが受賞しようが、僕がそれに口を出すことは出来ない。
そのはずなのに、裏切られたような気分になる。
協力するとか言っておいて、自分はのうのうと小説を書いて受賞。
ふざけるな。
僕が何年小説を書いてきたと思ってる。僕がどれだけのキャパシティを小説に割いてきたと思ってる。僕がどんな気持ちで小説を書いてきたと思ってる。
「……そうか。信頼したのが悪かったのか。僕が悪かったのか」
思わず言葉が零れ落ちた。
電話の向こうで詩音さんが息を呑む音が聞こえる。
『待って文也くん――』
「言い訳なんて聞きたくない。内心見下しながら僕と過ごすのは楽しかったか? もう話しかけないでくれ」
詩音さんに告げた僕は、大きな喪失感を感じた。
だが、詩音さんに対してその感情を抱くのが気に食わなくて、なかったことにして握りつぶす。
僕を見捨てて見下して、大した努力もせずに僕が先に応募したコンテストで受賞した。
そんな詩音さんに価値を感じたくなかった。