「文也、今日も用事あるのよね?」
「ぁ、母さん。おはよう」

 僕が母に起こされると、すぐに今日の予定を思い出す。

 そうだ、今日は詩音さんと一緒に冬の海を見に行く予定の日だ。

 冬の海へ行く前に昼食を取ろうと、昼前に近所のショッピングモールに集合する予定なので、ずっと寝ていては出かける準備が間に合わない。

 僕は久しぶりに、母が起こしてくれたことに感謝した。

「朝ごはんあるから食べときなさい」

 感謝こそするものの、僕が人間を恐れるようになってから、家族とともに食事を取ることは少なくなっていた。

 今日も、部屋で一人パソコンを開いて執筆をしながら食事を口に含む。

 そんな僕に両親がなにか言うことはない。

 食事をし終わると、小説作成画面と睨み合いながらスマホを手に取る。

 もしかしたら詩音さんから連絡が来ているかもしれないと期待したからだ。

 その端末は僕の期待通りに詩音さんからのメッセージを受け取っていた。

『海、楽しみ! 小説にも役立つのかな?』

 それは昨晩送信されたものらしく、僕の確認が遅れてしまって申し訳ないが、返信をしてから着替える。

 詩音さんからのメッセージで、僕もさらに海が楽しみになってきて、僕らしくもなくうきうきで家を飛び出す。