「私もいじめの対象にされちゃったみたい」

 休み時間、詩音さんは山咲さんたちに話しかけることもせず一直線にこちらへやってきた。

「え、詩音さんも? どうして?」
「文也くんに協力しているのが気に食わなくなったんじゃないかな、たぶん」

 詩音さんの考えには一応納得がいく。

 だが、クラスメイトたちが僕に嫌がらせをし始めたのは、詩音さんと長い時間を過ごしたくて、詩音さんと仲良くしている僕が気に食わなかったからではなかったのか。

 そうだとしたら、詩音さんをいじめるというのは論理的におかしい。

「春香たちみたいないわゆる『陽キャ』は、論理なんて関係ないんだろうな」

 詩音さんはそう言った。

「どういうこと?」
「目的のための一貫性とか、そういうものは関係ないの。ただその時々で気に食わない人に嫌がらせをするし、その時々で仲の良い人には贔屓をする。そんな風に、感情で動いてるんだよ」

 それはある種、人間ではなく動物のような行動だと、直感的に思う。

 「目的」に対して手段を行使する人間に対して、彼女たちが行っているのは「湧き出る感情」という本能のために行動するという動物的な行動だ。

「なるほど、いじめが動物的な行動っていうのも良い得て妙だね」
「どういうこと?」
「いじめする奴は全員なんも考えてない馬鹿ってこと」

 過激な考え方で同調することで、一体感を感じる。

 しかし、彼女たちはどうやら本能に従うことしか出来ないようなので、大体あってる。

「だいぶ過激な思想だね……。まあ、良かったよ」
「え、どこに良かった要素があったの?」
「文也くんだけいじめられてるっていうのはちょっと後ろめたかったから」

 自分も巻き込まれているのに。
 
 あまりにもポジティブ過ぎる思考に心を奪われて、僕は開いた口が塞がらなかった。

「でも、僕たち完全に孤立しちゃったね」
「そうだね。このクラスで私たちの味方してくれるような人は一人もいないし……」

 僕たちは途方に暮れた。

 でも、心のどこかで詩音さんと一緒なら問題もないように思っている。

「そんなことより、明日の水族館楽しみだね。文也くんは好きな魚とかいる?」
「僕は、魚とかはあんまり好きじゃない。だけど、詩音さんと見に行くならどんな魚も楽しみだなあ」
「そっか、嬉しい」

 明日水族館に行く予定へ思いを馳せる。

 おかげで僕と詩音さんの心は既に落ち着きを取り戻していて、外野からちょっかいをかけてくる動物たちなどもはや気にならなくなった。