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「秋人くん、覚醒しました! 成功です!」

 わぁ、と歓声のようなものが聞こえる。誰だ? ギルドの連中だろうか。ぼんやりして、意識がはっきりしない。視界も霞がかっているし、音も反響している気がする。

「ああ、無理しなくていいよ。何せ、意識が戻るのは五年ぶりだからね。体もまともに動かないだろう」

 五年ぶり? 何を言っているんだ。まさかあの後、五年も眠っていたというのか? 馬鹿らしい。

「今はまだ混乱しているだろうから、また後でちゃんと説明するけど。不安だろうし処置しながら少し話すね」

 白衣の人物は、僕に繋がれた色々なものをいじったり、何かモニターのようなものを見ながら話し始めた。

「君の名前は三枝秋人くん。五年前、まだ子どもだった頃に、一つのゲームを作った。君による、君のための、君だけのゲームだ。他の誰も干渉出来ない」

 さえぐさあきと。それが、僕の名前?

「君は学校でイジメを受けた。しかし、誰にもそれを信じて貰えなかった。現実世界に嫌気がさしたのか、君はゲームの中に逃げ込んだ。自分の作り上げた、理想の世界に」

 イジメ。その言葉を聞いた瞬間、嫌な汗が噴き出してきた。それと同時に、様々な記憶が浮上してくる。

「ああ、ごめんね。嫌なことを思い出させたかな。ともかく、君はずっとゲームの世界に居たんだよ。君がログアウト手段を断ってしまったために、僕らは生命維持をすることしか出来なかった」

 動揺に反応したのか、機械がピーと嫌な音を立てた。白衣の人物が操作してそれを止める。

「外部から強制的にログアウトさせることは出来なかった。だから、何とか君自身の意識を誘導して、外に出させることは出来ないのかと考えたんだ。そこで、僕らはゲームに手を加えることにした」

 頭痛がする。この言葉を聞いていたくはないのに、体が動かない。

「君以外の人物がゲームにログインすることは出来なかったからね、君自身のデータを複製したんだよ。ゲームを作った当時の年齢の君をキャラクターとして作成して、クエストを設定した。君が、君を外に出すというクエストを」

 少年の顔を思い出す。彼は、やはり自分だったのか。僕自身のデータ。つまり、僕は、ぼくと対話していたのか。あんなにもイラだったのは、少年が僕の嫌いなぼくだったから。過去の自分に吐いた言葉が、今全て自分に返ってくる。

「ゲームデータの改ざんに、随分と時間がかかってしまった。しかし、成功して良かったよ。貴重なデータも取れたしね」

 その言葉に、感じていた嫌悪感は間違いでなかったと確信する。妙に軽い謝罪、淡々とした語り口。白衣の人物は、僕のことを研究材料か何かのようにしか見ていないのだろう。

「心地の良い夢から覚めて、君はこれから現実を生きることになる。五年のブランクがあるからね、以前より更に生きづらいかもしれない。でも、それを選んだのは君自身だ。なに、我々もサポートはさせてもらうよ。能力はあるんだ、頑張ってね」

 心のこもらない応援をぞんざいに投げかけて、白衣の人物は席を立った。
 
 そうか、夢か。あれは、全て自分が作り上げた幻。
 住み良い街。居心地のいいコミュニティ。気のいい仲間。懐いてくれる女の子。誰からも頼られる、強い自分。
 どうりで、嫌なことが一つもないはずだ。そんなもの、設定していないんだから。
 それでも確かに、幸せだったんだ。
 あの僕も、アキトも、秋人だったのだと、信じたい。
 思い出して、目頭が熱くなる。
 嗚咽が零れそうになり、それを誤魔化したくて何かを喋ろうとしたけど、言葉が出ない。

「あ、あ……ああ―――!」

 ずっと使っていなかった喉からは、引き攣った音が出た。