「下手をしたらこの大陸が消し飛ぶぞ?」
ネヴィアはタケルを非難するようににらんだ。魔石というのは膨大なエネルギーの集合体。それこそTNT火薬なんかよりずっとエネルギー密度は高いのだ。岩山全体の魔石を爆弾として使えば、核爆弾を超えるエネルギーが放出されるに違いない。
「大丈夫さ。僕の計算だと天崩滅魔なら百キロ以内が火の海になるだけさ。ハハッ!」
「ひゃっ、百キロ!?」
ネヴィアは思わず宙を仰いで頭を抱えた。タケルは魔王支配域全体を焼き払うつもりなのだ。それは恐竜を滅ぼした隕石の落下のようにこの星の全てを変えてしまうかもしれない。ネヴィアはその予測不能の暴力に気が遠くなりそうになった。
タケルはどんどん小さくなっていく岩山を見ながら言う。
「ねぇ、宇宙へ連れていってよ」
「う、宇宙?」
「ここに居たら焼け死んじゃうかもだし、その瞬間をしっかり見ておきたいのさ」
タケルはひと仕事やり終えたさっぱりとした顔で言った。
「……。ふぅ、しょうがないな……」
ネヴィアは大きく息をつくと、両手を高々と掲げ、二人をすっぽりと包む大きなシャボン玉状のシールドを張り、そのまま空へと高く持ち上げていった。
うっそうと茂る暗黒の森が眼下に広がり、それがどんどんと小さくなっていく。湖が光り、山脈が見え、雲を突き抜け、ぐんぐんと高度を上げていった。遠くの方にキラキラと金色に輝くものが飛んでいるのが見える。
「よしよし、天崩滅魔は順調に飛んでいるな」
青かった空は上空へと上がって行くとやがて暗くなり、眼下には霞んだ森が広がり、雲が流れているのが見える。宇宙へと足を踏み入れたのだ。
天崩滅魔も真っ黒な宇宙を背景にキラキラと輝きながら徐々に上昇をやめ、今度は魔王城めがけて放物線を描きながら急降下していく。
それは前代未聞のカタストロフィの襲来であり、まるでアポカリプスを知らせる鐘のように激しい衝撃波を放ちながら、爆破予定地点へと着実に近づいて行く。
◇
その頃、魔人たちは得体のしれないものの出現に大騒ぎしていた。
「激烈な魔力反応! 空からです!」
魔王軍の作戦本部で制服を着た若い魔人が、画面を見ながら青い顔で叫んだ。
「魔力反応? 何だそれは?」
将校らしき魔人は怪訝そうな顔で聞く。
「分かりません。ですがこのペースだと三分以内に魔王城に到達します!」
「さ、三分!? シールドを最大出力で張れ!」
「すでにやっています! ですが……こ、これは……、シールドを百枚張っても防げそうに……ありません! ひぃぃぃぃ!」
魔人はそう叫ぶと頭を抱え脱兎のごとく逃げ出していった。
「そっ、総員退避ーーーーッ!!」
魔王軍中心部は魔王城を囲むようにたくさんの石造りの建物で構成されていたが、全域に警報が鳴り響く。
魔人たちは慌てふためいて地下の防空壕へと駆けこんでいく。魔法部隊の一部は激しい輝きを放ちながら迫りくる天崩滅魔に向けて魔法を放っていたが、まさに焼け石に水。巨大な岩山に何が当たろうと進路一つ変えることはできなかった。
タケルは宇宙から魔王城めがけて落ちていく天崩滅魔をじっと見つめていた。自分ができる最高の攻撃、それは唯一無二の人類最強の爆弾を落とすこと。
人類を攻め滅ぼそうとやってくる不可解な魔物たち、その親玉である魔王は滅ぼさねばならない。悠長にドローンなどで戦っていたからクレアは死んでしまった。攻撃は一撃必殺、最初から全ての力をつぎ込むべきだったのだ。
キラキラと輝く天崩滅魔が薄雲を派手に突き抜け、いよいよ魔王城に迫っていく。
「クレア……、見てて……」
タケルはクレアのことを思い出しながら手を組み、その瞬間を待つ。かけがえのない大切な人、クレアを殺したにっくき魔人に天誅を下すのだ。天国からこの究極の攻撃を見ていて欲しい。タケルの頬に知らぬ間に涙が伝った。
ついにその瞬間がやってくる。
激烈な閃光が天も地も、全てを激しい光で覆った――――。
ぐわっ!
百キロ以上離れているタケルでも目を開けていられないほどの激しい輝き、火傷しそうな熱線が大陸全体を貫いた。
魔王軍の拠点は瞬時に蒸発し、大地はマグマのように溶けた。湖は沸騰し、森は一斉に燃え上がり、爆心地から百キロ圏内のものは全て炎に包まれていく。
それは世界が消えゆくかのような光景だった。かつて恐竜が支配していた地球を一瞬で焼き尽くした隕石のように、魔王の領土は灼熱の波に飲み込まれていった。
タケルの怒りは、神話に記される雷神の一撃をも超える猛威を振るい、人類史における比類なき狂気の行為として、恐怖とともに語り継がれることになるだろう。
ネヴィアはタケルを非難するようににらんだ。魔石というのは膨大なエネルギーの集合体。それこそTNT火薬なんかよりずっとエネルギー密度は高いのだ。岩山全体の魔石を爆弾として使えば、核爆弾を超えるエネルギーが放出されるに違いない。
「大丈夫さ。僕の計算だと天崩滅魔なら百キロ以内が火の海になるだけさ。ハハッ!」
「ひゃっ、百キロ!?」
ネヴィアは思わず宙を仰いで頭を抱えた。タケルは魔王支配域全体を焼き払うつもりなのだ。それは恐竜を滅ぼした隕石の落下のようにこの星の全てを変えてしまうかもしれない。ネヴィアはその予測不能の暴力に気が遠くなりそうになった。
タケルはどんどん小さくなっていく岩山を見ながら言う。
「ねぇ、宇宙へ連れていってよ」
「う、宇宙?」
「ここに居たら焼け死んじゃうかもだし、その瞬間をしっかり見ておきたいのさ」
タケルはひと仕事やり終えたさっぱりとした顔で言った。
「……。ふぅ、しょうがないな……」
ネヴィアは大きく息をつくと、両手を高々と掲げ、二人をすっぽりと包む大きなシャボン玉状のシールドを張り、そのまま空へと高く持ち上げていった。
うっそうと茂る暗黒の森が眼下に広がり、それがどんどんと小さくなっていく。湖が光り、山脈が見え、雲を突き抜け、ぐんぐんと高度を上げていった。遠くの方にキラキラと金色に輝くものが飛んでいるのが見える。
「よしよし、天崩滅魔は順調に飛んでいるな」
青かった空は上空へと上がって行くとやがて暗くなり、眼下には霞んだ森が広がり、雲が流れているのが見える。宇宙へと足を踏み入れたのだ。
天崩滅魔も真っ黒な宇宙を背景にキラキラと輝きながら徐々に上昇をやめ、今度は魔王城めがけて放物線を描きながら急降下していく。
それは前代未聞のカタストロフィの襲来であり、まるでアポカリプスを知らせる鐘のように激しい衝撃波を放ちながら、爆破予定地点へと着実に近づいて行く。
◇
その頃、魔人たちは得体のしれないものの出現に大騒ぎしていた。
「激烈な魔力反応! 空からです!」
魔王軍の作戦本部で制服を着た若い魔人が、画面を見ながら青い顔で叫んだ。
「魔力反応? 何だそれは?」
将校らしき魔人は怪訝そうな顔で聞く。
「分かりません。ですがこのペースだと三分以内に魔王城に到達します!」
「さ、三分!? シールドを最大出力で張れ!」
「すでにやっています! ですが……こ、これは……、シールドを百枚張っても防げそうに……ありません! ひぃぃぃぃ!」
魔人はそう叫ぶと頭を抱え脱兎のごとく逃げ出していった。
「そっ、総員退避ーーーーッ!!」
魔王軍中心部は魔王城を囲むようにたくさんの石造りの建物で構成されていたが、全域に警報が鳴り響く。
魔人たちは慌てふためいて地下の防空壕へと駆けこんでいく。魔法部隊の一部は激しい輝きを放ちながら迫りくる天崩滅魔に向けて魔法を放っていたが、まさに焼け石に水。巨大な岩山に何が当たろうと進路一つ変えることはできなかった。
タケルは宇宙から魔王城めがけて落ちていく天崩滅魔をじっと見つめていた。自分ができる最高の攻撃、それは唯一無二の人類最強の爆弾を落とすこと。
人類を攻め滅ぼそうとやってくる不可解な魔物たち、その親玉である魔王は滅ぼさねばならない。悠長にドローンなどで戦っていたからクレアは死んでしまった。攻撃は一撃必殺、最初から全ての力をつぎ込むべきだったのだ。
キラキラと輝く天崩滅魔が薄雲を派手に突き抜け、いよいよ魔王城に迫っていく。
「クレア……、見てて……」
タケルはクレアのことを思い出しながら手を組み、その瞬間を待つ。かけがえのない大切な人、クレアを殺したにっくき魔人に天誅を下すのだ。天国からこの究極の攻撃を見ていて欲しい。タケルの頬に知らぬ間に涙が伝った。
ついにその瞬間がやってくる。
激烈な閃光が天も地も、全てを激しい光で覆った――――。
ぐわっ!
百キロ以上離れているタケルでも目を開けていられないほどの激しい輝き、火傷しそうな熱線が大陸全体を貫いた。
魔王軍の拠点は瞬時に蒸発し、大地はマグマのように溶けた。湖は沸騰し、森は一斉に燃え上がり、爆心地から百キロ圏内のものは全て炎に包まれていく。
それは世界が消えゆくかのような光景だった。かつて恐竜が支配していた地球を一瞬で焼き尽くした隕石のように、魔王の領土は灼熱の波に飲み込まれていった。
タケルの怒りは、神話に記される雷神の一撃をも超える猛威を振るい、人類史における比類なき狂気の行為として、恐怖とともに語り継がれることになるだろう。