至近距離から放たれたファイヤーボールはワイバーンの背中に命中し、大爆発を起こした。

 激しい衝撃で画面がビリビリと乱れ、ドローンはクルクルと宙を舞い、ワイバーンの悲痛な叫びが森にこだまする。

 しかし、ファイヤーボール一発で倒せるような敵ではない。

 手負いになり、怒りに燃えるワイバーンは巨大な翼を激しくはばたかせ、クレアを追った。

 体勢を立て直し、全力で青空を目指すクレアだったが、パワーではワイバーンには敵わない。ワイバーンが追い付き、巨大な翼でドローンを打ち落とそうとドローン目がけて翼を振り下ろそうとした時だった。

 クレアは機体を無理によじらせて失速状態へと落とし込む。こうなるともう正常な飛行はできない。ゆらゆらと落ちてくる木の葉のように機体は不規則に揺らめいた。

 ググッ!?

 ワイバーンはその不規則な動きに翻弄され、狙いを絞りきれずに一瞬動きが止まってしまう。

 その隙をクレアは見逃さなかった。

 ファイヤー!!

 鮮やかな閃光がワイバーンの翼を包み、ズン! という衝撃波が視界を揺らす。

 うわぁ!

 自らも爆風を受け、キリモミ落下していくドローン。

 しかし、クレアはグルグル回る景色の中、冷静に体勢を立て直した。

 ググっと機首を上げると、そこには片翼を失ったワイバーンが悲痛な叫びを上げながら墜落していくではないか。

 ギュァァァァ!

 徐々に小さくなっていく悲鳴。最後にはズーン! という腹の底に響くような重低音が森に響き渡った。

「うぉぉぉぉぉ! 撃墜!! 撃墜王クレア爆誕!!」

 タケルは跳び上がると、クレアのところにまで走り、興奮気味にパンパンと背中を叩いた。
 
 クレアはドヤ顔でタケルを見る。そこには令嬢ではなく、テトリス大会で優勝した時の王者のオーラが輝いていた。

 クレアの【ゾーン】というスキルは戦闘職向けで、令嬢にはそれを生かすチャンスなどない。しかし、遠隔操縦であれば安全にその力を存分に発揮することができる。クレアは期せずして天職を手に入れた実感に、湧き上がる喜びを押さえきれない様子だった。

 タケルもまた、クレアという頼もしいアタッカーを得たことに喜びが隠せない。タケルはクレアの手を握り、何度も(うなず)く。その瞬間から二人は運命が共に繋がり、歴史に名を残すであろう『魔王打倒』に向け、固い絆で結ばれたことを感じていた。


        ◇


 無事、ワイバーンを撃墜はしたものの、魔力を散々使ってしまったため魔力は残り少なく、もはや帰還は不可能だった。

「くぅぅぅ……。無念だわ……。ダンボルちゃん一号はこのまま森の藻屑となってしまうんだわ……」

 クレアは訳の分からないことを言いながら肩を落とす。

「帰還が無理ならこの際、探索に残りの魔力を使おう。南南東へ飛んで」

「あいあいさー」

 クレアはやる気のない返事をして、ため息をついた。

「どうも魔力反応は直線状に分布しているんだよね。この先に二つの線が交わるところがあって、仮説が正しければ大きな魔力反応があると思うんだよ」

「へぇ、鉱山が見つかるといいですね」

「ただ、もう魔力の残りが少ないから経済速度でゆっくりお願い」

「ラジャー」

 クレアはノッチを戻すと徐々に高度を下げていった。

 森の木々のすぐ上空を飛んでいると鳥たちのさえずりが聞こえてくる。

「これを聞いているとのどかな森なんですけどねぇ……」

「ワイバーンが住んでるってだけで近寄りたくないんだよな」

 タケルは肩をすくめた。

 さらにしばらく飛んでいるといよいよ魔力切れになってくる。メーターはとっくにEMPTYを指しているのでいつ墜落してもおかしくない。

「タケルさん、まだですかぁ? もうダンボルちゃん一号はお(ねむ)の時間ですよ」

 クレアが渋い顔をしてタケルの様子をうかがう。

「うーん、おかしいなぁ……そろそろ反応があってもおかしくないんだけど……」

 その時だった、いきなり画面が激しく揺れ動いた。

「えっ……なにこれ!? 壊れた?」

 クレアは慌てて操縦しようとするが全くコントロールが効かない。

 照準用カメラで後ろを見ると、何かがいる。ピントの合わない中、何かの鋭いくちばしが段ボールをほじくっている。

「ワシだ! ワシに捕まってる! ヴァイパーウイング……かな?」

「えっ!? どう……するの……?」

 もはやファイヤーボールを撃つ魔力も残っていない今となっては打つ手はない。タケルは無力感に肩を落とし、悲しげに首を振る。

 ワイバーンさえ撃墜したドローン初号機が、今や魔物の餌食となり、無念の最期を迎えようとしている。クレアは深い悲しみに沈み、無念さにうなだれた。