「いいん……ですか? まだまだ子供ですよ?」
クレアの瞳には戸惑いが浮かぶ。
「ここまでしっかりしてたら年齢なんて関係ないって」
「し、しっかり? そ、そうかな……?」
可愛い口元に浮かぶ笑みに、タケルもにっこりと笑った。
「そうさ」
「ふふっ。やったぁ!」
クレアはタケルと重大な秘密を共有したことにワクワクが止まらなくなる。自分がタケルにとって一番頼れる存在なのだ。それは沈みかけていたクレアの心をパァッと明るく輝かせた。
それに、テトリスにしても電話機にしてもこの世界を大きく変える最先端のイノベーションをタケルと一緒にやっていける、それはクレアにとって夢の広がる大きなチャンスだった。
「明日、詳細は相談させてね」
「うん!」
クレアは嬉しそうにグラスをタケルのグラスに当てた。
「夢広がるOrangeにカンパーイ!」
「秘密サーバー管理者にカンパーイ!」
二人は笑顔で見つめあった。
いよいよOrangeが動き始める。異世界にITの力でイノベーションを起こし、莫大な金で人間界で確固たる地位を築き、魔王を蹂躙してやるのだとタケルはグッとこぶしを握った。
◇
カラン、カラン……。
その時新たな客が入ってくる。
タケルはチラッと見て思わず顔をそらしてしまった。それは自分を追放した冒険者パーティのリーダーと女魔導士だったのだ。
彼らはこのレストランにはほとんど来なかったのに、今日は運が悪かった。もちろん、顔を合わせたとしてもどうということはないのだが、気まずく感じてしまう。
しかし、タケルが目をそらしたのをリーダーは見逃さなかった。
「おーっと、役立たずくん、見ーっけ! うぃ~」
リーダーは大声を出しながら千鳥足で近づいてくる。どうやらかなり酔っているようでとてもまともな受け答えができそうにない。
タケルはウンザリしながらふぅとため息をつくと、リーダーをにらんだ。
「あー、そう言うの止めてください。僕はもう貴族なので、貴族侮辱罪は最悪死刑ですよ?」
「おい! 聞いたか? 貴族様だってよぉ!」
「キャハハハ! 何が貴族よ、このお馬鹿さん!」
SPが鋭い視線をこちらに寄せている。タケルは面倒な事になるのは避けたかったが、この馬鹿どもをどうしたらいいかが分からなかった。
「タケルさんはもう男爵ですよ? 今すぐ止めてください!」
クレアが憤慨して叫んだ。
「ハッ! こんな子供に何吹きこんでんだお前は!? ロリコンか?」
リーダーは力任せにテーブルの脚をガン! と蹴り飛ばす。シチューのポットが派手に転がり、床にぶちまかれた。
ピピーッ!
SPは警笛を鳴らしながら立ち上がり、拘束の魔道具を放つ。魔道具は空中に黄金の魔法陣を展開し、その中央から金色のリングが飛び出すとあっという間に二人を縛り上げた。
ぐはぁ! キャァ!
「貴族侮辱罪、現行犯で逮捕する!」
駆けつけるSP。
「き、貴族!?」「なんで貴族がこんなところに!?」「誰が貴族だって!?」
店内は騒然となる。
あぁぁぁぁ……。
タケルは目をつぶり宙を仰いだ。
やはりこんな店に来てはいけなかったのだ。貴族となった今では、もはや今までの暮らしは諦めざるを得ない。タケルは新たな生き方にシフトしていかねばならない現実を見せつけられ、がっくりと肩を落とした。
クレアは不安そうに眉をひそめ、そんなタケルの背中をやさしくさすっていた。
◇
数日後、タケルは郊外にある囚人収容施設へ来ていた――――。
「だ、男爵自らお越しいただかなくても……」
タケルが来たことを聞いた刑務所長は、冷汗を垂らしながら慌ててやってきた。
「お忙しいところ申し訳ない。先日収監された貴族侮辱罪の二人に面会を申し込みたいんだ」
「か、かしこまりました。準備をいたしますのでこちらでお待ちください」
刑務所長はそう言うと、慌てて官吏に指示を出す。
「特別面会室を準備しろ!」
「いや、あそこはほとんど使ってないので掃除が……」
「今すぐ掃除しろ!」
「あー、通常の面会室でいいですよ?」
気が引けたタケルは申し訳なさそうに言う。
「いやそんな、大丈夫でございます! こちらでお待ちください、今すぐ!」
そう言うと二人はあわてて出ていった。
貴族侮辱罪は殺人や放火と同じく重大犯罪に区分されている。侮辱しただけで死刑なんて日本人の感覚ではありえない話だったが、貴族たちの作った貴族の特権社会ではそうなってしまうのは止むをえない事だった。
特に、今回のように貴族だとしっかり説明したにもかかわらず乱暴狼藉を働いたケースでは、情状酌量の余地もなく死刑とされるのが通例だった。
とはいえ、根は日本人サラリーマンのタケルとしては、これで殺されてしまうのは寝覚めが悪い。恨みもあるし、いやな奴らだと思うが、殺したいとまでは思わないのだ。
助命嘆願をして犯罪奴隷刑にすることはできるが、犯罪奴隷になった方が死ぬよりいいかはタケルには分からない。
さてどうしたものかと、タケルはとりあえず話をして決めようと思っていた。
クレアの瞳には戸惑いが浮かぶ。
「ここまでしっかりしてたら年齢なんて関係ないって」
「し、しっかり? そ、そうかな……?」
可愛い口元に浮かぶ笑みに、タケルもにっこりと笑った。
「そうさ」
「ふふっ。やったぁ!」
クレアはタケルと重大な秘密を共有したことにワクワクが止まらなくなる。自分がタケルにとって一番頼れる存在なのだ。それは沈みかけていたクレアの心をパァッと明るく輝かせた。
それに、テトリスにしても電話機にしてもこの世界を大きく変える最先端のイノベーションをタケルと一緒にやっていける、それはクレアにとって夢の広がる大きなチャンスだった。
「明日、詳細は相談させてね」
「うん!」
クレアは嬉しそうにグラスをタケルのグラスに当てた。
「夢広がるOrangeにカンパーイ!」
「秘密サーバー管理者にカンパーイ!」
二人は笑顔で見つめあった。
いよいよOrangeが動き始める。異世界にITの力でイノベーションを起こし、莫大な金で人間界で確固たる地位を築き、魔王を蹂躙してやるのだとタケルはグッとこぶしを握った。
◇
カラン、カラン……。
その時新たな客が入ってくる。
タケルはチラッと見て思わず顔をそらしてしまった。それは自分を追放した冒険者パーティのリーダーと女魔導士だったのだ。
彼らはこのレストランにはほとんど来なかったのに、今日は運が悪かった。もちろん、顔を合わせたとしてもどうということはないのだが、気まずく感じてしまう。
しかし、タケルが目をそらしたのをリーダーは見逃さなかった。
「おーっと、役立たずくん、見ーっけ! うぃ~」
リーダーは大声を出しながら千鳥足で近づいてくる。どうやらかなり酔っているようでとてもまともな受け答えができそうにない。
タケルはウンザリしながらふぅとため息をつくと、リーダーをにらんだ。
「あー、そう言うの止めてください。僕はもう貴族なので、貴族侮辱罪は最悪死刑ですよ?」
「おい! 聞いたか? 貴族様だってよぉ!」
「キャハハハ! 何が貴族よ、このお馬鹿さん!」
SPが鋭い視線をこちらに寄せている。タケルは面倒な事になるのは避けたかったが、この馬鹿どもをどうしたらいいかが分からなかった。
「タケルさんはもう男爵ですよ? 今すぐ止めてください!」
クレアが憤慨して叫んだ。
「ハッ! こんな子供に何吹きこんでんだお前は!? ロリコンか?」
リーダーは力任せにテーブルの脚をガン! と蹴り飛ばす。シチューのポットが派手に転がり、床にぶちまかれた。
ピピーッ!
SPは警笛を鳴らしながら立ち上がり、拘束の魔道具を放つ。魔道具は空中に黄金の魔法陣を展開し、その中央から金色のリングが飛び出すとあっという間に二人を縛り上げた。
ぐはぁ! キャァ!
「貴族侮辱罪、現行犯で逮捕する!」
駆けつけるSP。
「き、貴族!?」「なんで貴族がこんなところに!?」「誰が貴族だって!?」
店内は騒然となる。
あぁぁぁぁ……。
タケルは目をつぶり宙を仰いだ。
やはりこんな店に来てはいけなかったのだ。貴族となった今では、もはや今までの暮らしは諦めざるを得ない。タケルは新たな生き方にシフトしていかねばならない現実を見せつけられ、がっくりと肩を落とした。
クレアは不安そうに眉をひそめ、そんなタケルの背中をやさしくさすっていた。
◇
数日後、タケルは郊外にある囚人収容施設へ来ていた――――。
「だ、男爵自らお越しいただかなくても……」
タケルが来たことを聞いた刑務所長は、冷汗を垂らしながら慌ててやってきた。
「お忙しいところ申し訳ない。先日収監された貴族侮辱罪の二人に面会を申し込みたいんだ」
「か、かしこまりました。準備をいたしますのでこちらでお待ちください」
刑務所長はそう言うと、慌てて官吏に指示を出す。
「特別面会室を準備しろ!」
「いや、あそこはほとんど使ってないので掃除が……」
「今すぐ掃除しろ!」
「あー、通常の面会室でいいですよ?」
気が引けたタケルは申し訳なさそうに言う。
「いやそんな、大丈夫でございます! こちらでお待ちください、今すぐ!」
そう言うと二人はあわてて出ていった。
貴族侮辱罪は殺人や放火と同じく重大犯罪に区分されている。侮辱しただけで死刑なんて日本人の感覚ではありえない話だったが、貴族たちの作った貴族の特権社会ではそうなってしまうのは止むをえない事だった。
特に、今回のように貴族だとしっかり説明したにもかかわらず乱暴狼藉を働いたケースでは、情状酌量の余地もなく死刑とされるのが通例だった。
とはいえ、根は日本人サラリーマンのタケルとしては、これで殺されてしまうのは寝覚めが悪い。恨みもあるし、いやな奴らだと思うが、殺したいとまでは思わないのだ。
助命嘆願をして犯罪奴隷刑にすることはできるが、犯罪奴隷になった方が死ぬよりいいかはタケルには分からない。
さてどうしたものかと、タケルはとりあえず話をして決めようと思っていた。