「どうだ? いい娘見つけたか?」
ジェラルドはタケルの耳元でささやき、パチッとウインクをする。
「い、いや、自分はまだそんな……」
「何を言ってるんだ……。貴族にとって婚姻関係は最優先事項! 家柄で絞り、候補を後で報告するように!」
ジェラルドはタケルの背中をパーンと叩き、自分は貴族たちに声をかけに行ってしまった。
「痛ってぇなぁ……」
タケルが叩かれたところをさすっていると、ぞろぞろと娘を連れた父親たちが集まってくる。
「男爵、ご挨拶よろしいかな?」
「は、はい! 喜んで!」
タケルは引きつった笑顔を見せながら挨拶をこなしていった。
起業家にとって外交は極めて重要なタスクである。しかし、この世界ではそれが結婚相手を見つけることに重きを置かれている。これにはジョブズもビックリではないだろうか?
タケルは結局何も食べられないまま、夜遅くまで親娘たちの対応に追われた。
◇
「タケルさん、お疲れ様っ!」
手伝いに来てくれていたクレアがタケルにアイスティーのグラスを手渡した。
「いやもう、外交っていうのは大変だなこれは……」
タケルは疲れ切った顔でアイスティーをゴクゴクと飲む。
「美しいご令嬢たちに囲まれてよかったですね! いい娘は見つかりましたか?」
クレアはジト目でタケルをにらむ。
「いい娘って……、まだ十八歳だよ、僕は?」
「あら? 普通はもう婚約者がいてもおかしくない歳ですけど?」
タケルの飲みほしたグラスを少し乱暴に奪ってトレーに乗せ、チラッとタケルを見るクレア。
「でもまぁ、みんないい家のご令嬢でね、孤児院あがりの自分にはちょっとなぁ……」
前世はサラリーマン、この世界に来ても孤児で冒険者だったタケルには、格式やしきたりの中で生きてきたご令嬢との生活はちょっとイメージできなかった。
「あら、私もいい家のご令嬢ですよ? 平民ですケド?」
「いい家のご令嬢は王族に向かって『これで決まりよ!』とかは言わないんだよなぁ……」
タケルはニヤリと笑ってクレアの顔をのぞきこむ。
「ゴメンなさいってばぁ……。だって何万人も応援してくれてたのよ?」
「はいはい、結果良ければすべて良し。それに僕は令嬢っぽくない方が気楽でいいしね」
「そう? 貴族のご令嬢より一緒に居たくなる? ふふふ……」
クレアはパァッと明るい笑顔でタケルを見た。
「そりゃぁもちろん! アバロンさんの窓口として、今後もごひいきにお願いしますよ」
「仕事の話じゃなくて! もうっ!」
クレアはタケルの背中をパシパシ叩いた。
「痛い、痛いって! ちょっと小腹空いちゃった。一軒付き合ってくれる?」
「えっ!? もちろん! ふふっ」
小躍りするクレア。
タケルはそんなクレアを微笑ましく見ながら、良い仲間に恵まれたことを感謝していた。
◇
タケルが帰る準備をしていると、黒いジャケットを着た男性二人が近づいてきた。
「男爵! ご挨拶が遅れて申し訳ありません。今日から我々が男爵の警護につきます。なるべく目立たぬように警護いたしますのでご容赦ください」
「あ、SPですね。殿下から話は聞いてます。でも、警護なんて……」
「何をおっしゃるんですか、昼間も殺されそうになったと聞きましたよ? しばらくは我々にお任せください」
そう言いながら二人はビシッと敬礼した。
「えっ!? 殺されそうになった!?」
横で聞いていたクレアは真っ青な顔で目を丸くする。
「あ、いや、まだ、男爵になる前だったからね。今は大丈夫だよ」
下手に心配させてもいけないので、タケルは慌ててフォローする。
「男爵がいなくなれば嬉しい勢力がいる以上、我々は粛々と警護します。煩わしいかと存じますがどうぞご理解を……」
SPたちはうやうやしく胸に手を当て、頭を下げた。
「わ、分かったよ……」
タケルはいつの間にかこんな警護がつく身分になってしまったことに、ウンザリしながらため息をついた。
ジェラルドはタケルの耳元でささやき、パチッとウインクをする。
「い、いや、自分はまだそんな……」
「何を言ってるんだ……。貴族にとって婚姻関係は最優先事項! 家柄で絞り、候補を後で報告するように!」
ジェラルドはタケルの背中をパーンと叩き、自分は貴族たちに声をかけに行ってしまった。
「痛ってぇなぁ……」
タケルが叩かれたところをさすっていると、ぞろぞろと娘を連れた父親たちが集まってくる。
「男爵、ご挨拶よろしいかな?」
「は、はい! 喜んで!」
タケルは引きつった笑顔を見せながら挨拶をこなしていった。
起業家にとって外交は極めて重要なタスクである。しかし、この世界ではそれが結婚相手を見つけることに重きを置かれている。これにはジョブズもビックリではないだろうか?
タケルは結局何も食べられないまま、夜遅くまで親娘たちの対応に追われた。
◇
「タケルさん、お疲れ様っ!」
手伝いに来てくれていたクレアがタケルにアイスティーのグラスを手渡した。
「いやもう、外交っていうのは大変だなこれは……」
タケルは疲れ切った顔でアイスティーをゴクゴクと飲む。
「美しいご令嬢たちに囲まれてよかったですね! いい娘は見つかりましたか?」
クレアはジト目でタケルをにらむ。
「いい娘って……、まだ十八歳だよ、僕は?」
「あら? 普通はもう婚約者がいてもおかしくない歳ですけど?」
タケルの飲みほしたグラスを少し乱暴に奪ってトレーに乗せ、チラッとタケルを見るクレア。
「でもまぁ、みんないい家のご令嬢でね、孤児院あがりの自分にはちょっとなぁ……」
前世はサラリーマン、この世界に来ても孤児で冒険者だったタケルには、格式やしきたりの中で生きてきたご令嬢との生活はちょっとイメージできなかった。
「あら、私もいい家のご令嬢ですよ? 平民ですケド?」
「いい家のご令嬢は王族に向かって『これで決まりよ!』とかは言わないんだよなぁ……」
タケルはニヤリと笑ってクレアの顔をのぞきこむ。
「ゴメンなさいってばぁ……。だって何万人も応援してくれてたのよ?」
「はいはい、結果良ければすべて良し。それに僕は令嬢っぽくない方が気楽でいいしね」
「そう? 貴族のご令嬢より一緒に居たくなる? ふふふ……」
クレアはパァッと明るい笑顔でタケルを見た。
「そりゃぁもちろん! アバロンさんの窓口として、今後もごひいきにお願いしますよ」
「仕事の話じゃなくて! もうっ!」
クレアはタケルの背中をパシパシ叩いた。
「痛い、痛いって! ちょっと小腹空いちゃった。一軒付き合ってくれる?」
「えっ!? もちろん! ふふっ」
小躍りするクレア。
タケルはそんなクレアを微笑ましく見ながら、良い仲間に恵まれたことを感謝していた。
◇
タケルが帰る準備をしていると、黒いジャケットを着た男性二人が近づいてきた。
「男爵! ご挨拶が遅れて申し訳ありません。今日から我々が男爵の警護につきます。なるべく目立たぬように警護いたしますのでご容赦ください」
「あ、SPですね。殿下から話は聞いてます。でも、警護なんて……」
「何をおっしゃるんですか、昼間も殺されそうになったと聞きましたよ? しばらくは我々にお任せください」
そう言いながら二人はビシッと敬礼した。
「えっ!? 殺されそうになった!?」
横で聞いていたクレアは真っ青な顔で目を丸くする。
「あ、いや、まだ、男爵になる前だったからね。今は大丈夫だよ」
下手に心配させてもいけないので、タケルは慌ててフォローする。
「男爵がいなくなれば嬉しい勢力がいる以上、我々は粛々と警護します。煩わしいかと存じますがどうぞご理解を……」
SPたちはうやうやしく胸に手を当て、頭を下げた。
「わ、分かったよ……」
タケルはいつの間にかこんな警護がつく身分になってしまったことに、ウンザリしながらため息をついた。