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種類はチワワだろうか。周囲を見回すと、光りと一緒に机の上をクルクルと回り始めた。それほど大きくもない机がガタガタと揺れ、僕は間一髪で湯呑と急須を避難させる。
「ほら、見えるだろう?」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう! 危うくお前の奥さんが入れてくれたお茶が台無しになるところだったじゃないか! やるならやるで場所を考えてくれ!」
「……君の感想はそれでいいのか?」
呆れた顔をするちゅう秋。しかし、僕にとってはそれよりもせっかくのお茶が台無しになる方が大問題だった。
彼はぴゅうと指笛を鳴らすと、具現化したチワワは耳を揺らしてテーブルから飛び降りた。縁側の方へと向かった彼らは、庭先でクルクルと回るように遊んでいる。元気なもんだ。
僕は湯呑みと急須を元の位置に戻すと、ゆっくりと腰掛ける。ちゅう秋はそれを見ると、小さく咳をした。
「やはり紙が小さいと限度があるな。……それはともかく、これで式神については分かっただろう?」
「確かに分かったけど……でも、実際僕には彼の式神が見えていない。マサキくんの式神が特別なんじゃないのか?」
「それも考えたが……恐らく違う。というか、そもそも同じ式神でも種類が違う」
「種類?」
「見てくれ」
僕はちゅう秋の視線を辿るように庭先を見る。そこには変わらず、チワワと二つの光りがクルクルと踊るように遊んでいる。……しかし、僕は気づいてしまった。
(動きが、違う?)
チワワは同じルートを何度も何度も回っている。吠えるタイミングも同じ。足を上げるタイミングだって。それに対して、二羽の動きは予測ができない。まるで──生きているかのよう。
「式神には種類があってね。生きたものを自分の遣いとして使う場合と、自分だけの従者を特殊な力で作って使う場合がある。俺のやったのは後者。そして──マサキくんがやっているのが、前者だ」
「──!」
「正確に言えば、彼らはマサキくんの記憶からできた魂を媒体にしてできた幽霊体なんだろう」
「ゆうれい、たい……」
彼の言葉を僕は繰り返し呟く。
(あんなに楽しそうに話していたのに、幽霊だなんて……)
「それは、式神とどう違うんだい?」
「違わないさ。区別としては同じ式神に変わりは無い。ただ──」
ちゅう秋の顔が曇る。僕は息を飲んだ。
……僕は陰陽師の中のことはよく知らない。もしマサキくんのしていることがタブーであるなら、それを擁護することは出来ないし、ちゅう秋に話してしまった罪悪感だって覚えてしまうかもしれない。
種類はチワワだろうか。周囲を見回すと、光りと一緒に机の上をクルクルと回り始めた。それほど大きくもない机がガタガタと揺れ、僕は間一髪で湯呑と急須を避難させる。
「ほら、見えるだろう?」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう! 危うくお前の奥さんが入れてくれたお茶が台無しになるところだったじゃないか! やるならやるで場所を考えてくれ!」
「……君の感想はそれでいいのか?」
呆れた顔をするちゅう秋。しかし、僕にとってはそれよりもせっかくのお茶が台無しになる方が大問題だった。
彼はぴゅうと指笛を鳴らすと、具現化したチワワは耳を揺らしてテーブルから飛び降りた。縁側の方へと向かった彼らは、庭先でクルクルと回るように遊んでいる。元気なもんだ。
僕は湯呑みと急須を元の位置に戻すと、ゆっくりと腰掛ける。ちゅう秋はそれを見ると、小さく咳をした。
「やはり紙が小さいと限度があるな。……それはともかく、これで式神については分かっただろう?」
「確かに分かったけど……でも、実際僕には彼の式神が見えていない。マサキくんの式神が特別なんじゃないのか?」
「それも考えたが……恐らく違う。というか、そもそも同じ式神でも種類が違う」
「種類?」
「見てくれ」
僕はちゅう秋の視線を辿るように庭先を見る。そこには変わらず、チワワと二つの光りがクルクルと踊るように遊んでいる。……しかし、僕は気づいてしまった。
(動きが、違う?)
チワワは同じルートを何度も何度も回っている。吠えるタイミングも同じ。足を上げるタイミングだって。それに対して、二羽の動きは予測ができない。まるで──生きているかのよう。
「式神には種類があってね。生きたものを自分の遣いとして使う場合と、自分だけの従者を特殊な力で作って使う場合がある。俺のやったのは後者。そして──マサキくんがやっているのが、前者だ」
「──!」
「正確に言えば、彼らはマサキくんの記憶からできた魂を媒体にしてできた幽霊体なんだろう」
「ゆうれい、たい……」
彼の言葉を僕は繰り返し呟く。
(あんなに楽しそうに話していたのに、幽霊だなんて……)
「それは、式神とどう違うんだい?」
「違わないさ。区別としては同じ式神に変わりは無い。ただ──」
ちゅう秋の顔が曇る。僕は息を飲んだ。
……僕は陰陽師の中のことはよく知らない。もしマサキくんのしていることがタブーであるなら、それを擁護することは出来ないし、ちゅう秋に話してしまった罪悪感だって覚えてしまうかもしれない。