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『ネザサから聞いているかもしれませんが、俺は少し前から修行の旅に出ることにしました。行先は言えないですけど、まあまあ上手くやっていると思います。修行の成果も出てますよ! 天才なんで!

だから、心配とかしなくても大丈夫です。箕輪会長も、俺への依頼の報酬をたんまり溜め込んでくれてたみたいで……そんなことしなくても、俺ならうまくやっていけるって知ってるくせに。まあ、お陰で俺は助かってますけど』

「ふふっ、相変わらず素直じゃないなぁ」

書かれている文字が、少しだけ歪んでいる。力が入っているのか、筆圧が強くなっているのを見るに、どうやら彼自身少しは思うところがあるらしい。

「……彼女にも、直接渡せばいいのに」

『ネザサへ』と書かれた手紙を見て、僕は苦笑いを浮かべる。こちら側も、彼は素直さを置いてきてしまったらしい。手紙に視線を落とせば、町中で見かけた猫の事や一緒にいるちうやガーの事が当たり障りなく書かれている。

そして最後。隠すように彼は『追伸。ネザサをよろしくお願いします』とさっきよりも小さな文字で書かれている。手紙を閉じれば、二羽と戯れていたちゅう秋が同時に顔を上げた。

「読み終わたのかい?」

「ああ」

僕は頷くと、手紙を封筒へと戻す。もう一通の物と隣り合わせに置きつつ、僕はちゅう秋に視線を向けた。彼は手に乗る光りに視線を向けると優しく微笑んでいる。

「……そう言えば、ちゅう秋はその子たちが見えるのかい?」

「ん? ああ、もちろん」

「へぇ」

「君は見えないのかい?」

ちゅう秋の問いかけに、僕は声を詰まらせた。視線を外せば、ちゅう秋が苦笑いしたのがわかった。

「そんな顔しなくてもいいだろう。バカにしたりなんかしないさ」

「……それは分かっているよ。でも僕にだってプライドというものがあるんだ。自分だけ見えない、なんて情けないだろう」

「そういうものかい?」

「そういうものだよ」

首を傾げるちゅう秋に頷けば、彼は「へぇ」なんて呟いた。……まあ、昔から大抵の事を苦労なく出来た彼にそんなことを理解しろという方が難しいのだろうが。

「それにしても、この子達は随分と大切にされているんだな」

「あ、ああ。マサキくん……この式神の術者が昔飼っていた九官鳥をイメージしているそうだよ。ちうは元気でいたずらっ子、ガーは……なんだったかな」

「ふむ。……体が弱かった、とかかな?」

「ああ、そうだった! そうだよ、よく分かったな」

「まあね」