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目の前を通る、二つの光。懐かしい感覚を齎すその光をじっと見つめていれば、ふと手元に二つの欠片が落ちてきた。

輝いた羽根のようなそれは、ひらひらと僕の手元に落ちてくると、手のひらの上で二通の手紙の形に姿を変える。

「それは……」

「マサキくんからだ」

白い便箋に、少し荒っぽい字で書かれた宛名は『絵を買ったおじさんへ』と『ネザサへ』の二種類。……片方はわかりやすく彼女の名前が書かれているが、もう一通は……もしかして僕宛だろうか。

「『絵を買ったおじさん』か。その通りだな」

「言わないでくれ……!」

楽しそうに笑うちゅう秋に、僕は内心唸りながら言葉を返す。

(これでもまだ三十代前半なのに!)

確かに彼等十代からしたらおじさんかもしれないが、多少は贔屓してくれてもいいだろう。

そんな文句を心の中で告げれば、光の一つが手元に止まる。マサキくんは確か、九官鳥だと言っていたけど重さも生きている温かさも感じない。

――けれど、手紙に近づいた光が鳴いたような気がして、僕はつい光に向かって声をかけてしまった。

「読んでもいいのかい?」

問い掛ければ、もう一度鳴くような仕草。じっと向けられる視線に、僕はちゅう秋を見た。

「悪い。はさみかカッターを貸してくれないか?」

「ああ。ちょっと待っていてくれ」

ちゅう秋は直ぐに席を立った。少しして持って来られたはさみを受け取り、僕は『絵を買ったおじさんへ』と書かれた手紙を開ける。

中に入っていたのは、ネザサよりも少し豪快な字が並ぶ便箋だった。

『前略。あれから数か月が経ちますが、元気にしていますか? 俺はそこそこ元気です。まあ、天才陰陽師である俺だから当然ですね! ところで、この前町中の書店で偶然あなたの本を見かけました。ネザサの絵をちゃんと使ってくれて、ありがとうございます。中身はまだ見てませんけど、本屋に来ていた人たちの評判は良かったんで、めげずに頑張ってください』

「はははっ、マサキくんらしい」

手紙の字を読みながら、僕は声を上げて笑う。ちゅう秋は僕が手紙を読んでいるのを邪魔する気はないようで、静かに光と戯れながらお茶を飲んでいる。少し光の弱い方と仲が良くなっているようだ。

僕は手紙の続きに目を落とす。