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それは彼女とのやりとりによってより明確に、正確に自分に現実を突きつける。

ネザサはあれから身の安全が保証されるようになり、再び学校に通えるようになったらしい。学校でもネザサの絵は高く評価され、絵画の賞はほぼ彼女のものなのだとか。校長にも褒められ、先生にも褒められたと手紙の中のネザサは嬉しそうに語っていた。

(彼女の才能は、本物だ)

素晴らしい作品が次々と生まれるこの世界。その中でも、速筆であるネザサの評価はうなぎ登りだ。

偶然とはいえ、彼女が有名になる前に関わりを持てたのは幸運だが、それに本の中身伴っているかと言われれば……何とも評価しにくいのが本音だった。

「なるほど。君の言いたいことはよくわかる。……それにしても、まさかそんなに多くのコンテストが開催されているとは。知らなかったな」

「僕もだ。昔は絵を描いていたとはいえ、コンテストに出せるほどの実力は、残念ながら僕にはなかったからね。……彼女の絵を見ていると、嫉妬するのも恐れ多くなる」

僕が諦観を含めてそう告げれば、ちゅう秋は僕をじっと見つめた。向けられる視線に映るのは、同情でも批判でもなかった。

(……そんな目で見ないでおくれよ)

彼の瞳に自分の憐れな姿が映っているようで、つい視線を外してしまう。しかし、向けられた視線はいつまでも僕を見つめており、僕は逃げられないことを悟った。小さくため息を吐けば、彼の視線が僅かに緩くなる。……彼は何時から僕を甘やかすようになったんだろうか。

「……本当は少しも嫉妬をしていない、というと嘘になる。でも、尊敬しているのも本当だよ」

「分かっているさ。君が自信を持てない理由も。だが、多くの人の手に渡っているということは、多くの人に作品を見てもらえる絶好の機会だ。これを逃す手はないだろう」

「それは……そうなんだけど」

渋る僕に、彼は心底不思議そうに首を傾げた。……そんな純粋な目でこっちを見ないで欲しい。

利益に貪欲な彼は、この機会を使おうとしない自分が余程不思議に思えるのだろう。……僕だって、本来ならそうするべきだと思っている。でも、できるかどうかはまた話が違うだろう。

やはり自分は彼女の絵を使うには足りない存在なのだろう。そう思った時だった。不意に目の前を光が横切った。



「!」

「ま、待ってくれ、ちゅう秋!」

反射的に印を組もうとしたちゅう秋に、僕は声を上げる。