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『拝啓。突然のご連絡、申し訳ございません。本日付けで絵が完成いたしましたので、お送りさせていただきます。お求めになっている絵に添うことことが出来ていれば嬉しいです』
拙い文面に、僕は妻と顔を合わせる。そして、どちらともなく小さく笑みを吹き出した。
「ふふっ。可愛い字ですね」
「ああ、彼女らしい」
「ええ」
手紙なんて書きなれていないのだろう。揺れる線と、大きさの疎らな文字に、何だか微笑ましい気持ちが込み上げてくる。僕は静かに手紙の続きに視線を落とした。
『この度の絵ですが、マサキからの助言を受け、番にしてお送りしております。片方を『華絵 彼岸花』といい、もう片方を――』
「『華絵 彼岸桜』……」
「彼岸桜ですか。すごくいい名前ですね」
「ああ」
秋の彼岸を司る、彼岸花。春の彼岸を司る、彼岸桜。
対局のような存在であるからこそ、生み出される奇跡のような世界に、僕は喉の奥が震えるのを感じる。――やはり、彼女に頼んでよかった。
僕は絵画を抱えると、妻を見つめた。表情が無意識に笑みを浮かべる。心に広がるのは――言葉にできないほどの高揚感だった。
「これなら表紙として申し分ないな!」
「ふふっ、それならよかったです」
――もし、この絵を表紙にした本が世に出たなら。
きっとこの世界の芸術は一歩足を進める事だろう。そして、沢山の人間の世界を広げ、強く惹き付ける事だろう。
(表紙負けしないように、僕も頑張らないといけないな!)
今、執筆を重ねている作品を頭に思い描き、僕は気合いを入れるように息を吸い込んだ。今すぐにでも筆を握りたいと思っていれば、ふと背中を軽く叩かれるのを感じた。振り返れば、妻が読み終わったはずの文を手に僕の背中を叩いていた。
どうしたのかと首を傾げれば、彼女は再び文を差し出してくる。
「あなた、文に続きが」
「え?」
僕は妻の言葉に誘われるがまま、文を再び手に取った。
さっきは高揚感で気づかなかったが、どうやら手紙の内容には続きがあったらしい。僕は腰を落ち着けると、再び文に目を通した。
『追伸。おじさんの体調ですが、まだまだ安定しないまま……不安な日々を過ごしております。ですが『華絵 彼岸花』の代わりに渡した『華絵 SAKURA』を見た時は、とても喜んでくれました! クラブでの活動も再開したようで、最近は少しずつ元気になってきているようにも見えます』
「そうか。それはよかった」
「ええ。よかったですね」
僕は小さく呟いて、あの時の事を思い出す。
『拝啓。突然のご連絡、申し訳ございません。本日付けで絵が完成いたしましたので、お送りさせていただきます。お求めになっている絵に添うことことが出来ていれば嬉しいです』
拙い文面に、僕は妻と顔を合わせる。そして、どちらともなく小さく笑みを吹き出した。
「ふふっ。可愛い字ですね」
「ああ、彼女らしい」
「ええ」
手紙なんて書きなれていないのだろう。揺れる線と、大きさの疎らな文字に、何だか微笑ましい気持ちが込み上げてくる。僕は静かに手紙の続きに視線を落とした。
『この度の絵ですが、マサキからの助言を受け、番にしてお送りしております。片方を『華絵 彼岸花』といい、もう片方を――』
「『華絵 彼岸桜』……」
「彼岸桜ですか。すごくいい名前ですね」
「ああ」
秋の彼岸を司る、彼岸花。春の彼岸を司る、彼岸桜。
対局のような存在であるからこそ、生み出される奇跡のような世界に、僕は喉の奥が震えるのを感じる。――やはり、彼女に頼んでよかった。
僕は絵画を抱えると、妻を見つめた。表情が無意識に笑みを浮かべる。心に広がるのは――言葉にできないほどの高揚感だった。
「これなら表紙として申し分ないな!」
「ふふっ、それならよかったです」
――もし、この絵を表紙にした本が世に出たなら。
きっとこの世界の芸術は一歩足を進める事だろう。そして、沢山の人間の世界を広げ、強く惹き付ける事だろう。
(表紙負けしないように、僕も頑張らないといけないな!)
今、執筆を重ねている作品を頭に思い描き、僕は気合いを入れるように息を吸い込んだ。今すぐにでも筆を握りたいと思っていれば、ふと背中を軽く叩かれるのを感じた。振り返れば、妻が読み終わったはずの文を手に僕の背中を叩いていた。
どうしたのかと首を傾げれば、彼女は再び文を差し出してくる。
「あなた、文に続きが」
「え?」
僕は妻の言葉に誘われるがまま、文を再び手に取った。
さっきは高揚感で気づかなかったが、どうやら手紙の内容には続きがあったらしい。僕は腰を落ち着けると、再び文に目を通した。
『追伸。おじさんの体調ですが、まだまだ安定しないまま……不安な日々を過ごしております。ですが『華絵 彼岸花』の代わりに渡した『華絵 SAKURA』を見た時は、とても喜んでくれました! クラブでの活動も再開したようで、最近は少しずつ元気になってきているようにも見えます』
「そうか。それはよかった」
「ええ。よかったですね」
僕は小さく呟いて、あの時の事を思い出す。