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「それが――マサキさんとネザサさんのお名前が書いてあります」

「!!」

僕ははっとして立ち上がった。連絡先を渡した当時の事を思い出す。

(まさか……!)

つい、最初は電話がくるものだと思っていたが、どうやら彼等の中には電話という手段ではなく文という手段の方が身近だったらしい。荷物が一緒に届いている、というのが気になるが、恐らくそれは――――。

「すまない、ちゅう秋! 急用ができたから、僕はこれで失礼するよ!」

「おや。思ったより早かったじゃないか」

「ああ。ちゃんと確認したら、君にも見せてあげよう」



――本物の、『華絵 彼岸花』を。



「きっと、君も腰を抜かすはずだ」

「ふふっ。それは楽しみだ」

上機嫌に笑みを浮かべるちゅう秋に、僕はにやりと笑みを返し、彼の家から飛び出した。



僕はその足で、自分の家へと走る。

玄関を開け放ち、駆け込むように部屋の中へと入れば、荷物を半分ほど開封した妻が振り返った。

「すまない! 待たせた!」

「! あなた……!」

居間に広げられた荷物。縁側から差し込む夕日に照らされたのは、――二つの絵画だった。

額縁が擦れないように静かに取り出す。何度も見た『華絵 彼岸花』に息を飲み、もう一つの絵画を手にした。壊れないようにそうっと抜き出した絵画は――最早一つの世界だった。

「すごいな……」

「ええ」

鮮やかな赤い花を付ける、桜の木。その下に咲く、無数の彼岸花。

二つの季節が融合し、寄り添うようにして一つの世界を表現している。『華絵 彼岸花』が圧倒的な赤で彩られてるのに比べ、桜と彼岸花が共存している世界は、圧倒的な儚さを感じる絵になっている。咲く季節としては真逆の花が、一枚の紙に書かれているのが、余計そう思わせるのだろう。

(あの幼さで、これほどまでの絵を……)

――これは確かに、才能だ。

紛れもない、彼女だけの才。誰にも真似などできないのだろう。……それはきっと、彼女の味方にも敵にもなる。

(……将来が楽しみだな)

「あなた。これが一緒に来た文です」

「あ、ああ。ありがとう」

絵の迫力に圧倒されている僕に、妻が文を差し出す。二つ折にされていただけのそれは、妻曰く、荷物をまとめる紐と段ボールの間に差し込むようにしてあったのだとか。

(だから荷物が半分開けられていたのか)

僕は折られていた紙をゆっくりと開く。所々赤いシミが付いてるのは、きっと赤い花を描いた際の名残なのだろう。紙が柔い半紙で手紙が書かれているのが、その証拠だ。